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26.逃げられると思っているのか?
しおりを挟む私は、クウォリアス様にふりむいた。
「私は、そんな気味の悪い同情を向けられる方が、よっぽど嫌です。そういったものは、虫唾が走るほど嫌いなんです!」
「…………」
クウォリアス様は、黙って私を見下ろしていた。そして、苦い顔ながらも頷く。
「……分かった」
「分かっていただけて嬉しいですわ」
にっこり笑って私は扉に鍵を差し込んだ。かなり雑な作りのものであるはずなあのに、随分簡単に鍵は奥まで入る。おそらく、クウォリアス様の魔法が効いているのでしょう。見事だわ。
「では、クウォリアス様。扉を破壊します。多少無理をします。周りの建物まで破壊されないように、魔法で防御をお願いいたします」
「ああ」
彼の返事を待ってから、私は鍵に一気に魔力を注ぎ込んだ。すると、鍵穴を中心に、扉に大きなヒビが入る。暴走しそうな魔力が鍵から溢れて、風のように漏れていく。一気に爆破して、扉を吹っ飛ばす!
けれど、ヒビはすぐに広がるのをやめてしまう。
どれだけ強固な扉を用意したの……どれだけ薬を渡したくないの! あの王子は!!
すると、クウォリアス様が私の背後から手を伸ばしてきて、その扉に触れた。
「クウォリアス様っ……!? おやめください!!」
「……随分と可愛らしいことを言うじゃないか……」
「は?! こんな時に何を言っているのです!? 離れてください! 今度はさらに強力な魔法を使いますから!」
「ところでフィリレデリファ」
「……なんですか!?」
「貴様の条件を飲む、交換条件だ」
「はあ!?? な、なんですか、それ!! 今更っ……私、聞いてませんわ!」
「この扉を俺が開いたら、俺と婚約しろ」
「…………は?」
「約束だぞ」
「はあ!!?? ちょ……待ちなさい!! い、今そんなこと言い出して、どう言うおつもりですか!!」
今さらそれを言う!?
クウォリアス様は、すでに鍵に触れて、破壊の魔法をかけている。扉はすでに赤く光り、崩れかけているのに。
「開くぞ」
「ち、ちょっ……お待ちください! 私、死んでも嫌ですわ! 誰があなたとなんかっ……あ、まっ……!」
待ってと叫ぶがもう遅い。扉は弾け、それは光の粒になって消えていった。
けれど……
「開いたな」
隣の男は、腹立たしいほどニヤニヤしながら私を見下ろしている。
このゲス………………
これまで、こんなに腹が立ったことはない。
「どういうつもりですか!! クウォリアス様!! あんなの、無効ですわ!」
「扉は開いた。有効だ」
「無効ですわ! 誰があなたのような面倒な男と……そ、そもそも、何のためにっ……私、婚約なんて、金輪際ごめんですわ! せっかく好き勝手に剣を振れるようになったのに…………」
「剣なら好きなだけふればいい。何が軽い刑で済むだ。砦から追放された罪人のままでは、貴様はあの王子の嬲りものになって公開処刑だ。扉を破壊してしばらくしたら、ここに警備兵が雪崩れ込んできて、貴様を処刑台に連れていくだろう」
「…………そんなことありません。殿下は、ああ見えて情け深い方です」
「本気で言っているのか? 大人しく、俺の婚約者になっておけ。領主の婚約者なら、すぐに殺されはしない」
「だ、だからと言って、そんなことをしていただかなくても、私、殺されて差し上げる気なんてありません!! これが終わって、あなたに対する義理を果たしたら、さっさと逃げますから!! そ、そろそろ離れてください!」
離れていこうとする私を、クウォリアス様はあっさり捕まえて抱き寄せてしまった。
「逃げる? 誰から?」
その男の目が、冷徹さを増す。その強い感情は嫌いじゃないけれど……これは、私が最も苦手とするものだ。
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