婚約者に愛想を尽かし、追放されて陵辱される道を選んだら、私を弄ぶはずの伯爵がなぜか楽しげに近づいてきて対応の仕方が分からない

迷路を跳ぶ狐

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8.分かっているつもりです

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 クウォリアス様は、殿下の婚約者であった私に対しても、同じように腹を立てているご様子。彼が私を見下ろす目はひどく冷たく、その背後にいるキートティーグ様に至っては、すでに剣を抜いて私に向けている。

 随分と警戒されているようですわ……

 けれど、それも当然なのかしら。

 私は、彼らを砦に招き入れると言ったのに、結局彼らは砦に入ることは出来ず、回復の魔法の薬を手に入れることもできなかった。彼らにしてみれば、憎たらしい王子の婚約者に騙されたようなものだろう。

 しかし、そのように敵意を向けられることも、最初から承知の上ですわ。

 私は、クウォリアス様の前に立ち、彼に頭を下げた。

「このようなことになってしまい、心よりお詫び申し上げます」
「…………」

 クウォリアス様は、しばらく黙っていた。じっと私を見つめて、私の言葉に嘘がないか、探っているようだった。

 そして、聞く価値がないと判断したのか、彼は私の言葉を笑い飛ばす。

「謝罪など、今さら必要ない。俺は貴様で手を打つつもりもない」
「あら、そうですか」

 私は顔を上げ、枷で拘束されたままの両手を差し出した。

「でしたらどうか、枷を外してくださいませんか?」
「何?」
「枷ですわ。もしも本当に、私で手を打つ気などないとおっしゃるのなら、私の自由を奪うこの枷を、どうか外してください」

 両手の動きと魔法を使う力を奪う憎たらしい枷を突き出して言うと、クウォリアス様は、私を嘲笑した。

「ずいぶんと間抜けな女だ……確かに、貴様で手を打つ気はない。だが、貴様を自由にしてやる必要がどこにある? せっかく手に入れた戦利品だ。見窄らしいもので不満だが、魔物に対する盾としてでも使ってやろう」
「ええ。構いませんわよ」
「なに?」
「盾で構わないと申し上げたのです。けれど、枷を外したら私が逃げ出すと決めつけていらっしゃることには、私の方も腹が立ちますわ」

 はっきり伝えると、彼が私を睨む目が、ますます冷たくなる。

「…………貴様……自分の立場が分かっているのか? 貴様はすでに、戯れに殺されても抗議すら聞き入れられない身だぞ」
「ええ。存じ上げております。ですから、不満だと申し上げているのです。私は、手の枷を外されようと、足の枷を外されようと、目的を果たすまで、あなたのもとを立ち去る気など、毛頭ございません」
「……目的だと?」
「あら? お忘れですか? 約束した回復の魔法の薬のことですわ」
「……そんな言葉を、今さら俺が信じると思うのか? 今すぐにその頭を吹き飛ばされたくなければ、黙って荷台に乗っていろ」

 クウォリアス様は、随分苛立っているようだった。

 私とは話すのも嫌なのかしら? けれど、枷をされたままでは、何もできない。そして私は、このまま消えるなんて嫌です。何がなんでも、この枷は外していただかなくては。

「クウォリアス様。お願い致します。私は決して逃げませんし、約束を反故にする気もございません」
「何か、勘違いをしていないか? 貴様はすでに婚約を破棄され、一族からも追放された奴隷だ。魔力が尽きるまで使った後は、好きに陵辱して殺す。枷を外す義理などないし、逃亡を許すつもりはない。万が一、そんなそぶりを見せてみろ。その反抗心もろとも、貴様の精神を破壊してやる」
「構いませんわよ? 私は逃げませんから。それに、今こんなことをあなたに言えばどうなるかくらい、分かっているつもりです」
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