29 / 49
29話 12体の幻獣
しおりを挟む
それから僅か数十分後、街の城壁近くに大型のグリフォンが出現した。
鷲の頭に獅子の胴体、翼をもつ幻獣が12体だ。
「只のグリフォンじゃないね。あれは赤目だよ」
「赤目のグリフォンですか? 何でこんな所に?」
人の手で呼び出された幻獣は赤目になると言われている。
生命力を捧げて召喚するらしいが、詳細は分からない。
俺は少し前に「自然のグリフォン」と遭遇したばかりだが、そもそも幻獣自体そんなに頻繁に出会うものじゃないんだが。
「無理矢理召喚したんだろうね」
「12体もですか?」
「かなりの生命力を糧にして呼び出されているはずだよ」
クリフさんは真剣な顔でグリフォン達を見つめている。
「12体もの幻獣を召喚して、ましてやコントロールするなんて……」
クリフさんは考え込んだ後、ハッとして顔を上げた。
「まさか、魔術師の塔の力を使って制御するつもりなのか?」
魔術師の塔には、生命力を魔力に変換する機能が備わっているらしいからな。
このままだと由々しき事態に発展しそうな感じだ。
「多くの生命力を魔力に替えて、幻獣をコントロールするんですよね? じゃあ、もしかしてその生命力の出所って……」
「贄となるのは、アルトスの街の住人全てだろうね」
予想通りの答えに俺は絶句する。
まともな人間がやる事とは思えないが、ダンログのアルトス侯爵家ならやりかねないからだ。
「多くの魔術師達が関わっているのは間違いなさそうだ。指揮しているのはダンログ君かな?」
「そうかもしれませんね。あいつは大量虐殺だろうと躊躇しませんから」
「信じられないような事をなさいますのね。このままだと街の方達の生命力が尽きてしまいますわ」
――そうだ。早く手を打たないと。
俺は拳を握り締めた。
「焦りは禁物だよライル君。明日になれば犠牲になる人達も出て来ると思うけど、数時間程度なら命に別状はない。だから、しっかりと策を練ろう」
「……分かりました」
「あれだけの幻獣を召喚したのであれば、街を全て犠牲にするつもりでいるのでしょう? そこまでして一体何を欲しておりますの?」
するとクリフさんは、言い淀みながら喋り出す。
「結界を消滅させた事が関係しているかもしれない。元々、魔術師の塔については黒い噂が絶えなかったんだ。世を乱す研究をしているとも、人智を超えた研究をしているとも言われていて、それには多くの命が犠牲になるだろうともね。真偽不明の話ではあったんだけど、今回結界が消えると同時に、魔術師達は急に動き出した」
そう。まるで何かを焦っているみたいに。
「今までは、露呈しないように結界でカモフラージュしていたのかもしれませんわね。けれど結界は、わたくしが消滅させてしまいましたから。それで魔術師の皆様が、行動に移してしまったと。……わたくしの責任ですわね」
「違うよティリアちゃん。結界が消えたからこそ、彼らは動かざるを得なかったんだ。それだけ危険な研究をしていたんだよ。結界を消さなかったら、むしろ手遅れになっていたかもしれないと思わないかい?」
ティリアは唇を噛み締める。
「そもそも、あいつ等は何をやっていたんだ?」
俺は呟いた。
魔術師の塔に所属しているのは、国内最高峰の魔術師達だ。
無意味な研究をやっていたとは思えない。
「12体の幻獣であれば、もしや神のゆりかご……ではないかしら?」
「神のゆりかご?」
神のゆりかごって何だ?
