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37.白々しいですわ!
しおりを挟む私の周りにいた兵士の方々は全員、鎖に囚われて動けない。
「ぐっ…………なんだっ……これはっっ!!」
「フィリレデリファっ……! 貴様!!」
喚く方々が私を睨みつける。
自慢の兵士たちを拘束されたからか、グラウワウル殿下は頭に血が昇ったようだ。
「貴様っ…………フィリレデリファ!! こ、こんな真似をしてっ……」
「あら。私はただ、ほんの少しだけ殿下とお話がしたかっただけですわ………… 」
「黙れっっ……! 貴様は恐ろしい方法で処刑してやるっ……!」
「…………罪人になった私を、また痛めつける気ですか? あの時と同じですわね。あなたが私の体に、鞭の傷跡を作ったあの時と」
「……っ!」
怒りを触発された男が顔を歪める。あの時私は、ここを管理するための指輪を抜き取った。そのことを忘れてはいないようだ。
「……貴様は、ここにいるベネディクシアから指輪を抜き取るという大罪を犯した……そんなにまでして指輪がほしかったのか? まずはその指を切り落として、指輪を抜き取ってやろう! 貴様のような悪女は、最も惨たらしい方法で断罪してやる!」
「悪女……ですか? そうですね。私は悪女かもしれません。それなら、私のような悪女が、あの時あなたに非常に従順に鞭で打たれて差し上げたのは、どういう理由か、分かりますか?」
「…………なに?」
「お分かりになりませんか?」
「それは貴様が反省したからだろう。あるいは、俺から指輪を奪うという愚かな行いをしたことに対する微かな罪悪感がそうさせたに違いない!!」
私は、つい噴き出してしまった。
だって、我慢できない。馬鹿らしすぎて。
「なんて馬鹿なお返事! 聞くに耐えませんわ」
「なんだとっっ!!」
「あんなの、従順なふりをして油断させ、こっそり悪事を働くために決まっているでしょう? 私は微塵も反省してませんし、なんなら、もっと上手く抜き取れなかったものかと、自分の腕を反省していました」
「このっっ………………悪女め!」
「ええ。ですから、そう申し上げているではありませんか。けれど殿下。あなたはどうなさるおつもりです? ここにいる方々は、皆さん回復の魔法の薬がないことに気づいてしまいましたわよ?」
「回復の魔法の薬だと?」
ニヤリと笑った殿下は、白々しい態度で言う。
「あれは、魔物との戦いで使っただけだ。魔法使いどもも必ずそう証言する! それが真実なのだからな!」
「あら。すごい自信。まるで、砦の中にいる方々を、完璧に管理できるとでも言いたげですわね……」
「なんだと…………?」
「流用がバレた時には、ここを普段管理している魔法使いたちも責任を問われます。その時、王族に、あの薬はどこへいったと聞かれ、嘘をつけば、王家に嘘をついたことになります。そのようなことを彼らはしません。ここにいる魔法使いたちは、王家のためにと働いているのですから」
ヴクトヘアス様がいい例だわ。私たちがここに来た時に、ヴクトヘアス様は敵わないと知りながら、私たちに向かって来た。それは、王家から預かった砦を守る魔法使いとしての矜持があったからだ。彼らが仕えているのは王家であって、グラウワウル殿下ではない。
そんなことはすっかり忘れていたであろうグラウワウル殿下は、ひどく顔を歪めていた。
「貴様……」
「けれどあなた方には、それでは困るはずです。大人しく指示された嘘をついて、一緒に王家を騙し口裏を合わせてもらわなければ困るはずです。けれど、彼らは王家には嘘をつきません。このままでは」
「だからなんだと言うんだ……」
「ですからあなたは、いざと言うときは彼らを拘束の魔法で拘束し操って、思い通りの証言をさせる気だったのではないのですか?」
「…………」
「あらあら……そのお顔は図星ですか? バレた時の対策まで雑で乱暴ですわね。あなたらしいわ。グラウワウル王子殿下」
「黙れ! 侮辱は許さんぞ!! 一体なんのことだ!!」
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