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向かった先は兄様の部屋。
他の部屋とは明らかに違う、一回り小さな扉の前に立った僕は、俄に震え出した手を握ると、扉を二回叩いた。
そしてもう一度、今度は一回だけ扉を叩く。
それは〝僕〟だと言うことを知らせる合図で、僕は返事を待つことなく扉を開けた。
「おかえり、智樹。今日は随分遅かったんだね?」
カーテンの隙間から差し込む光すらない部屋で、キッと軋んだ音がする。
「着替えを……していたから」
苦し紛れの言い訳。
「そうか、それは残念だな。僕は制服姿の智樹が好きなのに、どうして?」
部屋の照明を最大限に抑えた室内で、ゆっくり動き出す椅子。
それは時折軋んだ音を立てながら、じわりじわりと僕との距離を縮めて来る。
「あ、あの……、学校で汚してしまったので……」
僕は言い訳の上に更に嘘を塗り重ねた。
「そう。じゃあ仕方ないね? さ、僕に良く顔を見せておくれ?」
兄様が椅子に座ったままで、僕の顔に手を伸ばす。
「少し熱いね?」
僕の頬に触れた兄様の手が、僕の額に触れる。
「熱は……ないようだね?」
顔が上気しているのを悟られたくなくて、僕は兄様の手から逃れるように顔を背けた。
「松下は?」
兄様の冷えた手が僕の手を握る。
「もう来るかと……」
僕が言いかけた時、トントントンと扉を叩く音が聞こえて、ゆっくりと開いた扉から、木製のワゴンと共に松下が部屋に入って来た。
他の部屋とは明らかに違う、一回り小さな扉の前に立った僕は、俄に震え出した手を握ると、扉を二回叩いた。
そしてもう一度、今度は一回だけ扉を叩く。
それは〝僕〟だと言うことを知らせる合図で、僕は返事を待つことなく扉を開けた。
「おかえり、智樹。今日は随分遅かったんだね?」
カーテンの隙間から差し込む光すらない部屋で、キッと軋んだ音がする。
「着替えを……していたから」
苦し紛れの言い訳。
「そうか、それは残念だな。僕は制服姿の智樹が好きなのに、どうして?」
部屋の照明を最大限に抑えた室内で、ゆっくり動き出す椅子。
それは時折軋んだ音を立てながら、じわりじわりと僕との距離を縮めて来る。
「あ、あの……、学校で汚してしまったので……」
僕は言い訳の上に更に嘘を塗り重ねた。
「そう。じゃあ仕方ないね? さ、僕に良く顔を見せておくれ?」
兄様が椅子に座ったままで、僕の顔に手を伸ばす。
「少し熱いね?」
僕の頬に触れた兄様の手が、僕の額に触れる。
「熱は……ないようだね?」
顔が上気しているのを悟られたくなくて、僕は兄様の手から逃れるように顔を背けた。
「松下は?」
兄様の冷えた手が僕の手を握る。
「もう来るかと……」
僕が言いかけた時、トントントンと扉を叩く音が聞こえて、ゆっくりと開いた扉から、木製のワゴンと共に松下が部屋に入って来た。
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