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30.一体何をしていたんだ
しおりを挟む手合わせの約束は忘れていないと、クウォリアス様はそう言うけれど、本当に分かっていらっしゃるのかしら。
けれど彼は、すぐに真剣な顔に戻って、私に振り向いた。
「それで? ここのことには、どのくらい気づいていた?」
「薬のことには気づきませんでした。私がここに来たのは、殿下があまりにも拒むことと、砦の様子が何かおかしいと思ったからですわ………あなたこそ、この砦はおかしいと思わないのですか?」
「そうだな……確かに、ここはおかしい……鍵の魔法も異様に強かった」
「薬を隠すために、強化のための魔法の道具が設置されているのかもしれません……」
「魔法の強化をするための道具をか? 砦の中で、そんなものを使うのか?」
「ええ。割と使います。回復の魔法なども強化できて、便利なんです」
「そうか……強化の魔法なら、戦闘の時によく使うが…………鍵の魔法の強化のためにも使うのか……」
「私にも、詳細は分かりませんが。普段ここを管理してくださっている方に聞いた方が良さそうですね……」
そんな話をしていると、ちょうど、誰かが部屋に入ってくる。
扉の方に振り向けば、そこには、ヴクトヘアス様が立っていた。
ここへ勝手に入ったことを咎めに来たのかと思ったけれど、違うようだ。だって、先ほどのように私を怒鳴りつけたりしない。
代わりに彼は、私が彼に気づいたことを見るや否や、こちらに近づいてきた。
「……フィリレデリファ……様……」
「どうされました? ヴクトヘアス様。盗み聞きですか? 申し訳ございませんが、私たちはここから出て行く気はありませんわよ」
「……分かっています……あなた方が、ここを出て行く必要は…………ございません……」
「……?」
どうしたのかしら。あれだけ私たちを追い出すと言って息巻いていたのに、今のヴクトヘアス様は、こちらと目を合わせようともせずに、あの恐ろしい敵意も消えている。
隣を見上げると、クウォリアス様も不思議そうに肩をすくめていた。
「いいのか? ここを守るように言われているのではなかったのか?」
彼に聞かれても、ヴクトヘアス様は、気まずそうに私たちから顔を背けたままだ。
「言われているからですよっ……!! ここにっ……回復の魔法の薬はないっ……! 空っぽだ!! 僕たちは…………一体何をしていたんだっ……!!」
悔しそうに言う彼は、ひどく苦しそうに見えた。扉が開いて、ここに何もないことに気付いたのか……
彼は、私達に振り向いた。
「フィリレデリファ様は……ここがこんな状態であることを、ご存じだったのですか?」
「……回復の魔法の薬がないことには気づきませんでした。ただ、殿下はすっかりここを自分のものにしてしまっていますし、ベネディクシア様は、もうここを管理できる気でいます。その割に、指輪の管理は甘いようで、気になったのです。こちらの砦の中の様子が」
「そうですか…………そうですよね。フィリレデリファ様がここにいらっしゃるのは、部隊を率いる殿下に付き従う時……先日は、部隊を率いていらっしゃいましたよね? そろそろ魔物退治の部隊を任せてもらえたのではないのですか?」
「いいえ……殿下は私に、そんなことを許しませんわ」
「…………」
黙り込むヴクトヘアス様は、ひどく苛立っているようだった。守っていたはずのものの理不尽な正体を見せつけられ、ここを守るためと信じていた王子の言葉の嘘が露呈して、よほどショックだったのでしょう。
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