俺の名前は今日からポチです

ムーン

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ひとごと

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雪兎はベッドから離れた壁の前で手招きをする。ここに来た当初、許可なく自慰をしただなんて理由で首輪を結ばれた、リングが一面に並んだ壁だ。

「……脱いで」

「えっと、服ですか?」

「そうだよ、早く脱いで。雪風の服でしょ?  それ。パツパツだし、似合ってないし、丈余ってるし…………本当に似合わない、早く脱いで」

そこまで似合わないと連呼されては、自覚していても傷付く。そう軽口を叩きたくなったが、俺を睨む赤紫は心底苛立っているようで、俺は黙って服を脱いだ。
今まではいつの間にか脱がされている事が多かったから、改めて自分で脱ぐと羞恥心が沸いてくる。

「……足開いて」

雪兎は俺が着替えている間にタオルをお湯で濡らして持ってきた。
無表情のまま、精液がこびり付いた内腿を拭われる。それだけでも足が震えてしまうのに、性器周辺も乱雑に拭われて、俺は甘い声を漏らす。

「ん、終わり」

雪兎はタオルを洗濯カゴに投げ入れ、ベッド脇から貞操帯を持ってくる。

「……また、それですか」

「嫌なの?  嫌だろうね、これがあったら浮気しにくいもんね」

「浮気なんてしてませんよ……」

「……座って、自分で拡げて」

俺は体育座りのように膝を立てて座り、背を曲げて壁にもたれ、開脚する。尻の肉を引っ張って、雪兎に穴を見せる。顔が熱くなるのを感じる、雪兎を見ていられなくなる。

「んっ……ぁ、ユキ様……」

ローションに塗れた指が穴の口をなぞる。僅かに曲がった第一関節が中に入る。

「ふっ……ぅ、ぁあっ……!」

バイブにもしっかりとローションが塗り込まれ、小さなそれは俺の中に抵抗なく入ってきた。
いくら小さくとも、前立腺などに当たらないと言っても、圧迫感は確かにあるし、「入っている」という認識だけで俺は芯を熱くしてしまう。

「次、前ね」

陰茎にカバーのような物が被せられ、根元と亀頭の下がベルトで締められる。半ば勃ち上がっていた陰茎を無理矢理に詰められて、それだけで達してしまいそうになった。

「じゃあ、全体を留めて…………はい、完成」

腰にベルトが巻かれ、金属が擦れ合う音と共にバイブとカバーが固定され、さらに窮屈になる。

「ねぇ、僕もね、分かってるんだよ?  雪風とそういうことしちゃうのは、ポチの意志じゃないし、ポチには責任ないって分かってる。でもさ……」

雪兎はポケットから携帯端末を取り出し、俺に動画を見せた。そこに映っていたのは俺だった、俺が雪風の胸倉を掴み、長々と淫らなキスをする様子が完璧に捉えられていた。

「……気が付かなかった?  隠しカメラ、雪風の趣味だよ。他にもあるらしいけど……これ以上のは見る気しなくて、見てないんだ。ねぇ、何したの?  正直に言ったらそれなりの減刑はしてあげるから、雪風から動画は送られてるんだし、嘘吐いても無駄だよ?」

「その、キスの後、胸だけでイかされて、フェラしてもらって、痣いっぱい付けてもらって、その後……雪風を、抱きました」

雪兎の手が首に触れる。静かに胸をなぞっていくのを感じて、歯型を追っているのだと察する。

「抱いたんだ」

「はい」

「どうだった?」

「……万能感というか、征服感というか、そういうのがすごくて、まぁ、良かったです」

表情が無く、口数も少なく、瞳も冷たいまま。雪兎の感情が全く読み取れない。怒っているのは確かだが、だからどうなのか……が分からない。

「ペットが父親抱くなんてね。本当、見境ない人……まぁ、仕事するかセックスするかしかない人だから、仕方ないけど」

「あ、あの……俺は、あの人が、ユキ様にそっくりだから……その、フェラされてる時も、抱いてる時も、俺はずっとユキ様と重ねてて……」

「そう、良かったね。僕はそういうのしないから、疑似体験出来たなら、おめでとう言わなきゃ」

雪兎の言葉はどこか他人事のようで、それが恐ろしい。
まさか、雪兎に嫌われたのではと、愛想を尽かされたのではと、そんな杞憂ではないであろう不安に襲われる。
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