婚約者に愛想を尽かし、追放されて陵辱される道を選んだら、私を弄ぶはずの伯爵がなぜか楽しげに近づいてきて対応の仕方が分からない

迷路を跳ぶ狐

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14.気づきませんでした

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 私が止めても、クウォリアス様はまるで聞いていないようだ。じっとキートティーグ様を睨みつけていた。

 今の一撃、拳に魔力はこもっていたようだけど、体を魔法で強化したわけではないようだ。それなのに、拳だけで椅子を粉々に砕くなんて、なんて力……キートティーグ様に当たったらどうするつもりだったのかしら。私はまだ、あの方の魔法を見せていただきたいのに。

 クウォリアス様もキートティーグ様も、今にもお互い切り掛かりそう。

 二人の力をこの場で見ることができたのは幸運でしたけど、宿を壊されるのは困りますわ。

 こうなったら、魔法で止めてみるかと考えていると、キートティーグ様は、クウォリアス様に背を向けた。

「……クウォリアス…………僕は、それをただで返す気はないから…………それだけは、忘れないように」

 言って、彼はドアを開けて、部屋から出て行った。

 彼をすぐに追うかと思いきや、クウォリアス様は私に振り向く。

「無事か?」
「無事ではありませんわ。どうなさいますの? 宿の椅子を粉々にしてしまって……」
「…………そんなものはすぐに魔法で直せる」

 クウォリアス様が魔法をかけると、椅子はすぐに元通りになっていく。こんな魔法、初めて見ましたわ。

「……便利ですわね」
「椅子は簡単だが、貴様はこうはいかないだろう……来い」
「なぜです?」
「キートティーグに、精霊族の魔法をかけられただろう?」
「精霊族の魔法? 先ほどの鎖ですか? それなら、解きました」
「あいつの魔法は、そう簡単には解けない。精霊の力を使っているからな。腕を見せろ」
「…………?」

 すでに鎖はないのですが……

 私が腕を見せると、クウォリアス様は私の腕に触れる。触れられたところが、少し温かい。魔力でしょうか……それとも、魔法の類? 私、精霊族の魔法というものは、見たことがありませんわ。

 けれど、クウォリアス様の手が私の手を掴もうとして、私はすぐに飛び退いた。

 敵意を感じたわけではない。だが、確かに彼は、魔法をかけようとしていた。
 魔法の正体が掴めなくても、もう不意打ちはくらいませんわ!

「何をなさいますの……? クウォリアス様」
「相変わらず、いきのいい女だ……そう怯えるな。貴様にも見えるようにしてやったぞ」

 言われて自分の両手首を見下ろせば、溶ける糸のようなものが自分の腕に巻き付いているのが微かに見えた。それは、ドロドロと溶けて、床に落ちる前に煙になって消えていく。

「なんですか……これは…………」
「精霊族の拘束の魔法だ。気づかない間にそうして絡みつき、体の中に入ってその自由を奪う…………貴様の魔力で、すでにほとんど動かなくなっていたようだが。完全に打ち消しておいた方がいい」

 いつのまに、そんなものを……

 やはり、あの方……油断のならない方だ。

 私としたことが、目に見える鎖を切って、彼の魔法を打ち破った気でいた。

「……こんな魔法……気づきませんでしたわ……」
「キートティーグなら、貴様を指一本すら動かせないどころか、その心臓すら動かせないほどに拘束できる…………キートティーグも、ああ見えて手加減していたんだ」
「手加減…………」

 ……なるほど。私はよほど危険な状態だったということか……少し、警戒が足りていなかったようだ。

「…………ご忠告、感謝いたしますわ……」
「……あいつの拘束を解ける魔法を教えておく」
「…………よろしいのですか?」
「貴様は俺の戦利品だ。手を出されるのは気に入らない」
「……そうではなく、仲間の魔法を打ち破るような魔法を私に教えてしまっていいのですか?」
「構わない。貴様が死ぬよりマシだ」
「………………?」

 そんなに私をご自身で痛めつけたいのかしら……先ほどの戦闘で嬲り甲斐があるとおっしゃっていましたし……

 彼は、私の手をとって、溶けていく拘束を睨んでいた。

「回復の魔法は効いているか?」
「…………回復?」

 確かに、私の体には、回復の魔法がかけられていた。傷は完全に癒えていたし、魔力まで回復していた。まさか、あの魔法は。

「…………クウォリアス様が、私を回復してくださいましたの?」
「ああ。効いていないのか?」
「…………い、いいえ……き、効いていますわ……」
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