追放される俺を憧れの魔法使いが拷問しようとしているらしいんだけど多分気のせいだと思いたい。やっと再会した人がストーカー気味なんて嘘だよな!?

迷路を跳ぶ狐

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11.まさかこんなところにまで

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 俺は、拘束されたまま、ウィンルゼンド様に尋ねた。

「そ、それよりっ……今っ……何時ですか!?」
「……えーっと……ああ……もうすぐ日付が変わるね」
「ええっ!??」

 嘘だろ……今日中に、ここを出なきゃならないのに。

 そういう約束で、俺はあの城を出てきたんだ。本当は町を出るまで見張りが一緒に来る予定だったんだけど、そんなのがいたら、ここに挨拶に来る時に邪魔だ。
 だから今日中にここを出る約束をしてきたのに!

 約束を破れば追っ手が来る。俺が街を出ずにここを訪れたことがバレれば、ウィンルゼンド様にまで迷惑をかけるかもしれない。

 冷静に戻り、今の現状を悟って、俺の体に力が戻った。

 行かなきゃっ……最後まで、ウィンルゼンド様に迷惑かけたくない!

「す、すみませんっ……ウィンルゼンド様っ…………お願いです! 鎖を外してください!!」
「だめ」
「ウィンルゼンド様っ……!」

 彼は俺を頑なだって言うけど、それはウィンルゼンド様だってそうだ……

 仕方がない……外してくれないなら外すまで!!

 俺は、腕から俺を拘束する枷に魔力を注ぎ始めた。

 それにウィンルゼンド様はすぐに気づいたようだ。

「フィリレジレク……無茶をしないほうがいい……」
「……ウィンルゼンド様…………ごめんなさい……俺、行かなきゃっ…………い、いつか必ず、戻ってきますっ…………! あなたに……また会いにっ……!」
「だめ。逃がさないよ」
「俺、絶対に戻ってきます! お詫びと……お礼をしにっ……だから、今はっ……ごめんなさい!」

 俺は叫んで、俺を拘束する鎖に魔法をかけた。すると破裂するように煙が飛び散って、爆風が吹く。風は俺の鎖を引きちぎり、俺は魔力を纏い窓をすり抜け、屋敷から飛び出した。

 屋敷の外は真っ暗。急がなくては。

 俺にできる限界の速さで上空まで飛ぶ。すでにウィンルゼンド様の屋敷は遥か下。

 …………申し訳ございません……ウィンルゼンド様……この埋め合わせは、必ずします。







 必死に飛んで、なんとか街から飛び出した俺は、深夜に小さな隣町についていた。

 な、なんとかあの町を出られた…………

 さすがにあれだけのスピードで飛ぶと疲れる……

 たどり着いた街の川辺の通りを、一人でトボトボ歩く。

 もう真夜中だ。人通りは全くない。暗い夜道に、俺が一人で歩いている。

 ……さっきまでウィンルゼンド様と一緒にいたのに……寂しいな……

 突然飛び出して行ったりして、ウィンルゼンド様もびっくりしただろう。話の途中だったし……

 変に隠さないで、先に全部話せばよかったのだろうか。約束通り町を出ないと、追っ手が来て俺は反逆者になるって。だけど、そんなこと言ったら、ウィンルゼンド様だって驚くだろうし……また気を使わせてしまうかもしれない。

 しかし……先ほど好きだと言われたことが、まだうやむやになったままだっ……!!

 返事くらいしてから飛んでくればよかったっ……!!

 しかし、返事……というのは、どうすればいいのだろう……

 好きだと言われれば、俺だって好きだが、では恋人になれるのかと言ったら、それは…………

 そもそも、部隊でもずっと下っ端で、没落貴族だった俺からしたら、ウィンルゼンド様は雲の上の人。王族や、名だたる有力貴族と肩を並べる人だ。

 そんな人と、恋人……? 俺が?? そんなの、ウィンルゼンド様の一族だって、許しはしない。
 すでに貴族とも言えない俺だが、それでも一応元貴族。貴族としての教育は受けた。ウィンルゼンド様のような方には、約束された将来がある。俺のような道端に落ちた屑のようなものに構っていてはいけないんだ。

 だから、恋人にはなれない。

 では、気持ちはどうなんだと言われたら…………ずっと憧れていた人……だ。そうとしか考えないようにしてきたからな……
 下っ端としての仕事もろくにできず、左遷されていく俺が、大貴族の恋人だって? 身の程知らずにも程があるだろ!

 だが、ウィンルゼンド様は真面目な人だ。あんなことを言い出すのは、きっと真剣に俺のことを考えてくださっているからだ。伝えてくれたのも、深く考えてそうしたのだろう。だったら俺も、それに応えなくては。ウィンルゼンド様に対する今の思いを、詳細に、かつ丁寧に伝えたい。

 だが……考えれば考えるほど分からないっ……

 憧れているし尊敬している。しかし、恋人にはなれない。だが、護衛としてはそばに置いてほしい。できればずっと!

 ……あれ?

 これは結構わがままなのではないか?

 くそっ……俺は、こんな奴だったのか?

 頭が痛くなってきた……

 とにかく、今日はどこかの宿に泊まって、明日になったら考えよう。それと、王都に向けて出発もしないと……

 そんなことを考えながら歩いていたら、正面から、人の声がした。

「フィリレジレク」
「え!? わっ…………ウィンルゼンド様っ……!??」

 びっくりした……

 顔を上げたら、暗い通りに微かな街灯の光に照らされて、ウィンルゼンド様が立っている。

 え?!?! え……!? ほ、本物!!??

「な、なんでここに…………」
「……言っただろ? 俺に敵う奴はいないのに、俺から逃げようなんて、命知らずなんだよ」
「…………」

 俺は、最大限の速さで飛んだのに……

 追ってきたんだ……

 ウィンルゼンド様は俺に近づいてきて、にっこり微笑んだ。

「逃がさないよ、フィリレジレク。明日は一緒に王都へ行こうね」

 一緒に……王都に? 逃がさない??

 そのために、俺をわざわざ追いかけてきたのか……? こんなところまで……?

 俺、本気で飛んだのに、さすがはウィンルゼンド様……全く敵わない。

 でも、まさか、こんなところまで追ってくるとは思わなかった……
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