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33.どういうつもりですか?
しおりを挟む私は、キャラルイトル様と一緒に、砦の中を調べ始めた。
彼は歩きながらボソボソと話し始める。
「先ほどは……申し訳ございませんでした……」
「それは、なんのことでしょう? ダミーを作らなかったことですか?」
「はい……私も、規則は知っていたのですが……」
「…………なぜ、ダミーを作らなかったのですか?」
「それは……その…………魔力が足りず、つい、ダミーの作成を怠ってしまったのです……」
「魔力が? ここへは絶えず、グラウワウル殿下から魔力回復の薬が送られているはずですが……」
「送られてはいたのですが……数が足りないのです…………特に最近は……ほとんど送られてこなくて……」
「おそらく、送っていなかったのでしょうね」
「…………ここは、すっかり殿下のものになってしまいました。本当はフィリレデリファ様のことも、ずっとお招きしたかったのです」
「……あなたがそれを気に病むことはありませんわ。いつも、ここは部隊の駐留に使うばかりで、管理はあなた方に任せてばかりでしたから……」
「…………そんなことは、ありません……」
「クウォリアス様達の回復の魔法の薬があった部屋……あれは、いつからあるのですか?」
「あれも、最近になってです。殿下とベネディクシア様が、貴重なものを保管するための新しい部屋を作ると言って……多くの従者達を使い、魔法であの部屋を造られたのです」
「扉にかけられていた鍵の魔法も、その頃から?」
「はい。王家の薬が管理されているから、近づいてはならないと言われていました」
「そうですか…………」
私は、肩をすくめた。
「殿下は……砦に送るはずの回復の魔法の薬を独り占めにしているようですね」
「…………」
「こちらに送られていないのだから、そうでしょう。平時に薬を送ることを、すっかり怠っていたのですわ。呆れます……」
「で、でしたら、フィリレデリファ様から、王子殿下に進言をっ……」
「私はすでに、あの屋敷を追い出されています。今さら私の言うことを、王子殿下が聞いてくださるはずがありませんわ……」
「それは……そうですね…………すみません。無茶を言って……」
「けれど、私もここをこのままにしておく気はございません」
「え……?」
「王子殿下のことは、どうか私にお任せください。しばらく、この砦に送られるはずだったものの話を聞かせてくれますか?」
「はい……あ、ありがとうございます。フィリレデリファ様…………私たちに、王子殿下のお相手など、恐ろしくて……」
「恐れることなどありませんわ。あんなアホ」
「はは……フィリレデリファ様は、本当に怖いもの知らずですね……羨ましいくらいです」
「う、羨ましい?」
「ここにはずっと回復の魔法の薬がなくて、困っていたのです。それなのに王子殿下には、まだ回復の魔法の薬があるなら出せってしつこく要求されるし……殿下はここを自らの所有物だと思っていらっしゃるのです。ここは本来、数多の種族がこの地を守るためにある砦なのに……それを理解しておられないのです……」
「……」
「とにかく、あなたのおかげで助かりました。この先に、回復の魔法の薬を保管した部屋があります……どうか、一緒に数えてください」
「……あら…………先程は、あれだけ扉を開くのを渋っていたくせに、今さら随分と気前がよろしいのですね」
「すみません……どうか、そう言わず……お願い致しますよ…………フィリレデリファさま…………」
だんだんキャラルイトル様の声が妖艶さを増していく。そのたびに、頭に熱を感じる。
なんなの……頭の中に、火花でも放られたみたい……
思考を縛られたかのように考えが回らなくなる。息まで苦しい。
これは……拘束の魔法?
最初は思考、そして、首、胸まで苦しい。そうしているうちに、体の中まで、熱で貫かれているかのように痛い。体中に、魔力を送られているの……? その魔力が体を巡るたびに、体の自由が効かなくなり、腕も足も、勝手にキャラルイトル様についていく。
「……キャラルイトル様…………どういうおつもりですか……?」
「どう…………? どう、とはー…………どういう意味でしょう…………フィリレデリファ様……」
そう言いながら、キャラルイトル様は振り向いて、私の手をおもむろに握った。
「フィリレデリファ様……もしかして、お怒りなのですか? 私が、殿下を止められなかったことを」
「そうは申し上げていませんわ…………」
反論しようとした時には、頭がクラクラしてきた。
「くっ……」
全身に魔力を込めて、拘束に抗おうとする。けれど、体の自由が効かない。私を拘束した上で、さらに連れていく気か……
すると、動けない私に振り向いた男が、驚いたような顔をする。
「……あれ…………? まだ動けるんですか……? わあ。驚きだ。まだ動いていますね。そんな人……私、初めて会いました。わあ……わあ、びっくりしたな…………」
「……どういうおつもりです? 話しながらいきなり拘束など、不躾にも程がありますわ!」
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