婚約者に愛想を尽かし、追放されて陵辱される道を選んだら、私を弄ぶはずの伯爵がなぜか楽しげに近づいてきて対応の仕方が分からない

迷路を跳ぶ狐

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25.気が合いますわね

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 私は、出来上がった鍵を見上げた。これも本物の鍵ではないし、多くの魔法使いが数多の材料と時間、労力をかけて作るダミーでもない。鍵をこれで開くことはできないでしょう。けれど、鍵穴に突っ込んで魔力を打ち込むことはできる。

「これで、鍵穴の深くまで魔法を届けることができますわ……」
「強力な魔法を扉の深くまでぶち込んで、扉を破壊する……か?」
「あら……」

 考えていたことを当てられてしまい、私は、クウォリアス様を見上げた。

「私の考えていることが分かるのですか?」
「そういうわけじゃない。ただ、そんな気がしただけだ。随分と乱暴な令嬢のようだからな」
「……あなたこそ。そんなことが分かってしまうなんて、私と発想が同じである証拠ではありませんか?」
「そうだな」
「…………」

 嫌味で言ったつもりなのに、クウォリアス様はどこか嬉しそう。私も、こんな風に意見があってしまう相手に会うのは初めてだ。

「では、時間もないことですし、さっさとすませましょう」

 言って、扉を調べてみると、すぐに見つかった。魔力で隠されていたけれど、扉の端に、小さな鍵穴がある。

 私は、クウォリアス様に振り向いた。

「では、私がこれから鍵をさして魔法で扉を破壊します。周囲のものまで破壊されてしまわないように、クウォリアス様は周りのものを魔法で守っていただけますか?」
「俺は破壊の方がいい。鍵を寄越せ」
「……馬鹿なことを言わないでください。あなたがここを破壊すれば、領主が砦を破壊したと、後で問題になります。しかし、私が破壊すれば話は別。鍵を奪ったのも私、扉を破壊したのも私。あなたたちは、ただここにいただけです」
「自分だけ罪人になるつもりか?」
「罪人になるのではありません。もう罪人ですわ。あなたも見たでしょう? 私の体に残った鞭の傷跡を。あれは、王子殿下の部隊の魔物討伐を遅らせた、私に対する罰です。私はすでに、罪人なのです」
「……そんなことをしていないのにか?」
「やったかやってないかなんて、関係ありません。そんなこと、あなただってご存知でしょう? 私は王家の方々を怒らせたのです。そして、私の一族はすでに、私が罪人であることを認め、私を勘当しています。もう皆さん、私を罪人と決めつけて疑っていませんわ」
「……それでいいのか?」
「ええ。構いません。お陰であの外道と結婚しなくて済みました。私はそれだけで満足です」
「そうか……」
「納得していただけて、嬉しいですわ。では……」

 私は、鍵を扉に近づけた。けれどすぐに、クウォリアス様に手を掴まれ止められてしまう。

「何を……」
「俺も同じ意見だ。貴様が満足するかどうかなど、関係ない。貴様だけを生贄に、あのアホに媚を売って扉を開くなど、そんな真似ができるか」
「そんなことを理由に、あなたは今、私を止めるのですか? あなたは何をしにここまで来たのですか?」
「なに?」
「傷つき倒れた仲間を救うためではなかったのですか? それなのに、私にその場凌ぎの情けをかけて仲間を見捨てるのですか?」
「…………貴様……」
「勘違いしないでください。私はただ、他にすることがあるはずだと申し上げているだけです。私でしたら、扉をぶち壊した犯人として拘束されたところで、恐らく多少の罰ですみますわ……」

 なんて言いながら、自分でそんなはずがないと思ってしまう。
 再び罪人となった私を、殿下が許すはずがない。大方、公開処刑といったところかしら。あの王子、私をさぞかし恨んで痛めつける機会を待っているでしょうし。そうなったら、さっさと逃げるか。ついに逃亡犯に成り果ててしまうけれど、あれに殺されるよりマシだわ。
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