婚約者に愛想を尽かし、追放されて陵辱される道を選んだら、私を弄ぶはずの伯爵がなぜか楽しげに近づいてきて対応の仕方が分からない

迷路を跳ぶ狐

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35.それをねじ伏せたくなるんです

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 私を拘束したキャラルイトル様は、部屋の端にあった棚をゴソゴソと物色し始めた。出てくるのは斧や短剣、そして、鞭。なんて物騒なものを棚に入れているのかしら。

 私を拷問したいの? けれど、彼に私から聞き出したいことなどないはず。ということは、ただ痛めつけたいだけなのかしら。

「…………フィリレデリファ様は、どんなふうに嬲られるのが好きですか?」
「…………あら……私が選んでよろしいのですか……? こう見えて、怖くてあなたとは口を利きたくないのですが……それに、ここは地下でもなければ隔離されてもいない。こんなところで私が悲鳴を上げたら、あなたは困るのではないのですか?」
「大丈夫ですよ。部屋の隅に、私の拘束の魔法を強化する道具が並んでいるのが見えるでしょう?」

 彼が指したのは、部屋に並んだ禍々しい大きな杖。

「あれで……私の拘束の魔法を強化しているんです…………もう少し私の魔法を強化すれば……あなたに口を利かせないないようにすることなど、意のままにできちゃうんです」

 彼がそう言って魔法を使うと、杖が光り出し私は一言も話せなくなってしまう。

 息が苦しい……

 あまり、脅さないでいただきたいわ……

 話せない代わりに、私は魔法を使おうと試みた。
 しかし、こっそりと魔法を使おうとしたことはすぐにバレてしまったらしい。

 キャラルイトル様は、私に向かって斧を振り上げた。

 どれだけ私を殺したいのかしらっ…………!

 全身の魔力を呼び起こす。それから防御の魔法をかけると、拘束の魔法を振り払うことができた。

 感謝いたしますわっ……クウォリアス様っ……!

 愛用の剣を呼び出す。振り上げたそれで、斧を弾くことには成功したけれど、相手の拘束の魔法の方が強い。手に力が入らない。握ることができない剣は、床に落ちてしまう。

 武器を失い、体の自由も効かない私を、キャラルイトル様の鎖が捕まえて、床に縛り付ける。

 ここはすでに相手の罠の中。部屋の拘束の魔法を強化する杖が、激しく光っている。拘束の魔法を最大限にまで強化して、私を捕まえたらしい。

 落ちてしまった斧を拾ったキャラルイトル様は、私に、ゆっくりと近づいて来た。

「うわあ…………わあ……わあ! まさか逃げるなんて……死なないように拘束を弱くしたのが問題だったのかな…………」
「……何が目的なのです……? 私を殺せと、そう命じられているのですか?」
「……んーーーー…………さあ? どっちでもいいじゃないですか。そんなこと。ただ、あなたがあまりにも元気だから……ちょっと切ってみたくなっただけです」

 キャラルイトル様が話している間にも、斧は妙に柔らかいもののようにぐにゃぐにゃと曲がり、光りながら刃の部分がどんどん大きくなっていく。

 魔力でわざわざ斧を大きくしている……

 ゾッとするような殺意。焼けるような殺意が、迷いなく、私の命を狙っている。そして、優位に立った者の強い視線。

 ゾクゾクする。

 ねじ伏せたくなる。

「…………キャラルイトル様……」
「……なに?」
「……私も、同じですわ…………」
「何が……?」
「……いきのいいあなたを……ねじ伏せたくて堪らないのです…………」

 いつか教えられた時のように、片手に魔力を集中。そこに防御の魔法をかけると、全身が激しく熱かった。鎖を引き千切り、私は剣まで走る。

 強化した拘束まで解くなんて、思っていなかったのだろう。キャラルイトル様は驚いて、私への対応が遅れた。

 剣でキャラルイトル様の斧を振り払い、その体を弾き飛ばす。
 斧は簡単に消えてしまい、キャラルイトル様自身も弾き飛ばされ壁まで吹っ飛んで倒れてしまった。
 そのまま彼は動かない。

 警戒しながら近づくと、彼はすでに気絶していた。
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