俺の名前は今日からポチです

ムーン

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べつじんでいられる

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携帯端末を受け取り、思わず耳に当ててしまう。雪兎からの不満の声が聞こえてすぐに顔の前に持ってくる。

『ポチ、これビデオ通話なんだよー?』

「すいません……慣れてなくて」

俺もそろそろ自分の携帯が欲しいな、元々持っていた物はどこにやられたのだろう。

『……ま、いいけど。ご飯食べてたの? 雪風と一緒に?』

「はい」

『ふぅーん……じゃあ、証拠見せて?』

画面の中、車に乗っているらしい雪兎が悪戯っぽく微笑む。車……車に、乗って──いや、ポチは車にトラウマなんてない。

「証拠……? 証拠、ですか。えっと……空のお皿とかでいいです?」

携帯端末を反対に向け、机の上の空の皿を雪兎に見せた。俺が見える角度に戻すと雪兎は機嫌良く笑っていた。

『まぁ、雪風と一緒に食べてたのは別にいいよ。でも、それだけにしては何か顔赤くない?』

「え? あぁ……食べる前にお風呂入ってたからですかね。茶碗蒸し最後に食べましたし」

食事前の風呂による紅潮が食事を終えた後も残るかどうかは分からないけれど、それはきっと雪兎も知らない。

『お風呂? 一人?』

「ええ、もちろん一人です」

『……どうしてこんな時間にお風呂入ったの? 雪風と何かした?』

「何言ってるんですか。朝食後の筋トレ後のお風呂ですよ。首輪の紐繋がってない時はちょくちょくこのくらいに入ってますよ?」

これは本当だ。頻繁にではないけれど筋トレをして、昼に風呂に入ることもある。

『それは知ってるけど……そう、朝ごはんの後筋トレするくらいに雪風には興味ないんだ?』

「はい、俺はユキ様一筋ですよ」

背後の雪風がどんな顔をしているかも知らないで、俺は微笑んで即答する。

『……雪風とはセックスもキスもしてません。言ってごらん?』

携帯端末の画面が雪兎の赤紫の瞳に埋め尽くされる。

「ユキ様……近くないですか? えっと……雪風とはセックスもキスもしてません」

返事も瞬きもない、通信が悪く止まってしまったのだろうかと画面に触れた途端、赤紫の瞳が瞬きした。

『画面越しじゃ微妙だけど、嘘はついてなさそうだね』

表情だとかで読もうとしたのか? 取調べの素質があるな。

『じゃあ、ポチ。脱いで』

「え……? こ、ここで、ですか?」

『そう。使用人さんと雪風の前で脱いで。全裸ね。あ、携帯は一回返して』

振り返り、二人の無表情を確認する。覚悟を決めて立ち上がり、携帯端末を使用人に返す。

『もう少し上……ぁ、右。うん、そのくらい、この角度保って』

雪兎は俺が映るように使用人に携帯端末の角度の指示を出す。俺は画面の向こうの雪兎を見つめ、浴衣を脱いでいく。
しゅるしゅると音を立てて帯を解く手つきを熱っぽく見つめる赤と赤紫の瞳。そしてただ眺めているだけのサングラスの向こうの目。

『……ふふ、浴衣似合うよね。すっごく……艶っぽい? って言うのかな。すごいよ、可愛い……触りたいなぁ』

薄桃色の唇に白い指先が触れている。俺も画面の中に飛び込んでその唇を奪いたい。
雪兎を眺めていると羞恥心による身体の動きの鈍りが消えて、三人からの視線に羞恥を覚えながらも全裸になれた。

『じゃあ、後ろを向いて。膝をついて、胸を床に……畳かな? 畳に押し付けて、お尻を上げて?』

指示されるままに動く──が、手足が震える。使用人の前で、雪風の前で、猫が伸びをするような体勢になって穴と性器を視線から無防備にするなんて嫌だ。

『わぁ、可愛いね。じゃあ、自分でお尻掴んで、僕に弄って欲しいところを拡げて見せて?』

自分の尻の肉を掴んで広げ、穴の詳細を三人の視線に晒す。腸壁に触れる外気と羞恥によってヒクヒクと震えてしまっているのが自分で分かる。

『…………雪風、どう?』

「何がだ? お前らのプレイ見せられて、どう反応して欲しいんだ?」

『あれ、嫉妬してないの? ポチのこと好きなんでしょ?』

「……馬鹿言えよ。俺が好きだったのはお前の犬じゃなくて真尋だ」

だった? 過去形? いや、雪兎への方便だろう。さっきまで膝に乗って好きだの何だの言っていた雪風が、いくら情けない格好を見せつけてしまっているとはいえ、そんな簡単に好意が萎むはずはない。

『そっか、じゃあ残念。ポチはもうポチだから、真尋とかいうのは居ないんだ』

ポチと呼ばれている間だけは自分がペットでオモチャなのだと認識していられて、真尋でなくてよくなる。雪風に慰められて何とか均衡を保つより楽で、ついついこっちに逃げてしまう。
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