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19.口喧嘩はおやめなさい!
しおりを挟む馬車に乗って街を越えて森を抜けていくと、だんだん木々も少なくなり、切り立った谷に入る。岩が転がるばかりの荒れた地をしばらく進むと、崖の上にぽつんと、強固な砦が立っている。辺境の地を守るために作られた砦だ。周りにはポツポツと木々が生えていて、のどかな風が吹いていた。
砦の入り口には、数人の魔法使いが立っている。おそらく、グラウワウル殿下から連絡を受けた魔法使いたちだろう。その真ん中に立つ長身の男は、普段この砦を取り仕切っているキャラルイトル様だ。
馬車が砦の前に止まると、魔法使いの方々の恐ろしい視線が向かってくる。全く歓迎されていない……
この砦は、特に魔物の襲撃が激しいこの地域を守るために作られた砦。非常時には、王家と周辺の領地を治める領主たちが共同でここを拠点として使い、魔物退治に向かうことになっている。しかし、今はすでに魔物の脅威は去り、束の間の平穏が訪れている時。平時にここを管理しているのはグラウワウル殿下と彼に仕える魔法使いたち。領主のもとから派遣されて来た魔法使いたちも多少はいるはずなのだけど、今はここにはいないみたい。
馬車が砦の前に止まると、魔法使いたちの真ん中に立った男が頭を下げた。
「……お待ちしておりました。クウォリアス様……」
感情を感じないような声で言われて、クウォリアス様は客車の屋根から降りて、嫌味な顔で微笑む。
「待っていただと? よくそんなことが言えたな、戦う用意でもしていたんじゃないのか?」
「いいえ……そのようなことはございません。今回この地を……守ってくださったのは、クウォリアス様ですから……」
ボソボソとそう言う彼に、彼の隣にいた男が怒鳴りだす。
「キャラルイトル様っ……! なぜそのようなっ……!! こ、ここはグラウワウル殿下の砦ですっ……! 魔物に勝ったからと言って、殿下に背いて砦を自分のものにしようとする精霊を砦に入れるなんてっ……!」
「しかし……ヴクトヘアス…………彼らが、ここを守るために戦ったことは事実だ。それに、あの回復の魔法の薬は、もともと彼らのものだろう…………渡さないわけには……」
「で、でもっ……ここを普段管理しているのは僕たちですっ……! 王家に仕える者として、王子殿下に背くような者に、ここを明け渡すわけにはっ……!」
「明け渡せとは言っていないだろうっ……! 回復くらいしてもいいはずだっ……そうでないと、彼らは帰らない!」
「ぼ、僕はそんなの、反対ですっ……! 王族に手を上げるような反逆者を砦に入れるべきではありませんっ……! し、しかも彼らは、ベネディクシア様から指輪を奪ったとか…………そ、そんな奴を砦に入れるなんて……!」
怒鳴るヴクトヘアス様に、キャラルイトル様は仕方がないだろうと言い返し続けている。
そういう話は、私たちがここに着く前にしておいていただきたかった。
二人の喚き合いはしばらくは続きそうだけど、こちらには怪我人がいる。
なにより、こんなくだらない話、これ以上聞いていられるもんですか!
私は、馬車から飛び降り二人の前に立った。
「キャラルイトル様、ヴクトヘアス様!! 聞くに堪えない口喧嘩などやめて、そこをどいていただけますか?」
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