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11.許しませんわ!
しおりを挟む「枷は外してやった。魔法は使えるな?」
「あら。これから殺す女が魔法を使えなくて、何か不都合がありまして?」
「無抵抗な者を嬲っても、楽しくはないだろうっ……!」
クウォリアス様は、私の返事も待たず魔法で長剣を呼び出し、私に襲いかかってくる。
私もそれを、魔法で呼び出した剣で受けた。
二本の剣が、激しくぶつかる音がした。
なんて力っ……! 体を強化していなかったら、剣を受けただけで骨が折れていたかもしれない。
……本気でやらなければ……きっとこのまま首を斬り飛ばされる!
魔力で全身を強化し、魔法の風を纏う。
私の得物は、魔力で作られた私の身長すら超える巨大な剣。けれど、まともにこんな大男の剣なんて、弾き返せるはずがない。それでも、こうして魔法で体を強化し、魔法の風の力を借りれば、相手の剣を押し返すこともできる。
剣を押し返されたクウォリアス様は、微かに驚いたようだった。ご自身の剣が弾かれたのにやけに楽しそうだ。
再び、相手は剣を振りかぶり、私に向かってくる。
今度は、先ほどより早いっ……!
私を死に至らしめるギリギリ手前の力で剣を振り下ろす彼の目は、哀れな獲物を見つけたかのようだ。
「本当に令嬢か……? こんなに嬲り甲斐があるものは初めてだっ……!」
「あら……お気に召しませんでしたかっ…………!?」
私の剣と彼の長剣がぶつかり、町中に響き渡るかのような音がする。人通りの少なかった街には、野次馬が集まり始めていた。
けれどクウォリアス様は、そんなことまるで気に留めていない。その剣を受ける私だけを見つめていた。
「いいものを拾ったっ…………! あのアホが土産に寄越したものとは思えないなっ……!」
「そのことは忘れてください! 私は、自分の意思であの屋敷を出たのです!!」
叫んで風を操る。暴風で相手の気をそらし、その懐を狙う。
けれど相手もそれほど甘くはない。私の風をものともせずに突っ込んできて、剣を振り下ろしてくる。
相手の剣を自らの剣で受けると、それ握る手が痺れてきそう。指先がじんと痛む。
本気ではない……やはり、手加減している。それも、私のためではない。
試している。どの程度なら死なないか。死なずに嬲れる力が、どの程度なのか。
それならこちらも全力でやるだけ。下手に力を出し渋って見下されるのは嫌ですし、何より、彼のその、人を小馬鹿にした剣の使い方には腹が立つ!
剣を握り、体を魔法で強化し、襲いくるクウォリアス様の剣を弾き返す。
最初はまるで狙いもなっていなかったのに、今度は私の急所を確実に狙っている……よほど私に腹を立てたのかしら……その力……私は気に入りましたわ!!
笑みすら漏れる私ですけれど、クウォリアス様も、似たような顔をしていた。
「……貴様…………戦闘の経験は?」
「あなたこそ……令嬢にする質問とは思えませんわ! なんて無粋な!」
目一杯体を強化して、相手に襲い掛かる。無理な強化は体に負担がかかる。これ以上はもたない。だったら早く勝負を決めなくては。
「無粋か!? では男の経験でも聞こうか!」
「……っ! このっ……下郎がっっ……!!」
風とともに振り上げる剣で相手の喉を狙う。これで相手の足を止められれば、勝機はある。
けれどその時、背後からの激しい雷撃が、私を貫いた。
「いっ…………!!」
全身に痛みが走り、痺れた体から感覚が消えていく。
今のは……攻撃の魔法……それも、私が体を強化していなければ、確実に死んでいた威力のものだ。
気力を振り絞って背後に振り向く。するとそこには、先ほど私を殺せと言ったキートティーグ様が立っていた。その周りに、雷撃の火花が散っている。不意打ちなどと言う卑怯なやり方で私を貫いたのは、あの男か。
せっかくの勝負を台無しになさって……許しませんわよ!!
怒りに燃えているのに、意識は遠のいていく。霞んでいく目の前に、叫んでいるクウォリアス様の姿が見えた気がした。
けれど、そんなぼんやりとした意識はすぐに薄れ、力の入らなくなった私は、ついに気を失ってしまった。
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