魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン

文字の大きさ
370 / 909
第二十二章 鬼の義肢と襲いくる災難

雑談

しおりを挟む
僕をが酒呑と言い争いを始めたと思ったのだろう。リンが割って入り、まぁまぁと僕を酒呑から引き離した。
そして酒呑に聞こえないように小さな声で囁く。

「……君は知ってるんだろうけどさぁ、彼やばいんだよ。色々……強さだけじゃなくてさ。だからさ、あんまり喧嘩とかしない方がいいよ」

僕の身を心配してくれているのだろうか、そうなら嬉しい。例え妙な趣味からくるものであったとしても。

『何話しとるんや変態』

「あぁちょっとね……って誰が変態だ!」

『……遅い、五点。さっきの儲け話か?』

何の採点なのかは置いておいて、儲け話というのを聞いておこう。

「儲け話って?」

「……儲けってほどでもないけど、裏社会の死体処理業なら彼でも出来るんじゃないかって」

『ええ話やろ。運良く新鮮な死体もろたらそれが飯になるし、金も貰える』

新鮮な死体が飯、か。食人というのはそんなに良いものなのか、他に美味しいものなんていくらであると思うのだが。まぁ、人間と鬼の感覚が同じとは思えないし、それは別にいい。

「裏社会って……」

『あぁ?  なんや。金返せ言うといて真っ当に働いた綺麗な金やなかったら受け取らへんとか言わんやろうなぁ』

「いや、返してもらえるならなんでもいいんだけどさ。死体が出る原因が気になって」

『ゴロツキ共の喧嘩やろ』

それなら当人同士の問題だからどうでもいいけれど。
もし少し前のナハトファルター族のように奴隷や研究材料として連れてこられた人々だったら、と思うと素直に返事が出来ない。

「俺も詳しくは知らないけどさ、抗争で出る死体やライバル企業のスパイがほとんどらしいよ?」

「……どこから手に入れた情報なんですか?」

「…………匿名掲示板だけど」

『何気にしとるんな頭領は』

「いや、気にするよ。そんな仕事が必要なくらい人が死んでるってなると、魔物とか関わってそうだし」

酒呑は呆れたように深くため息をつき、首を振って僕の肩に手を置いた。子供に諭すように、ゆっくりと話し出す。

『あんな、頭領。人間って割とそういうもんやねん。結構殺し合いしよんねんて。俺ら鬼が全盛期の頃でも俺らが攫ったより人が殺した方が多かったで』

「でも……っ!」

反論しようとしたところでリンが割って入る。僕達を引き離し、諌めた。

「変な死体見つけたらヘル君に連絡、でいいんじゃないですか?」

『おー、ええのぉ、流石学者センセーは言うことちゃいますなぁ』

「いやぁそれほどでも……ヘル君はどう?」

人間が人間に殺されているのならどうでもいい、と言った覚えはないのだが、二人はそう解釈しているらしい。
僕は当人同士で理解した上での殺し合いならどうでもいいと思っただけで、集団対一人や拉致や人体実験までは許容していない。

『で、変な死体てどう見分けんの?』

「えっ?  えー……分かんないですか」

『分からへんよ。そら魔物の喰い残しとかやったら見たら分かるけどな』

「うーん、どう?  ヘル君」

「…………あ、魔力とかじゃなくてさ、その……死体の損傷具合?  とか見てさ、たくさんの人から殴られてたり、変な器具使った痕だったりとかで判断出来る?」

それが出来れば個人の諍い以外のものを見分けられる。
個人の諍いならきちんと法的処置が取られるべきだとは思うが、僕はそこまで関わりたくないし、この国の体制もよく知らないから意見出来ない。

「フクロにしたっぽいのんやら針の痕っぽいのんやら見つけたら頭領に言ったらええねんな」

「うん、お願い」

「……あのさ、提案しておいてなんなんだけどヘル君本当にいいの?  普通に犯罪者だよ?」

「元から犯罪者みたいなものですし」

その現場を見た事はないが、鬼達は確実に人肉を喰っている。主食がどうかは知らないが、喰ったことはあるし、今後も喰い続けようとしている。
積極的に人間を狩らないのなら別にいいかな、なんて僕の感覚も麻痺してきた。

