俺の名前は今日からポチです

ムーン

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おねがいは

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扉の開閉音が聞こえて、反射的に「ユキ様」と叫ぶ。
すっかり犬らしくなった自分にはもう自嘲しか向けるものがない。

「ただいまポチー。いい子で待ってた?」

雪兎が俺の頭や頬を乱雑に撫でる。きっと髪はぐちゃぐちゃになってしまっているだろう。

「……っ、ん、ユキ様……」

「ん?」

「ユキ様…………してください」

「何を?」

「何をって……」

言葉にするのはやはりはばかられる。薬を塗られているとはいえ、雪兎がまともに相手をしてくれないから羞恥心は未だにある。
全く邪魔なものだ、早く捨ててしまいたい。そうなったら……本物のペットだな。

「何して欲しいのかちゃんと言ってくれないと」

「……言ったら、してくれますか?」

「何でも、とは言えないなぁー。出来ないかもしれないし、やりたくないかもしれない」

恥を押して頼んでも断られるのだろう、なら頼まない方がいい。万に一つの望みなど叶う訳がない。

「じゃあ……撫でて、ください。さっきみたいに。頭……優しく、可愛がってください」

「…………それでいいの?」

声色で分かる。雪兎は本心から驚いている。
きっと雪兎は俺がもっと直接的な事を頼むと思っていたのだろう。

「うーん……まぁいいか」

耳の上から指が髪をかき分けて頭皮を撫でる。ゆっくりと、優しく。壊れ物を扱うような手つきで愛撫される。

「ユキ様……っ」

「もー。どーせ「イかせて」とか言ってくるんだろうなーって思ってたのに、どうやって断るかも考えてたのにー。こーんな可愛いお願いじゃやるしかないじゃん」

「ユキ様ぁ……もっと、撫でて」

「もー!  なんなのさ、それでいいの!?  もぅ……可愛いけどぉ!」

雪兎はあまり納得がいっていない様子だ。

「もぅ…………ふふっ」

けれど、喜んでもいるようだ。
雪兎の扱い方が分かってきたような、分かっても思い通りには動かせないような。

雪兎の手は頬に移動して、力も少し強くなって、感触を楽しんでいるのか揉みだした。
だらしなく口を開けているのに引っ張られては唾液が垂れてしまう、雪兎の手に付いてしまうかも──あぁ、それはイイな、そうなればいい。

「ポーチー、ふふっ、ぜーったいに離さないからね?  ポチは一生僕のもの、僕だけのペット。一生一緒、これからずーっと、ね」

どこか蕩けたような声。
雪兎は俺の口の中に両の親指を入れ、中から押し開く。そのまま俺の舌を弄び、くすくす笑う。

「…………だーいすき」

指を抜かれて、顎を持ち上げられて、また別のものが口の中に入ってくる。柔らかくて、熱くて、濡れていて、甘いもの。
雪兎は俺の顎に手を添えて、後頭部を鷲掴みにして、貪るようなキスをする。
俺も雪兎を抱き締めたくて、手錠を力任せに外そうとする。
口から口に与えられる快楽に反応して、縛られたままの足がつりそうな程に反ろうとする。足の指まで開き切って、もう力が入る場所はない。

「ん…………ふふ、ふふふっ、可愛いよ。ねぇポチ、ポチも僕のこと好き?  好きだよね?  そんなとろっとろの顔して僕が嫌いなわけないよねぇ」

答えようとしても口にも喉にも力が入らない。特に舌が痺れてしまったように動かない。

「ねーぇーポチぃー。もう僕なしじゃいられないよね?  僕がいなくっちゃどうにもならないよね?  そうなるようにしてきたんだから、なってくれなくちゃ困るよ」

雪兎の様子がいつもと違う。いつもなら返事をするまで待つはずだし、返事をしなければお仕置きを増やすはずだ。
今の雪兎は俺の返事がない事なんて気にしない、返事を求めていないような気さえした。
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