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1.無駄だったのかしら
しおりを挟む自分が不快を撒き散らす者だということには、もうずっと前から気づいていた。
子爵家に生まれた私、フィリレデリファ・レフイリイスは、幼少の頃より、両親には可愛げがない、得体が知れないなどと言われ、頭を撫でてもらえる他の兄弟たちを羨ましいと思いながら、遠くで眺めるばかりだった。
成長するうちに、私には秀でた魔力もなければ他の才能もないと見限られ、唯一身につけることができた武術で、兄弟たちを守る魔法使いとして育てられた。
その頃からだろうか……
家族は私を、自分達を守る従者として見るようになり、私は家族の一員ではなく、使用人として扱われるようになった。
だから、王子殿下との婚約が決まった時は嬉しかった。
私にもやっと、居場所と呼べるものができたのだと思った。
しかしその反面、怖さも感じていた。もしも殿下を不快にさせるようなことがあったらどうしようと。
だから殿下のおそばにいるために必死になって勉強した。この国のことも、魔法のことも。
そして、武術の稽古にもそれまで以上に取り組んだ。
至らぬところがあることは分かっている。だからこそ、それを埋め合わせることができるようにと真剣に取り組んできたつもりだった。
婚約が決まってしばらくして、国王陛下が魔物との戦いで怪我をしてしばらく休養を取ることになり、第一王子殿下と第二王子殿下が国政にあたることになった。そして、その弟の四人の王子殿下が、魔物から国を守るため、辺境の地に派遣された。優秀な魔法使いと言われていたグラウワウル殿下は、最も危険な、魔物が溢れている地の砦を守ることになった。
そこは、私たちの国の外れにある、切り立った谷が続く地域。王家が管理する地と、複数の領主たちが管理する領地の間にあり、昔から魔物が多い地域だ。
王家は領主たちの一族と協力し、この地域の安全を保ってきた。ここで何か起こった時には、協力して魔物退治に出ると決められている。
そんな重要な場所を任されることは、殿下にとっても名誉なことだ。
私は殿下と共に、魔物の溢れる地のすぐそばの街にある屋敷に住むことになった。
しかし……もうそれも終わりのようだ……
今朝早くに、私の部屋のドアがドンドンと激しく叩かれた。
そして返事をする間もなく、婚約者のグラウワウル殿下が飛び込んでくる。
こんなに朝早くから何の用かしら……それも、あんなに血相を変えて。
どうやら何かあったご様子。殿下は怒りに顔を歪ませ、私の方に詰め寄ってきた。
「っ……お前っ……! どういうつもりだ!!」
「どういう? 一体なんのことです?」
「なんのことだと!? 今朝早く、砦の方から連絡があったっ……! お前から、領主の部隊を招き入れるよう指示を受けたと!」
「あら……いけませんでした?」
私は首を傾げた。
王子殿下がおっしゃっているのは、先日の魔物との戦いで力を貸してくださった領主、クウォリアス様の部隊の方々に、私が回復の魔法の薬をお渡しする約束をした件についてでしょう。
けれど、それを咎められるとは思っていなかった。魔物が増加した時に協力することは、王家と周辺の領主たちが取り決めたことであるはずだ。
「彼らは、魔物が溢れていた谷の魔物討伐を請け負ってくれたのです。回復の魔法の杖を渡すくらい、当然ではありませんか」
「馬鹿を言うなっっ!!」
彼は、右手を振り上げた。パンっと音がして、私の頬がぶたれる。
私の周りにいた侍女たちから悲鳴が上がり、王子の周りの従者たちも驚いていた。
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