婚約者に愛想を尽かし、追放されて陵辱される道を選んだら、私を弄ぶはずの伯爵がなぜか楽しげに近づいてきて対応の仕方が分からない

迷路を跳ぶ狐

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 やめなさいと叫んだ私に、二人が振り向く。キャラルイトル様の方は、ただ驚いただけのようでしたが、ヴクトヘアス様の方は、怒気に塗れた顔で私を睨みつける。

「…………そ、そもそもあなたが勝手な指示など出すから、こんなことになったんです!」

 私を指差し怒鳴るヴクトヘアス様を、キャラルイトル様が窘める。

「やめろ……ヴクトヘアス……王子殿下の婚約者であったご令嬢に向かって……無礼だろう」
「無礼!? それはフィリレデリファ様の方です! 婚約だって、とうに破棄されているんですよ! 殿下に逆らい、精霊の領主を招き入れようとしているのにっ……!」
「ヴクトヘアスっ……!」

 キャラルイトル様に再び制止されても、ヴクトヘアス様の態度は変わらない。

 そして皆さん、どちらかと言うとヴクトヘアス様と同じような意見のようだ。

「……なぜクウォリアス様たちと一緒に……」
「あいつがクウォリアス様たちを迎え入れろなんて言い出すから面倒なことになったんだ。領主たちの口出しをうまく抑えることが、婚約者の役目のはずなのに……」
「ここであいつらを招き入れたら、俺たちが王子に逆らったことになるのか? は、反逆者になるなんて嫌だぞ!」
「王子殿下に背いて精霊なんか従えて……一体どういうつもりだ?」
「グラウワウル殿下に対する嫌がらせですよ! 絶対! 性悪め!」

 ヒソヒソと話している魔法使いの方々に私が振り向くと、誰もがサッと顔をそむける。

 あらあら……ずいぶん、嫌われたようですわ……

 けれど、だからといって、大人しく引き下がってやる気はない。

「そこをどいていただけますか? 私たちは、ここに保管してあるはずの回復の魔法の薬をいただきに来ただけです。そもそもあれは、ここでの魔物討伐の際に傷を負った時のためにとクウォリアス様がご用意なさったもの。それを今更渡せないとは言わせません」
「そんなの、僕達に言われても困ります!」

 叫んだのは、ヴクトヘアス様。

「そ、そういう王子殿下のご命令なのですっ……あなたにだって、それは分かるはずですっ……! そ、それなのに、そんな無茶を……そういうことは、王子殿下の許可をいただいてからにしていただけますか!?」
「そんなもの、グラウワウル殿下が許可するはずがありません。指輪はここにあるのです。入れないとおっしゃるのなら、無理矢理入ります」
「なっ……! なんて乱暴なっ……!! そんな風に野蛮だから、婚約を破棄されるんですよ!」
「それはこれとは関係ありませんわ」

 話していると、クウォリアス様は、話の結論を待たず、砦に近づいて行く。

 慌てた様子のキャラルイトル様が、その前に立ち塞がった。

「お、お待ちください! クウォリアス様! わ、私たちは何もあなた方を砦に入れないなんて申し上げておりません……と、とりあえず、砦の中にお入りください…………怪我をなさった方々がいらっしゃるのでしょう? 回復の魔法をかけて差し上げますから……と、とにかく、まずは、怪我をされた方々の治療を……」
「それでは間に合わない。魔物の中には毒の魔物もいたんだ。回復の魔法をかけても、その場しのぎにはなっても、完全に毒を取り去ることができない。今すぐに、回復の魔法の薬を寄越せ」
「そ、それは、その……か、回復の魔法の薬をしまった部屋には、か、鍵がかかっていまして……」
「構わない。指輪で開く」
「し、しかしっ…………あ! く、クウォリアス様!! ど、どうかお待ちくださいっ……!!」

 立ち話を続けようとするキャラルイトル様を無視して、クウォリアス様は馬車の中の怪我人たちのことを従者たちに任せると、勝手に砦の中に入っていく。キャラルイトル様がなんとか止めようとしているが、彼は耳を貸さない。

 私もクウォリアス様の従者の方に挨拶をして馬車の中の様子を確認してから、彼を追った。

「クウォリアス様! お待ちください!」
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