俺の名前は今日からポチです

ムーン

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ごあいさつ

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雪兎の髪の匂いを嗅いでいる間に目的地に到着する。扉が開き、男に手を差し伸べられる。

「……どうも」

男に軽い礼を言って、雪兎に腕を絡められ、雪風の背中を追う。

「あの、こっちが挨拶に出向かなきゃならないってどんな人なんですか?」

「次期総理だ」

「わぁー……」

リアクションすら取れなかった、おそらくテレビで見る顔だろう。俺は頬を叩き、気合を入れる。無礼な真似をすれば捨てられる。雪兎には庇われるだろうが、雪風に容赦という言葉はない。
扉が開かれ、出迎えた女性に挨拶をして、宴会の間に。
雪風は襖の前で短く挨拶をして、俺達を連れて奥に進む。

「あけましておめでとう。良い立場だろ?  気に入ったか?」

見覚えのある顔ばかりだ。雪風が立ち止まったのは目立たない政治家の前だった。

「おかげさまでね。ところでそっちの子達は……」

「息子共だ」

「ほー、ユキくんか。大きくなっ……てないね?」

「不思議なことに全く伸びん」

雪風は雪兎の頭をポンポンと叩き、男の前に突き出す。

「久しぶり!  お年玉ちょ……んっ!?」

俺は雪兎の口を押さえ、小さな声で謝って頭を下げる。

「…………あれ、息子さん一人じゃなかった?」

「雪也だ。俺の子だ」

「隠し子認知したの?」

「……そういった冗談は政治家で永年の流行らしいな、不愉快だ」

挨拶に行くと言うからには腰を低くしなければならないと思っていたのだが、雪風の態度は全く変わらず横暴だ。

「スキャンダルを出したら縁を切るからな」

「分かってるって。で、その子はなんなの?」

「……俺の子だ」

「親戚?」

「俺の子」

「まさかとは思うけど、養子とか?」

「俺の子だ。それ以外の情報を無償で与える気はない。雪也の生い立ちがどうであろうと、今は俺の子だ」

良い事を言っているように聞こえるが、これはお年玉を要求しているだけではないのか?  そんな俺の予想は当たって、男は渋々と財布を取り出した。

「仕方ないなぁ。ほら、ユキくん達。お年玉」

「やったー!  おじさん大好き!」

「あ、ありがとうございます……」

札をそのまま渡される。どこに仕舞えばいいのか分からないで、俺は札を持ったまま固まる。

「……おい、俺もユキくんだぞ。それに年下だ」

「えぇ……」

「なんだ、ユキくん達と言っておいて俺には何も無いのか?  嘘つきだな、流石は政治家だ」

「分かった分かった……」

贈賄収賄には数えられないのだろうか。こんな人前でやっていい事とは思えない。

「……ふん、しけてるな」

俺の仕事は雪兎にお年玉をねだらせない事、だったはずなのに、その父親が雪兎以上にタチの悪いねだり方をしている。

「さ、挨拶回りだ。行くぞ」

雪風は俺と雪兎の肩に手を置き、席を回らせる。俺には彼の「挨拶回り」が「お年玉回収」にしか聞こえなかった。
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