婚約者に愛想を尽かし、追放されて陵辱される道を選んだら、私を弄ぶはずの伯爵がなぜか楽しげに近づいてきて対応の仕方が分からない

迷路を跳ぶ狐

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21.目を合わせてくださらないの?

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 砦の中に勝手に入って行ったクウォリアス様は、キャラルイトル様が止めてもまったく聞かずにどんどん歩いて行ってしまう。

 ここには何度も来ているけれど、相変わらず、いつ来ても魔法使いたちの息が詰まるような視線が飛んでくる。
 魔物たちと戦う拠点として使われるときは、多くの魔法使いたちが指揮官のもとに集うここも、普段は厳しい規則のもとに、谷の監視を続ける緊張感に包まれた場所。

 そんな砦の中に、キャラルイトル様の大声が響き渡る。

「クウォリアス様っ……! どうかお待ちください!! クウォリアス様っ……! この先は殿下の許可がないとっ……! あ、あのっ……!」

 キャラルイトル様がどれだけ止めても、クウォリアス様はまるで聞いていない。
 制止に構わずどんどん進むクウォリアス様に、ヴクトヘアス様も「止まってくれ」と繰り返す。

 けれどお二人とも、実力行使に出たりはしない。この地の安寧は、王族と領主の協力関係によって成り立っている。キャラルイトル様たちも、王家に仕える貴族の方々。魔物の制圧に関するこの重要な関係については、幼い頃からよく教えられているはず。それなら、今こうしてクウォリアス様を止める必要もないことは分かっているはずなのに。

 とはいえ、殿下が不在の時にここの管理を任されているキャラルイトル様が、クウォリアス様をこれだけ止めているのに、口を出すのはヴクトヘアス様だけ。他の方はずるずるついてくることはするけれど、何も言わないし何もしない。

 殿下の命令に背くクウォリアス様に関わりたくないのかしら……

 廊下をしばらく行くと、私たちの前に、巨大な扉が現れる。魔法の武器や薬、道具を保管しておくための部屋だ。

 私がその前で指輪を握ると、それは大きな杖に形を変えて、私たちの前に現れる。それを握って掲げると、その扉はゆっくりと消えていった。

 中にはずらっと巨大な棚が並び、武器が並んでいた。

 扉が開いたのを見て、キャラルイトル様はクウォリアス様に駆け寄って行く。

「お待ちくださいっ……クウォリアス様っ……! どうかっ……あのっ……! うわっ……!」

 話しながら歩いていたからか、キャラルイトル様はその場で転んでしまう。それを勘違いしたのか、ヴクトヘアス様がキャラルイトル様に駆け寄った。

「キャラルイトル様っ……!! 大丈夫ですかっ……!? クウォリアス様!! あんまりですっ……! 暴力を振るうなんてっ……!」

 喚く彼らの声をまるで聞かず、クウォリアス様は部屋を進んで、奥にあった小さな扉の前に立った。けれど、今度の扉は杖では消えない。

 おかしい……こんなところに、こんな扉はなかったはず。それに、この扉……ひどく強い魔法がかかっている。精霊の魔法かしら……?

 クウォリアス様は苛立った様子で呟いた。

「姑息な真似を……」
「開くことはできませんの?」

 私が聞いても、クウォリアス様は首を横に振る。

「特別な魔法がかかっている……鍵の魔法だ」
「まさか……そんな魔法、ここにはかかっていないはず…………」

 私は、キャラルイトル様に振り向いた。

「キャラルイトル様……これは、どういうことでしょう…………」
「どうといわれましても…………私は何もしておりません……その、殿下が…………」

 言いかけて、キャラルイトル様は慌てた様子で口に手を当てる。話したらいけないことなのかしら。

 あからさまな様子のキャラルイトル様に、クウォリアス様は詰め寄って行く。

「あのアホが何かしたのか?」
「アホだなんて……そんなことは……私も、あまり詳細は知らないのですが……もしかしたら……誰か慎重な方が、開かないように魔法をかけてしまったのかも…………知れません……」

 キャラルイトル様……こちらと目を合わせなくなりましたね……
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