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39.感謝いたします
しおりを挟む「フィリレデリファ! いるか!?」
叫んで、クウォリアス様が飛び込んでくる。そこには、完全に気絶したキャラルイトル様と、部屋の端で震えるベネディクシア様、失禁までして失神したグラウワウル王子殿下。すっかり彼らを守るどころか、逃すまいと拘束の魔法をかけている兵士たち。
そして、窓枠に座って拗ねる私。
部屋の異様な様子を見て、クウォリアス様は私の方に向かって歩いてきた。
「フィリレデリファ……? これはどういうことだ?」
「どうもこうもありませんわ……クウォリアス様……張り合いがなさすぎて、気抜けしてしまいましたわ……」
私に剣を向けられたグラウワウル殿下は、最初の一撃で私に自らの魔法を打ち砕かれ、突然腰を抜かしてしまった。そしていきなり落ち着けだの話し合おうだの、訳のわからないことを喚き出した。剣を取れと言っても震えるばかりで、私が魔法を使おうとしただけでいきなり失神。そして気絶。あれだけ勢いのあったベネディクシアも、急に泣き出してしまい、彼らは兵士の皆さんによって取り押さえられた。
そして、やっと剣を抜いた憎悪しかない方々の首をとれると息巻いた私の期待のやり場はどこにもなく……これでは窓辺で拗ねたくもなる。
「こちらはもう終わりましたわ……クウォリアス様。王家に使い魔で報告もしました。じきに近くの砦から、場を収める指揮官として、公爵家の魔法使いの方々が来てくださるそうです。それまで罪人どもを逃すな、だそうです。おかげで、こんなところで待ちぼうけですわ……きゃっ!!」
そっぽを向いていた私の手を、クウォリアス様が握る。
だからそういうことをするなと言っているのに!
というか、そもそも私は、なぜこんなにこの男に接近を許しているの!
「く、クウォリアス様っ……な、何っ……こ、こう言うことをなさるのはやめてくださいと申し上げたではありませんか!! ……っ!!」
私は怒鳴っているのに、彼は、私の頬にそっと触れる。すると、そこの痛みがゆっくりと引いていった。回復の魔法をかけられたらしい。
随分乱暴に腕を掴まれたような気がしたから、てっきり喧嘩を売りにきたのかと思ったのに……
いつのまにか、擦り傷を作っていたみたい。キャラルイトル様に襲われた時かしら。そして、斧で切られたはずの髪も元通りに戻っていく。
治ったはずの頬がくすぐったい。
そういうのは苦手だと申し上げたはずなのにっ……!!
とは言え、こんなことで動揺を悟られたくはない。平静を装わなければ。そもそも私が勝手に動揺しているだけで、クウォリアス様は、単に傷ついた人を助けたいという優しさでなさっただけでしょう。何を動揺しているの……普通に冷静にお礼を言えばいいのよ!
「あ、あら…………クウォリアス様。こんなもの、擦り傷ですわ……け、けれど、礼は言っておきます! あ、ありがとう……ございます…………」
早速落ち着かない私に、クウォリアス様は真剣な目を向ける。
「何をされた?」
「……は!? な、何をっ……!?」
「顔に傷を作っていた。髪も切られていた。何をされた?」
「何もされてませんわよ!! た、ただ……少しキャラルイトル様と手合わせしただけですわ!」
「手合わせなら、俺としろ。他の連中とは、二度とするな」
「な、なぜです……!?」
「なぜだと?」
「ひっ……!!」
腰に回った手で抱き寄せられて、彼の顔が怖いくらいにそばにある。普段なら、こんなに簡単に他人に接近を許したりなどしないのにっ……!
なんなのこれは……戦闘でもないのに、胸が高鳴る。どうかしてるわ……
こちらが慌てるばかりだというのに、クウォリアス様はじっと私を見下ろしている。
「もう一度言う。二度と、俺以外の奴と手合わせするな」
「か、勝手なことをっ……なぜあなたにそんなことを言われなければならないのですっ…………!? あ、あなたこそ、お手合わせの約束、忘れていませんわよね?」
「当然だろう。フィリレデリファとの約束だからな」
「ま、またそんなことをっ……! で、でしたら今すぐに、出会った頃のあなたに戻ってください! 私を殺すと息巻いていたあなたに!! い、今のあなたでは……殺意が足りませんわ!」
「……俺も、助けにきた女に、殺意が足りないと訳のわからん説教をされたのは初めてだ」
「……やめてください。あなたには、私が王子殿下たちを引きつけている間に、拘束の魔法の道具を破壊していただかなくては困ります」
私は、魔法の風でその手を振り払い、窓に飛びついた。
「て、手合わせで手を抜いたら、ただじゃおきませんわよ!? わ、私はっ……そういうのは苦手なんです!」
「待てっ……!」
呼び止められて、つい、振り向いてしまう。
何で止まったの……私。だって勝手に足が止まってしまったんですもの。
「…………あ、あの拘束を解く方法を教えて下さったことには……か、感謝いたしますわっ…………失礼します!」
それだけ言って、私は魔法を使い、窓から外に飛び出した。
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