俺の名前は今日からポチです

ムーン

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あきしょう

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水圧を緩くしたシャワーを雪兎の背中に当て、泡を流していく。終わったと伝えると、雪兎はこちらを向いて膝立ちになった。

「次、前ね」

「…………二週間かぁ」

「何?  約束破る気満々だね。そっかそっか、ポチは僕との約束なんてなんとも思ってないんだ。ペットのくせに飼い主の命令聞かないんだーそっかー」

「分かりましたよ……手ぇ出してりゃいいんでしょ」

二週間射精禁止は俺には苦行どころか死刑だし、雪兎の信用を失くすと本当の意味で生命に関わる。
今のはただ俺に約束を守る気を出させる為の演技だが、全てが方便という訳でもない。拗ねた雪兎のご機嫌取りは面倒臭いし神経がすり減る。

「……ポチってさ、手大っきいよね。なんか硬いし、骨ばってるってやつ?」

「普通だと思いますけどね」

「んー……?  ポチ、ちょっとぐーして」

俺は頭に疑問符を浮かべたまま、握り拳を作る。

「かたーい。あははっ。強そうだね」

「筋トレ趣味なだけなんで、武術の心得とかはありませんけどね」

「少しも?」

「まー授業でかるーく柔道とかはやりましたけど、受け身とれるかどうかってとこですね。あと中学の時に剣道部に入って二ヶ月で辞めました」

授業は学校体育の割にしっかりしていたし、投げ技の一つや二つならまだ覚えている。けれど変に警戒されたくもないので素人のフリをした。

「飽き性なんだね。あ、手開いて」

雪兎は開かせた俺の手にボディソープを出し、泡立てていく。

「あー、かも知れませんね」

「……僕にも飽きた?」

俺の手を胸元に寄せ、何とか聞こえる程度の声で呟いた。
俺は突然の発言に思考が止まってしまい、言葉を返すことが出来なかった。
無言のまま胸を過ぎて、俺の手は腹に移動する。硬直してしまったのは約束を守る上では幸運と言えた。

「なっ……何、言ってるんですか」

絞り出した声は震えていた。

「俺が…………ペットが、飼い主に飽きるわけ、ないじゃないですか。部活と人を一緒にしないでください」

「そう?  飽きてないならいいんだ。変なこと言ってごめんね。びっくりした?」

雪兎は見た目通りの無邪気さでケラケラと笑っていた。
俺は「人の心を弄んで」なんて怒ったりはしない。飽きたかというあの質問はおふざけでもなんでもないと分かっていたからだ。傲慢なくせに不安症なんて、面倒臭い性格をしている。

「……次、足お願い」

俺は湯船から上がり、床に座る。椅子に腰掛けた雪兎の足を膝に乗せ、手を洗う時と同じように洗っていく。
まず指先。裏を満遍なく手のひらで擦って、手と同じように指を絡めていく。

「……ふふっ。ちょっとくすぐったい」

「足の裏弱いんですか?」

「くすぐり好きじゃないんだよね」

「へぇ……参考にします」

「やったらご飯抜きだよ」

「あー……本当に苦手なんですね。やりませんよ、俺は従順なペットですから」

次にふくらはぎ。脂肪はなく肉も最低限しかなく、触れれば骨の形がハッキリと分かる。発達していない筋肉から、足は遅いだろうと予想がつく。
そのまま手を動かし、次は膝。膝と肘は特に念入りにと言う幼い頃からよく聞いた言葉を思い出しながら、凹みに指を這わせて「あんだけ食ってるのに」と健康状態を心配する。軽く曲げられた膝の裏はぷにぷにと柔らかい。ここに擦り付けたら気持ちいいだろうなー、なんて考えてから少し高ぶった。

「付け根の方までしっかり洗ってよ?」

膝を洗い終えると、雪兎は俺の肩に足首を置く。まだ洗っていない左足は床についたままで、右足だけを上げている。
性器が丸見えになった事なんて露ほども気にかけず、足の指で器用に俺の髪を弄んだ。

「……ひっくり返らないよう気をつけて」

片足を上げて座るというのはかなり不安定な体勢だ。俺は主人を心配する良いペットを演じ、再び洗う作業に専念した。
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