俺の名前は今日からポチです

ムーン

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さんにんでゆうはん、に

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過去と未来を同時に見ているような気分にさせてくれる生き写しの親子。揃って人間離れした美顔に保湿クリームだか化粧水だか……まぁ俺にはよく分からない何かを塗り、首や耳まで広げていく。手の甲で真っ白な髪を持ち上げて扇情的なうなじを晒し、そこにも塗る。

「…………極楽極楽」

本来なら入浴中に言うべきだが、今の方が俺の気分には合っている。

「……あれ、やばっ……なくなった。雪風、貸して」

「一グラム六千円な」

「ケチ! そもそも僕が買ってるのもお小遣いも全部雪風のお金なんだけど!?」

一グラム六千円はおふざけにしても、あのボトル一ついくらするのだろう。化粧品は本当にピンキリだからな……下手に値段にケチをつけると烈火のごとく怒られるし。

「……よし、終わった。まーひろー、飯食いに行こうぜ」

「え、ちょ、ちょっと待ってよ、あと足だけだから待って!」

雪兎の方が塗る面積が少ないだろうに。そう考えつつも細過ぎる足に半透明の液体が塗られていく様子を昂りつつ眺め、終わったら大部屋に移動した。

「……相変わらず豪勢な。どうしてこんなもん食っててそんなに細いんですかユキ様は」

「全部そのまま出てるんだろ」

「下品だよ雪風! 僕はほら……頭に栄養いっぱい送ってるから、雪風と違って」

用意された座布団の上に正座する二人に倣って腰を下ろすと雪兎に睨まれた。

「何ご主人様と目線合わせてるの? 伏せ」

「…………わん」

首輪を付けられ、そこから伸びた紐を引かれ、畳の上に土下座をするような体勢で雪兎の隣に控える。

「……ねぇポチ、喉乾いてない?」

いかにも何か思い付きましたと言わんばかりの声でコップを持つ雪兎の笑顔には不安と期待を同時に覚える。

「…………はい、乾きました」

「わん、って言って」

「……わ、ん」

楽しそうに笑った雪兎は立ち上がって浴衣の裾から左足を出すと雪風の肩に腰を下ろし、左足を俺の前に突き出した。そっと顔を近付けると唇に足の親指が触れた。

「お水飲ませてあげるから、零さずに飲むんだよ」

踵を伸ばした雪兎は膝の上でコップを傾ける。意図を察した俺は慌てて口を開け、雪兎の爪先の下に舌を伸ばした。水はふくらはぎから畳に落ちていくのがほとんどだったが、少量は脛を伝って爪先まで届き、俺の唇を濡らした。

「……ふふっ、そんなに一生懸命僕の足舐めちゃって……可愛いなぁ」

先程塗っていたクリームだとかの匂いや味がある。きっと身体にいいものではない。けれど、雪兎の足の指を掃除するように舐めてしまう。

「擽ったい……ふふ、もういいよ、ポチ。はい、お手ふき。ぺっしていいよ」

雪兎は俺にお手ふきを渡すと使用人を呼びつけて濡れた座布団を交換させた。なんと言うか、坊っちゃまらしいな。

「ユキ、足舐めさせる時は事前に拭いとけ。あとな、水系やるなら足の甲に零すんだ。それと完全な水じゃなくてソースくらいの粘性があるやつの方が……」

「分かったよ今度から気を付ける!」

俺に足を舐めさせて良くなった機嫌が雪風からのダメ出しで悪くなってしまった。

「まーひーろ、お酌して、口で」

「……未成年飲酒強要」

「分かった分かった手でいいから」

机の脇に置かれていた日本酒を雪風のコップ……? でいいのか、猪口? はこれなのか? よく分からないな。まぁとにかく、容器に注いだ。

「やっぱり可愛い子に入れてもらうと味が違うんだよなぁ、これが息子なら尚更……なぁ?」

俺が注いだ分を飲み終えた雪風は雪兎の顔を覗き込む。

「パワハラでーす」

「実の息子が冷たいよ義理の息子ぉ!」

「俺に言われても……」

それより早く何か食べたいのだが、俺はやはり床なのだろうか。

「……ポチ、何してるの。早く座って食べなよ」

「え? 床じゃなくていいんですか?」

「…………やっぱり椅子に座ってないと気分出ない。普通に食べていいよ、食器使っていいし喋っていい」

俺も椅子に座った雪兎に頭を踏まれたりしたい。しかし畳に正座では大して頭の高さが変わらない上、足を自由に動かせない。気分が出なくて当然だ。

「あ、バイブは動かすよ、約束通りね」

まともにご馳走を楽しめると思ったのも束の間、健全な時間の終了を告げる声と共に雪兎が懐からリモコンを取り出した。
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