「……そうだね。食人鬼だったね」

『鬼やけど』

「…………そうだね。あ、ねぇ人ってどんな味するの?」

リンは歳に似合わない無邪気な表情で酒呑に尋ねた。酒呑は少し面食らったようだったが、口に手を当てて虚空を見上げ、思い出すような仕草を始めた。

『肉自体は不味い』

「えっ」

『人間喰いそうなもんに例えたら……せやな、猪とかやろか。鹿とか馬とか……うぅん、人間からしたら臭いキツいんちゃう?』

「あー……獣って臭み強いらしいね。人間もか……」

『俺ら魔物やからなぁ、肉そのものの味やのうて魔力の味を重視するんや。魔力で言うたら人より美味いもんはそう無いわ』

「魔力……なるほど」

リンは何に興味があって真面目に聞いているのだろうか。
人を……それも兄を喰ったことがある僕は彼らの会話を不快な気持ちで聞いていた。

『魔力の味は人間には分からへんやろうなぁ、分かっとったら喰っとるやろうし』

「……食人鬼って大体若い女がいいって言うんだけど、どうなの?」

どこで手に入れた情報なのだろうか。いや、聞いても不快になるだけだろうし黙っておこう。

『人間はそら柔らかい肉好きやからやろ。魔物が若い女好きなんは女の方が魔力溜め込んどるからや、腹ん中で生命作れるようなっとるからなぁ。だから若い女……孕めるようになって何年か経った処女が格別美味い。一定の歳越えると溜め込める絶対量が減ってくるからその際がええなぁ』

「へー……なんで処女?」

『せやから魔力。人間腹ん中で作ったら溜め込んだ魔力減るに決まっとるやろ?  作らんくてもその行為したら一緒、ちょっと減るんや』

「ふーん。ところで俺童貞なんだけど味どうなの?」

『……一回も出してへん言うんやったら美味いやろな。そもそも肉硬そうやしスカスカそうやし喰いたないけど』

「なるほど……ぁ、でも最近してないな。キマイラ達がうるさいからそんな気にならなくて……」

『…………そんなん知りとないからこの話やめへん?』

意外にも話を切り上げたのは酒呑の方だった。
僕は話の内容のせいか苛立って唸り始めたアルを宥めるのに必死で、リンを咎めることも酒呑に遠慮を促すことも出来なかった。だから酒呑には心の中で賛辞を送っておく。
リンは渋々と言った様子で黙り、恨めしそうに酒呑を見つめた。だが酒呑に睨み返され、すぐにそっぽを向いて下手くそな口笛を吹いた。

僕達が無言になってしばらくすると、茨木が満足そうな顔をして戻ってくる。黒い靴下に包まれた足がベルト付きのブーツに締められて、さらに足が細く見えた。

『おー……変わってへんな?』

『そら隠し武器ですから。見えてたらあきまへん』

『そらそうやな。見せてくれんか』

『はぁい、仰せのままに』

茨木は右腕の袖を捲り上げ、左手を右肘に添える。
中指と薬指間から腕が裂けるように割れ、機械の断面が露出し、筒が造られていく。変形所要時間はおよそ二秒半と言ったところか。

『……なんやこれ』

『銃です。試し打ち……してええ?』

『ええんちゃう?』

「 待 っ て !  撃たないで、適当に返事しないで、許可取ろうとくらいはして!」

僕が鬼達を止めている間、茨木の腕を改造した彼らが壁に二重の円を描く。

「……え?  撃っていいの?」

『──許可、此処はもう破棄する』

『よっしゃ撃て茨木。他のんもあるんやったらそれもやれ』

『はぁーい』

茨木は銃を構え、酒呑は僕に勝ち誇った笑みを向ける。ぴゅん、と銃を撃ったとは思えないような高い電子音が鳴り、一瞬遅れて円が描かれた壁が吹き飛ぶ。床に空いた穴ぼこと同じように、凄まじい熱で溶かされた鉄がどろりと落ちた。壁に作られた穴は真円で、断面は赤く光っていた。

『…………すごい』

当の本人も惚けた顔で壁の穴を見ていた。

『……もう俺より強いんちゃうん。嫌やで。頭領何とかしてーや』

「えっ……知らないよ。お酒飲んでばっかだから悪いんだろ、大人しく捨てられなよ」

面倒臭い酒呑の絡みを彼の見当違いの返事で躱し、茨木に「他の武器も試して欲しい」とねだる。僕もその恐ろしく強力な武器に好奇心が湧いてきた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...