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34.それしか
しおりを挟む確かに全身を拘束の魔法で捕らえられている。けれど、キートティーグ様が使っていた精霊族の拘束の魔法よりだいぶ威力が弱い。これなら、クウォリアス様に教わった対抗策がなくても、なんとかなりそう。
まずは彼からこんなことをした真意を聞き出さなくては。
私が怒りの全てを込めて睨みつけても、キャラルイトル様は平然としていた。
というより、私を拘束したことなど、まるで気にしていないかのよう。ただ、私が動ける、ということに驚いているように見えた。
「……まだ……意識を保っていられるんですね…………わあ……私、びっくりしました。なんて素晴らしい…………フィリレデリファさま…………本当に、すごいですよ。私と一緒に来てください……」
「嫌ですわ」
「うわあ……まだ自由に話せちゃうんですね…………嬉しいな……」
あらあら……随分と目が血走っていますこと……
それなのに、彼の目以外は先ほどまでと変わらない穏やかそのもので、恐ろしくなりそう。
拘束の魔法で捕らえられたまま、キャラルイトル様に連れて行かれたのは、広い部屋だった。綺麗に整頓された部屋には、美しい調度品が並んでいる。人を魔法で拘束して連れてくるような場所には思えませんわ……
部屋に入るなり、床から光る鎖が飛び出してくる。体が動けないと逃げることもできない。あっさり壁際で拘束されてしまった。
キートティーグ様が使うものに似ている……精霊族にも対抗できるよう、精霊族の拘束の魔法を学んだのかしら。それとも、何か魔法の道具を使って拘束しているのか……どちらにしろ、勉強熱心な方だわ。
それに、今度は先ほどよりも、拘束の魔法がずっと強化されている。
それもそのはず、部屋の中には、珍しい形の杖が並んでいた。あれは、おそらく魔法を強化するためのものだ。あれで拘束の魔法を強化しているのか……
お陰で気持ち悪くて仕方がない。
動けない私を見て、キャラルイトル様は楽しそう。
「今日はいい日です……こんなにいきのいい方に会えるなんて……」
「あなたの方は……ずいぶんと困った方ですこと……」
その男は、私を鎖で捕まえるだけでは飽き足らず、早速刃物を持ってくる。それも、大きな斧だ。あんなもので首を切られたら、私の首なんて、簡単に落ちてしまうでしょう。
「……あなたは私をどうする気なのです? これは、グラウワウル殿下のご命令ですか?」
「…………まあ……そんなところです…………もうじきここに、殿下がベネディクシア様を連れていらっしゃるそうです。その前に、反逆者であるあなたを拘束しておかないと安心できないと、訳の分からない命令をして来ました」
「……回復の魔法の薬のことにも、手を貸していたのですか?」
「いいえ。殿下は危ないことは他人にさせて、自分にとって大事なことは自分でなさる方ですから。そんな方の命令、聞きたくなかったんですけどね……だけど、あなたを連れて来たくなってしまったんです」
「私を? なぜ?」
「……なぜって……」
突然振り向いて近づいて来たキャラルイトル様が、私の顎をつかむ。
「あなた……さっきからずっと話してますね……なぜ話せるんでしょう? 私のこの拘束に、こんなに抗うなんて、本当にすごいですよ」
「お褒めに預かり光栄ですわっ…………!!」
がんっと、ひどい音が耳元でした。さすがにこんな音が耳元ですると、ひどく恐ろしい。
私の右耳のすぐ隣。それこそ、小指の幅ほどもない距離だけ離して、私の背後の壁に、斧がめり込んでいた。
壁に深々と差し込まれた斧の切り口から、ボロボロと壁のかけらが落ちる。
切られてしまった私の髪まで落ちていった。
「そろそろ…………黙ってください…………拘束を解かれて、私、すこーーーーしだけ……ショックを受けているんですよ…………ね?」
「…………」
同意を求められても、困りますわ……勝手にこんなところに連れてこられた、私の方がショックです!
とは言え……斧で首をちぎられてしまうのは嫌。
私が黙ると、キャラルイトル様はにっこり笑った。
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