「ライル君は聞いた事ないかい? 神界12柱、つまりは神を誕生させるのさ。それも人為的にね」
「そんな事が出来るんですか?」
「普通に考えるなら難しい。理を無視するものであり、世の崩壊を招きかねないものだしね。それにこの研究については、世界中の国々が協定を結んでいる。研究者は全員死罪になってしまう程の重罪だよ」
クリフさんは「しかし」と言って首を振る。
「彼らはなりふり構わず12体の幻獣を呼び出した」
「もしかしたら、危険な研究は思った以上に形になっているのかもしれませんね。成功する目途が立っていなければ、こんな事なんてせずにさっさと逃亡しているでしょうし」
「そうだね。完全に失敗するとは思っていないからこそ、今この時に行動したんだろう」
とにかく放っておけないのは分かった。
「とりあえずグリフォンを全滅させよう。考えるのはそれからだね」
「でしたら、わたくしがやりますわ」
「ティリアは疲れてるだろ。俺がやるから休んとけよ」
そして俺達は動き出した。
鷲の頭に獅子の胴体、翼をもつ幻獣が12体だ。
「只のグリフォンじゃないね。あれは赤目だよ」
「赤目のグリフォンですか? 何でこんな所に?」
人の手で呼び出された幻獣は赤目になると言われている。
生命力を捧げて召喚するらしいが、詳細は分からない。
俺は少し前に「自然のグリフォン」と遭遇したばかりだが、そもそも幻獣自体そんなに頻繁に出会うものじゃないんだが。
「無理矢理召喚したんだろうね」
「12体もですか?」
「かなりの生命力を糧にして呼び出されているはずだよ」
クリフさんは真剣な顔でグリフォン達を見つめている。
「12体もの幻獣を召喚して、ましてやコントロールするなんて……」
クリフさんは考え込んだ後、ハッとして顔を上げた。
「まさか、魔術師の塔の力を使って制御するつもりなのか?」
魔術師の塔には、生命力を魔力に変換する機能が備わっているらしいからな。
このままだと由々しき事態に発展しそうな感じだ。
「多くの生命力を魔力に替えて、幻獣をコントロールするんですよね? じゃあ、もしかしてその生命力の出所って……」
「贄となるのは、アルトスの街の住人全てだろうね」
予想通りの答えに俺は絶句する。
まともな人間がやる事とは思えないが、ダンログのアルトス侯爵家ならやりかねないからだ。
「多くの魔術師達が関わっているのは間違いなさそうだ。指揮しているのはダンログ君かな?」
「そうかもしれませんね。あいつは大量虐殺だろうと躊躇しませんから」
「信じられないような事をなさいますのね。このままだと街の方達の生命力が尽きてしまいますわ」
――そうだ。早く手を打たないと。
俺は拳を握り締めた。
「焦りは禁物だよライル君。明日になれば犠牲になる人達も出て来ると思うけど、数時間程度なら命に別状はない。だから、しっかりと策を練ろう」
「……分かりました」
「あれだけの幻獣を召喚したのであれば、街を全て犠牲にするつもりでいるのでしょう? そこまでして一体何を欲しておりますの?」
するとクリフさんは、言い淀みながら喋り出す。
「結界を消滅させた事が関係しているかもしれない。元々、魔術師の塔については黒い噂が絶えなかったんだ。世を乱す研究をしているとも、人智を超えた研究をしているとも言われていて、それには多くの命が犠牲になるだろうともね。真偽不明の話ではあったんだけど、今回結界が消えると同時に、魔術師達は急に動き出した」
そう。まるで何かを焦っているみたいに。
「今までは、露呈しないように結界でカモフラージュしていたのかもしれませんわね。けれど結界は、わたくしが消滅させてしまいましたから。それで魔術師の皆様が、行動に移してしまったと。……わたくしの責任ですわね」
「違うよティリアちゃん。結界が消えたからこそ、彼らは動かざるを得なかったんだ。それだけ危険な研究をしていたんだよ。結界を消さなかったら、むしろ手遅れになっていたかもしれないと思わないかい?」
ティリアは唇を噛み締める。
「そもそも、あいつ等は何をやっていたんだ?」
俺は呟いた。
魔術師の塔に所属しているのは、国内最高峰の魔術師達だ。
無意味な研究をやっていたとは思えない。
「12体の幻獣であれば、もしや神のゆりかご……ではないかしら?」
「神のゆりかご?」
神のゆりかごって何だ?
「ライル君は聞いた事ないかい? 神界12柱、つまりは神を誕生させるのさ。それも人為的にね」
「そんな事が出来るんですか?」
「普通に考えるなら難しい。理を無視するものであり、世の崩壊を招きかねないものだしね。それにこの研究については、世界中の国々が協定を結んでいる。研究者は全員死罪になってしまう程の重罪だよ」
クリフさんは「しかし」と言って首を振る。
「彼らはなりふり構わず12体の幻獣を呼び出した」
「もしかしたら、危険な研究は思った以上に形になっているのかもしれませんね。成功する目途が立っていなければ、こんな事なんてせずにさっさと逃亡しているでしょうし」
「そうだね。完全に失敗するとは思っていないからこそ、今この時に行動したんだろう」
とにかく放っておけないのは分かった。
「とりあえずグリフォンを全滅させよう。考えるのはそれからだね」
「でしたら、わたくしがやりますわ」
「ティリアは疲れてるだろ。俺がやるから休んとけよ」
そして俺達は動き出した。
0
あなたにおすすめの小説
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる