婚約者に愛想を尽かし、追放されて陵辱される道を選んだら、私を弄ぶはずの伯爵がなぜか楽しげに近づいてきて対応の仕方が分からない

迷路を跳ぶ狐

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6.どうなっても知りませんよ?

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 今、ベネディクシア様の手を今取れば、少なくとも、クウォリアス伯爵様に嬲られることはなくなる。あの方は随分腹を立てているようですし、私が正気を失うまで痛めつける気なのかもしれない。

 もちろん、今私はとても恐ろしいと感じているので、甘い言葉には手を伸ばしたくなる。私だって、恐ろしい道を選んで、嬲りものになるのは嫌。

 けれど、彼女の提案を飲んだところで、それは同じ。結局は彼女にいいように使われ、召使い以下の扱いを受けるのでしょう。

 私は、私を抱きしめる彼女の手に触れた。

 すると、彼女はそれに気づいたよう。私に微笑んだ。

「……ああ、この指輪ですか? 殿下にいただきましたの。いなくなってしまう、あなたの代わりに」
「私の? では、あなたがこれから隊長になるのですか?」
「いいえ。これからは、魔物退治の部隊は全て、殿下が率いることになります。私は、あの砦を管理してほしいと頼まれましたの。私のことを、殿下はそれはそれは信頼してくださっているご様子で……」
「そうですか……」

 彼女は酷く誇らしげだ。

 随分馬鹿にされたものだわ。

 私は、彼女の腕からするりと抜けて、彼女に振り向いた。

「せっかくの提案ですが、謹んでお断りいたします」
「……あら……なぜでしょう…このままでは、野蛮な男たちに下げ渡された挙句、慰み者にされるのですよ? きっと、鞭で打たれて拷問された挙句、ひどく乱暴されてしまいますわ。私は、そんなあなたがあまりにもお可哀想で、こうして無理をして来て差し上げているのに……まさか……あなたはこのままでいいとおっしゃいますの?」
「構いませんわ」
「…………」

 私の答えが意外だったからでしょうか。ベネディクシア様の顔が歪む。なんていい気味!
 よほど私を奴隷として使いたかったのかしら。残念ですけれど、死んでもごめんだわ。

 あっさりと断った私の前で、ベネディクシア様の顔が怒りで歪んでいく。

「……残念ですわ。フィリレデリファ様………では、仕方がありませんわね……せっかく私が、あなたに最後のチャンスを差し上げたというのに…………」
「必要ありませんわ」
「……なんですって……」
「失せなさい。鬱陶しい。これ以上ここにいるなら、ただではすみませんわよ?」
「…………私は、すでに絶望するより他ないあなたを救って差し上げにきたのですよ? それなのに……なんですか? その態度は。全く……こうはなりたくありませんわね……身勝手で自己中心的で他人のことなど何も考えられない利己的な女の成れの果て……それがあなたですわ。どうやったらこんな女になれるのかしら…………王子殿下の婚約者という地位をほしいままにしてきた証拠です。これでもう甘え続けることができなくなるなんて、あなたは思いもしなかったでしょうね」
「……………………その指輪、渡してくださいませんか?」
「あら、なぜかしら?」
「砦の魔法の薬が保管してある部屋の鍵を開けるのです。その指輪は、砦を管理するための指輪ですもの。それがあれば、砦の扉は開きますわ」
「……正気ですか? 本当に、王家の大切な砦にあのような方々を入れて、しかも、貴重な回復の魔法の薬まで差し出す気なのですか……?」
「ええ。それに、あれは王家のものではありません。あの砦にもこの屋敷にも、魔法の道具も薬も、豊富にあるはずです。今だって、あなたは随分と装備を整えていらっしゃるご様子。砦の管理をなさるとおっしゃいましたわね? そのためかしら?」
「ええ。当然ですわ。あなたと違い、私は忙しいのです。無能であるが故に、全く求められず暇なあなたが羨ましいですわ」
「それだけの装備があるのなら、ここを守ってくださった方々のものまで取り上げてしまうなんて、横暴ではありませんか?」

 ベネディクシア様の言うことをまるで聞かずに、こちらの話だけをぶつける私を、ベネディクシア様は睨みつける。

「よくもまあ……そんなことを…………見損ないましたわ……フィリレデリファ様」
「あら? なぜかしら? 私はただ、彼らが保管していたものをお返しするだけですわ」
「あの砦は、グラウワウル殿下が管理している、殿下のためのものです。殿下が許可なさらない者を中に入れることなど、できるはずがないでしょう!」
「あの砦は決して、殿下の所有物ではありませんわ」
「ええ。殿下のものではなく、王家のものです。そして、王族に認められそれを管理するに相応しいと判断された者が使うためのものです。それを…………なぜあのような連中を中に入れようなどと言えるのか……」
「……」
「あなたのような方が、なぜ殿下の婚約者になど選ばれたのでしょう。こんなハズレくじのようなものをつかまされさえしなければ、殿下は今頃、もっと輝かしい栄光を手にしていらっしゃったはずです。どうやら、あなたには手を差し伸べるべきではなかったようです。あなたに救う価値など、まるでありません。このまま、あの男に囚われてしまえばいいのです!」
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