婚約者に愛想を尽かし、追放されて陵辱される道を選んだら、私を弄ぶはずの伯爵がなぜか楽しげに近づいてきて対応の仕方が分からない

迷路を跳ぶ狐

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12.嫌われてしまいました

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 体に何か冷たいものが触れた気がして、私は目を覚ました。まだ、目の前が霞んでいる。視界がはっきりしてくるまで、少し時間がかかった。

 何があったかは覚えている。背後から雷撃で撃たれたのだ。体の状態を確認する。両手を何度か握ってみる。ちゃんと力は入る。手のひらをぐっと握ると、微かに熱くなる。ちゃんと魔力も使えるし、何があったのかも覚えている。

 体は動く。魔法も使える。

 後は状況を確認しないと。

 私は、街の中でクウォリアス様と剣を交えていたはず。けれど、私が今いるのは、屋根のある場所だ。起き上がらずに周りの状況を確認すると、そこが、広い部屋のベッドの上であることがわかった。

 部屋は大きなテーブルと椅子があって、その向こうの窓から、優しい風が吹いてくる。窓の外には賑やかな街並み。窓のすぐそばにあるテーブルでは、花瓶に入った花が揺れていた。外からは、街路樹の葉が揺れる音がする。

 街にある宿でしょうか……

 なぜ……こんなところに……

 布団をどけて起き上がる。ベッドから降りると、ちゃんと立ち上がることができた。着ているものは、あの屋敷を出た時と変わらない。けれど、鞭の傷が回復している。キートティーグ様の魔法は、かなり強力なものだったのに、その傷もない。誰かが回復の魔法をかけたのでしょう。

 窓のそばのテーブルには、今しがた入れたかのような紅茶が用意されていた。一緒に菓子なども並んでいる。宿の方が用意したのかしら。

 そう思っていると、部屋のドアが開く。

 入ってきた男は、私に恐ろしい速さで駆け寄り、短剣を振り上げた。

 早速殺しに来ましたのね……キートティーグ様!

 目が覚めた時に、自分の状態は確かめている。持ち物を取り上げられた形跡はなく、魔力を封じる拘束の類もされていない。

 短剣程度、魔法で簡単に受け止めてやります!

 さすがにここで、巨大な剣なんて呼び出したら、部屋ごと切り裂いてしまう。私は、魔法で呼び出した短剣で、相手の剣を受けた。すると相手は微かに顔を歪ませ、すぐに私から飛び退いた。

「起きて早々、戦う準備を整えていたのか? お前、何者?」
「あら。自己紹介がまだでしたか? そうですわね……普段なら、丁寧に私を紹介するところですが、あなたには名乗りたくありませんわ」
「名乗らなくていい。人族のフィリレデリファ。それだけ分かっていれば、他のことはどうでもいい」
「よくはありませんわ! なぜ私とクウォリアス様の戦闘の邪魔をなさったのです!? 勝負は互角どころか、クウォリアス様の圧勝が目に見えていたはず! クウォリアス様を庇う必要はなかったはずです!」
「…………何か、勘違いをしていない?」
「勘違い?」
「僕はクウォリアスの部下でもなければ、仲間でもない…………ただ僕は、クウォリアスに金をもらって協力しているだけ。お前を襲ったのは、クウォリアスを庇ったんじゃなくて、お前たちが気に入らないだけ」
「それは、あなた方の仲間を援護もなく戦わせていたからですか?」
「……それもあるけど…………お前たちのことが気に入らない」
「……単純で素敵ですわ……」
「クウォリアスはお前を生かしておくつもりらしいけど……そんなこと、僕は許さない」
「あなたの許しなど、もとよりいただく気はありませんわ」

 私が言うと、彼はますます怒りを露わにした顔で私を睨む。嫌われてしまったようだわ。
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