21 / 40
21.目を合わせてくださらないの?
しおりを挟む砦の中に勝手に入って行ったクウォリアス様は、キャラルイトル様が止めてもまったく聞かずにどんどん歩いて行ってしまう。
ここには何度も来ているけれど、相変わらず、いつ来ても魔法使いたちの息が詰まるような視線が飛んでくる。
魔物たちと戦う拠点として使われるときは、多くの魔法使いたちが指揮官のもとに集うここも、普段は厳しい規則のもとに、谷の監視を続ける緊張感に包まれた場所。
そんな砦の中に、キャラルイトル様の大声が響き渡る。
「クウォリアス様っ……! どうかお待ちください!! クウォリアス様っ……! この先は殿下の許可がないとっ……! あ、あのっ……!」
キャラルイトル様がどれだけ止めても、クウォリアス様はまるで聞いていない。
制止に構わずどんどん進むクウォリアス様に、ヴクトヘアス様も「止まってくれ」と繰り返す。
けれどお二人とも、実力行使に出たりはしない。この地の安寧は、王族と領主の協力関係によって成り立っている。キャラルイトル様たちも、王家に仕える貴族の方々。魔物の制圧に関するこの重要な関係については、幼い頃からよく教えられているはず。それなら、今こうしてクウォリアス様を止める必要もないことは分かっているはずなのに。
とはいえ、殿下が不在の時にここの管理を任されているキャラルイトル様が、クウォリアス様をこれだけ止めているのに、口を出すのはヴクトヘアス様だけ。他の方はずるずるついてくることはするけれど、何も言わないし何もしない。
殿下の命令に背くクウォリアス様に関わりたくないのかしら……
廊下をしばらく行くと、私たちの前に、巨大な扉が現れる。魔法の武器や薬、道具を保管しておくための部屋だ。
私がその前で指輪を握ると、それは大きな杖に形を変えて、私たちの前に現れる。それを握って掲げると、その扉はゆっくりと消えていった。
中にはずらっと巨大な棚が並び、武器が並んでいた。
扉が開いたのを見て、キャラルイトル様はクウォリアス様に駆け寄って行く。
「お待ちくださいっ……クウォリアス様っ……! どうかっ……あのっ……! うわっ……!」
話しながら歩いていたからか、キャラルイトル様はその場で転んでしまう。それを勘違いしたのか、ヴクトヘアス様がキャラルイトル様に駆け寄った。
「キャラルイトル様っ……!! 大丈夫ですかっ……!? クウォリアス様!! あんまりですっ……! 暴力を振るうなんてっ……!」
喚く彼らの声をまるで聞かず、クウォリアス様は部屋を進んで、奥にあった小さな扉の前に立った。けれど、今度の扉は杖では消えない。
おかしい……こんなところに、こんな扉はなかったはず。それに、この扉……ひどく強い魔法がかかっている。精霊の魔法かしら……?
クウォリアス様は苛立った様子で呟いた。
「姑息な真似を……」
「開くことはできませんの?」
私が聞いても、クウォリアス様は首を横に振る。
「特別な魔法がかかっている……鍵の魔法だ」
「まさか……そんな魔法、ここにはかかっていないはず…………」
私は、キャラルイトル様に振り向いた。
「キャラルイトル様……これは、どういうことでしょう…………」
「どうといわれましても…………私は何もしておりません……その、殿下が…………」
言いかけて、キャラルイトル様は慌てた様子で口に手を当てる。話したらいけないことなのかしら。
あからさまな様子のキャラルイトル様に、クウォリアス様は詰め寄って行く。
「あのアホが何かしたのか?」
「アホだなんて……そんなことは……私も、あまり詳細は知らないのですが……もしかしたら……誰か慎重な方が、開かないように魔法をかけてしまったのかも…………知れません……」
キャラルイトル様……こちらと目を合わせなくなりましたね……
3
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる