俺の名前は今日からポチです

ムーン

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しっと、さん

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雪兎にとってはマジックが得意な面白いニートの親戚。雪風や俺の叔父への態度は辛辣に感じるのだろう。

「叔父さん……大丈夫?」

「……浅かったみたいでね。大丈夫だよ」

眼帯を付けていて色素も雪兎よりは濃いから意識はしていなかったが、叔父も顔が似ている。弱々しく微笑まれると恨みが萎んでしまう。

「で、刺した奴は? 射殺でもしました?」

「いや、仕事場に返した。教師って土曜も学校行ってるんだな……」

「……え、教師に刺されたんですか?」

「ああ、知らなかったか。不倫兄貴の恋人は教師で、いわゆる……メンヘラ、ヤンデレ?」

「…………メンヘラとヤンデレには明確な違いがありましてね雪風様、いいですか、まず──」

「鬱陶しいオタクやめろ」

大事な違いだ。この辺りのジャンルをごっちゃにする奴が多くて困る。

「包丁持って赤いペンキ飛ばしときゃヤンデレみたいな風潮! 最近じゃヤンキーデレと混じって……」

「おいこら鬱陶しいオタク!」

俺が彼の携帯端末で会話した相手だろう。そういえば「今行く」だとか言っていたな、そしてその後刺されて……俺のせいか?

「一、二週間に一回刃物持って暴れるんだっけ?」

「……包丁持ってウロウロするだけだよ。暴れるのは二ヶ月に一回あるかないか。刺すのは半年に一回あるかないか。人の恋人を異常者扱いしないで欲しいね」

頻度の問題ではないと思う。誰がどう考えても異常者だろう。

「真尋はそんな面倒臭い感じじゃなくていいよな、好き」

「はいはい俺モテ期到来ですね」

どちらかといえばその面倒臭さは雪兎が持っている。
床に刺さったままであろう鋏を思い描き、雪兎の鋭い視線を背に感じながら、雪風をあしらう。

「……は? 待ちなよ風。こんな筋肉ダルマと繊細なあの子を比べないで」

「…………なんだよ、俺の真尋の方がイイのは事実だろ?」

俺の、と言うのはやめていただきたい。雪兎の視線が痛い。それと俺には筋肉ダルマ呼ばわりされるほどの筋肉はない、平均よりやや上程度だ。

「ま、さっぱりしてるのはセフレとして優秀だよね? 恋人には向かないね、寂しいよ」

「殺人未遂と自殺未遂繰り返すような奴セフレにも恋人にも向かないだろ」

「……こんな筋肉ダルマ抱いたら腰痛めるだろ!」

「はぁ!? 抱かれる時のときめき凄いからな!?」

「せめて互いをディスってくださいよ! 俺を巻き込むな!」

雪兎の不機嫌さを感じ取り、これ以上の口喧嘩は困ると雪風の腹に腕を巻き、部屋の外に連れ出した。

「はぁ……ったく、雪兎の前であんまり……やめろ、その今まさにときめいてますって表情やめろ!」

「……真尋、俺は別に……ここでも」

「何の話か分かってしまう自分が憎いっ……」

壁に押し付けて言い聞かせようとしたのは失敗だった。そうだ、こんな密着しているところを雪兎に見られたらどうする。俺も考えが浅い。

「…………真尋、待って」

注意する気も失せて雪兎の元に戻ろうとすると、雪風に後ろから抱きつかれる。だが、俺はその可愛らしい行動に一切思考を割けなかった。
扉の隙間から赤紫の瞳が睨んでいたからだ。
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