【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

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楽しいお茶会……?【5】

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 澪は臆する事なく続けた。

「消費量はどこの郷よりも多いのに対し、生産量は翠穣郷を超えられません」

「その通りだ。それ故、翠穣郷との取引で買い付けている。洸烈郷も栄泰郷同様農家の多い郷ではない」

「富裕層はそれでもいいかもしれませんが、貧しい村は今も飢えに苦しんでいるはずです。洸烈郷は匠閃郷に次いで貧富の差が激しい郷です。匠閃郷同様、村を回り枯渇した田や畑を復興させる必要があると思うのです」

「……考えていないわけではない。今の経費ではそこまで回らぬのだ」

 郷の経費の管理は朱々が行っているが、煌明が残額を全く把握していないわけではない。このまま郷が衰退していくようなことがあれば責任は全て煌明へとやってくるのだ。
 どこに何の経費が使われているかくらいは理解しているつもりだが、武具を調達したり煌明の酒代にも消えている。人気の剣術大会の主催や景品にも金はかかる。
 大会を観戦にくる富裕層の民から観戦料をとっているが、貧しい村を復興させている余裕などとてもないのが現状であった。

「ですから、人手があればそれも可能です。お金があれば人が動くことがあります。ですが、お金がない時に人を動かすことができるのが人徳です。翠穣郷の民は皆、落様を慕っておられます。統主の命であればきっとよい働きをして下さるでしょう」

 そう言って澪は嬉しそうに笑う。匠閃郷の民達が歩澄を慕い、涙を流して礼を言う場面を思い出したのだ。
 そんな澪を見て歩澄は「それで何故潤銘郷は五十名なのだ?」と面白そうに微笑む。

 貧しい村の復興を目的とするのであれば、富裕層ばかりの潤銘郷には人員など殆ど必要ない。にも関わらず、残りの五十名を潤銘郷に送るからには何か目的があるに違いない。それは何なのかと歩澄も胸を高鳴らせた。

「潤銘郷はお金はありますからね。飢えに困るような家も殆どないようですし……。ただ、とても綺麗好きですので、飲み水にも拘る方が多い。そこでもっと効率的に飲み水を濾過するためのものを潤銘郷と共に開発しては如何かと思うのです」

「開発?」

「翠穣郷から入荷するお水はとても綺麗で美味しいです。濾過の精度が高いからです。しかし、一度に濾過できる量は限られていて、時間もかかります。故に飲み水は何よりも物価が高い」

「それは私達も考えているが、何せ技術と経費の面でどうにもならん。……だから潤銘郷でというのか?」

 伊吹は驚いたかのように瞳を揺らした。今まではどこかの郷と共同で何かを成し遂げようとする動きなどなかった。故に、濾過の技術も翠穣郷だけに留めており、結果翠穣郷で可能な範囲でしか純度の高い水は生産できないのだ。
 それを潤銘郷で行うことで可能にしようとするのだから、伊吹でさえ目から鱗である。

「はい。翠穣郷は濾過の知識を提供する代わりに潤銘郷が経費を出し、濾過機を匠閃郷の民が作ります。きっと物作りに長けている匠閃郷の民であれば、翠穣郷の民が作った濾過機よりももっと精度の高いものが作れるでしょう」

「何だと……」

 澪の言葉にそこにいた全員が言葉を失った。それは前代未聞の三郷共同作業である。今まで信頼関係など築いてきていない郷同士には困難な提案。
 しかし、澪が言うとそれも可能なように思えるのだから、皆絶句する他ない。
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