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5.隙をつけるとでも?
しおりを挟むこうして私は、部隊の魔物討伐を遅らせた罪を償うという名目で、クウォリアス様に引き渡されることになった。手にも足にも枷をされて。
グラウワウル王子との婚約は当然破棄、私の家族には、私がこうなることが伝えられたらしいが、そんな女は知らないと、冷たい返事が返ってきただけだったらしい。どうやらあっさり勘当されたようだ。
なんだかもう怒りよりも自分の馬鹿さ加減に嫌気が差してくる……なんで私、こんな王子の婚約者になったのかしら。
枷をされ、まるで奴隷のような姿になった私は、逃げないようにと、出発までの間、鍵のかかった部屋に閉じ込められることになった。ここは普段物置として使われている部屋で、もちろん、椅子なんかもまるでない。
私は、魔法の武器や道具がしまわれた木箱が積まれた部屋の中央に立ったまま、じっとしていた。足枷までつけられているので、逃げることなどできないのに、部屋に鍵までかけられて、なんだか牢にでも入れられている気になってきた。
ずいぶん丁寧に監禁してくださること……
肩を落としていると、こんこんっとドアをノックする音がした。
誰かしら……? 今更私に会いにくる方なんて、いらっしゃるはずがないのに。
返事をせずにいると、部屋の鍵を開ける音がした。
入ってきたのは、ベネディクシア様だった。
彼女は、部屋の中にぽつんと立つ私を見つけると、ゆっくりと近づいてくる。
「フィリレデリファ様……よかった……まだ、売られてはいなかったのですね……」
「売られる? なんのことですか?」
「あ……申し訳ございません…………そのような格好をなさっているので、奴隷の類と間違えてしまいましたわ……そんなはずがないのに……」
馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、何を言っているのか……
私が彼女を警戒して距離を取ろうとすると、彼女は突然私の腕を取り、私を抱きしめた。
「きゃっ……」
なんなの……彼女にそんなことをされる謂れなどありません。勝手に抱きつかれても、気色悪いだけですわ!
けれど彼女は、平然と言う。
「フィリレデリファ様……今なら、助けてあげられますわ……」
「は?」
「あなたの魔力はあった方がいいのです。あなたが、婚約者である王子殿下を蔑ろにするような冷酷な方であったとしても、私の国の魔法使いとして、一度は迎えられている方ですもの。最後まで私たちが責任を持つ義務がありますわ……」
「……随分とお優しい気遣いですこと。けれど私は、そのようなことをしていただかなくても結構ですのよ?」
「そのような強がりをおっしゃらないでください……このままではあなたは、あの男に玩弄物として差し出されてしまいますのよ? きっと、恐ろしい目に遭わされてしまいますわ……なぶり殺しにされてしまうかもしれません。そんなの、嫌でしょう? どうでしょう? 私があなたを助けてさしあげますわ……」
「…………」
気味が悪くて、彼女から遠ざかろうとしたけれど、彼女は強く私を抱きしめたまま。
どうされたのかしら……ベネディクシア様は。今まで一度だって、そんなことをおっしゃったことはなかったのに……正直、大きなお世話ですわ。
「……ベネディクシア様。なぜ、あなたがそんなことをおっしゃるのです? 私、理解できませんわ」
「フィリレデリファ様…………あなたのその魔法は、簡単に失うにはあまりに惜しいものですわ。私は、あなたのこれまでの功績を評価しているのです。ですから……どうでしょう。これから私の侍女として、私にその魔法をお貸しいただけるのなら…………グラウワウル殿下に、あなたのことを助けてくださるように進言して差し上げてもよろしくてよ?」
「……ですから。なぜあなたがそんなことをおっしゃるのです? グラウワウル殿下が、あなたの言うことなら聞いてくださるとおっしゃるのですか?」
「ええ。もちろん」
すごい自信…………
彼女が最近、やけに殿下に擦り寄っているのは知っていたけれど、そんなに胸を張って言うなら、本当なのかしら。
それに、彼女はその指に、強い魔力を持つ指輪をしている。あれは、魔法の道具だ。それも、王家にしか持ち出せないはずの。
砦を管理するために必要なものだったはず。どうやら殿下は、私ではなく、こちらの女性を信頼しているご様子。
侍女なんて丁寧な言い方をしているが、要は私をそばに置いて、魔物を退治するための武器にしたいだけだ。そんなこと、了承できるはずがない。
物のように引き渡されることが決まった今なら、私の隙をつけると考えたのかしら?
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