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なでなで
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腹から鎖骨までがシャツの下から露出している。
首輪を覆うように上に丸められたシャツは、もはや服としての意味を成さない。
「な、何するんですか!?」
「ナデナデだよ?」
「ふく……服!」
「やだなぁ、ペットなのに普段は服着てるだけでも感謝してよ」
「なっ……!?」
ずっと変わらない無邪気な笑顔。先程までとは打って変わった高圧的な態度。俺はその二つに混乱して、腹に忍び寄る手に触れられるまで気が付かなかった。
「……ちょ、本当に、やめてください」
「くすぐったい? ダメだよ、言ったでしょ。これはご褒美なの」
「俺は嬉しくありません!」
「大丈夫。嬉しくさせてあげるから」
雪兎の細長く冷たい指先が腹を這い回る。がしがしと撫でられたならまだ良かった、雪兎は優しく触れているかどうかも曖昧なくらいに、指先だけで撫でてくる。
「……っ、ぁ……ユキ様、もういいでしょ」
「だーめー。あははっ、そんなにくすぐったい? 意外と弱いねぇ、可愛い可愛い」
「本当に……嫌なんですよ、これっ!」
「……あ、ポチ、腹筋結構割れてるね、かっこいー。僕は鍛えてもあんまり筋肉つかないんだよね。ポチって何かスポーツしてたの?」
「何も、してませんよ。俺っ……ずっと、帰宅部」
「へぇー? じゃあ体質かなぁ」
何気ない会話をしながらも、雪兎の手は止まらない。うっすらと割れた俺の腹筋の溝に指を滑らせては、楽しそうに笑う。
「んっ……!? な、どこに!」
「何? おへそそんなにイヤ?」
「嫌です!」
「へぇ……そっか、ここ好きなんだ」
「違う!」
臍の窪みに中指を合わせて、手のひら全体で軽く押す。今の今までろくに触れもしなかったくせに、今度は下腹をぐいぐいと押してくる。
「これはどう?」
「んっ…………や、いや、です」
「えー、強情だなぁ。そろそろ気持ちいいでしょ?」
「そんなことありません!」
図星を突かれて顔が熱くなる。きっと耳まで真っ赤になっている。こんなの「はいそうです」と答えたようなものだ、腹を撫でられただけで、少し押されただけで感じましたと。
「ほら、ほら……どう? どうかな?」
雪兎は力を込めるのに一定のリズムを作り出した。ぐっ、ぐっ、と俺の上で跳ねるように雪兎の身体が揺れる。
俺は押される度に声を漏らして、赤くなっているだろう顔を隠した。
「あー、顔隠しちゃダメだよ」
「ご、ごめ、なさ……あっ、や、ぁ……んっ」
「ふふ、もっかい聞くよ? 気持ちいいでしょ?」
「……っ…………いぃ、です」
「ん?」
「気持ちいい、ですっ」
「あっははは、やっと認めた。強情だなぁ。でもそういうの好きだよ。可愛い可愛い」
雪兎は俺の腹から手を離し、シャツを引き下げる。
撫でるのはもう終わりらしい。
「…………ユキ様」
「じゃあ次は抱き枕ね。夕飯までゴロゴロしよっ!」
「あ……はい、分かりました」
雪兎は俺の上に乗って、胸に顔をうずめて心底嬉しそうに笑った。絡められて揺らされる足が視界の奥に見える。
身体の奥が疼く、もう少ししていてくれれば、もっと強く押してくれれば、他のところも触ってくれれば──何を考えているんだ、俺は。
俺はペットだ、従順なペット。飼い主に欲情なんてしない。飼い主の愛撫で興奮なんてしない。
俺は身体の熱を冷ましたくて、冷たい雪兎を抱き締めた。背に回した腕から雪兎に俺の体温が移っていく。俺はそれにすら興奮して、当初の試みは無意味に終わった。
首輪を覆うように上に丸められたシャツは、もはや服としての意味を成さない。
「な、何するんですか!?」
「ナデナデだよ?」
「ふく……服!」
「やだなぁ、ペットなのに普段は服着てるだけでも感謝してよ」
「なっ……!?」
ずっと変わらない無邪気な笑顔。先程までとは打って変わった高圧的な態度。俺はその二つに混乱して、腹に忍び寄る手に触れられるまで気が付かなかった。
「……ちょ、本当に、やめてください」
「くすぐったい? ダメだよ、言ったでしょ。これはご褒美なの」
「俺は嬉しくありません!」
「大丈夫。嬉しくさせてあげるから」
雪兎の細長く冷たい指先が腹を這い回る。がしがしと撫でられたならまだ良かった、雪兎は優しく触れているかどうかも曖昧なくらいに、指先だけで撫でてくる。
「……っ、ぁ……ユキ様、もういいでしょ」
「だーめー。あははっ、そんなにくすぐったい? 意外と弱いねぇ、可愛い可愛い」
「本当に……嫌なんですよ、これっ!」
「……あ、ポチ、腹筋結構割れてるね、かっこいー。僕は鍛えてもあんまり筋肉つかないんだよね。ポチって何かスポーツしてたの?」
「何も、してませんよ。俺っ……ずっと、帰宅部」
「へぇー? じゃあ体質かなぁ」
何気ない会話をしながらも、雪兎の手は止まらない。うっすらと割れた俺の腹筋の溝に指を滑らせては、楽しそうに笑う。
「んっ……!? な、どこに!」
「何? おへそそんなにイヤ?」
「嫌です!」
「へぇ……そっか、ここ好きなんだ」
「違う!」
臍の窪みに中指を合わせて、手のひら全体で軽く押す。今の今までろくに触れもしなかったくせに、今度は下腹をぐいぐいと押してくる。
「これはどう?」
「んっ…………や、いや、です」
「えー、強情だなぁ。そろそろ気持ちいいでしょ?」
「そんなことありません!」
図星を突かれて顔が熱くなる。きっと耳まで真っ赤になっている。こんなの「はいそうです」と答えたようなものだ、腹を撫でられただけで、少し押されただけで感じましたと。
「ほら、ほら……どう? どうかな?」
雪兎は力を込めるのに一定のリズムを作り出した。ぐっ、ぐっ、と俺の上で跳ねるように雪兎の身体が揺れる。
俺は押される度に声を漏らして、赤くなっているだろう顔を隠した。
「あー、顔隠しちゃダメだよ」
「ご、ごめ、なさ……あっ、や、ぁ……んっ」
「ふふ、もっかい聞くよ? 気持ちいいでしょ?」
「……っ…………いぃ、です」
「ん?」
「気持ちいい、ですっ」
「あっははは、やっと認めた。強情だなぁ。でもそういうの好きだよ。可愛い可愛い」
雪兎は俺の腹から手を離し、シャツを引き下げる。
撫でるのはもう終わりらしい。
「…………ユキ様」
「じゃあ次は抱き枕ね。夕飯までゴロゴロしよっ!」
「あ……はい、分かりました」
雪兎は俺の上に乗って、胸に顔をうずめて心底嬉しそうに笑った。絡められて揺らされる足が視界の奥に見える。
身体の奥が疼く、もう少ししていてくれれば、もっと強く押してくれれば、他のところも触ってくれれば──何を考えているんだ、俺は。
俺はペットだ、従順なペット。飼い主に欲情なんてしない。飼い主の愛撫で興奮なんてしない。
俺は身体の熱を冷ましたくて、冷たい雪兎を抱き締めた。背に回した腕から雪兎に俺の体温が移っていく。俺はそれにすら興奮して、当初の試みは無意味に終わった。
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