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たいいん
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誰も応えてくれないのに声を上げ、拘束されているのに身を捩らせ、媚薬に侵された身体の熱を冷まそうとしていた。しかし何もかも無駄に終わり、一晩が過ぎた。
「おはようございます、雪也様。朝食の準備が出来ておりますよ」
気を失うように眠っていた俺を揺り起こしたのは使用人だ、ほとんど同じ髪型とサングラスのせいで顔見知りなのかすら分からない。俺は他人の声を覚えられるような人間じゃない、声優と好きな人は別として。
「いただきまーす……の前に、顔洗って歯磨きたいんですけど」
起こされる前に拘束は全て解かれていた。汗をかいた身体をシャワーで冷やし、それでも滲む快楽を期待する透明の蜜はもう無視をして服を着込んだ。
歯ブラシで歯を磨く、ただそれだけのことなのに俺の性器は膨らんだ。口内には媚薬を塗られてなんていないはずなのに、顎に伝わる振動や舌や頬の内側を掠る刺激に悶えてしまった。
「……いただき、まーす」
フルーツと生クリームを可愛らしく盛り付けられたパンケーキ。俺には全く似合わないそれらは俺の口内や喉に快感と美味を与え、胃に落ちた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまです。迎えの車が来るまではもうしばらくありますので、ご自由にお過ごしください。自慰以外なら何をしても構いません。待合室には本もございますよ」
病院の待合室には絵本しかないイメージなのだが、それは俺が幼い頃に行った記憶しかないからだろうか。中学時代の記憶はないし、高校に上がってからは病気知らずだった気がする。
「……すいません、叔父さんのお見舞い行きたいんですけど」
「ご案内します」
俺が退院したら部屋に置かれた花は処分されるだけだろう。憎い叔父が持ってきたとはいえ花に罪はない、霧吹きで水をやられた花が煌めくのは入院生活の楽しみでもあった、叔父に返してやろう。
「……それ、持っていくんですか?」
「はい、結構可愛い花ですし、いいでしょ?」
「構いませんが……鉢植えのシクラメンとサイネリアとは、性格の悪い組み合わせですね」
花はよく知らない、嫌な花言葉を持っていたりするのだろうか。
「まず鉢植えは根付く、寝付くでタブー。シクラメンは、死、苦の語呂がタブー。サイネリアは別名……というか本名シネラリア、死ね……説明不要」
「……叔父さんにもらったやつなんですけど」
「嫌われてるんですか?」
語呂や贈り主が込めた意味なんてどうでもいい。俺はこの花を可愛らしく感じ、癒された、それが全てだ。
「失礼しまーす、元当主様ー、お見舞いですよー」
使用人は扉を開けてからノックをし、無遠慮にカーテンを開いた。
「……礼儀がなってないね」
「若神子でなくなったヒモに礼儀なんて不要です、礼儀が欲しいならチップでもどうぞ」
なかなかいい性格をしている、嫌いじゃない。
「おはよ、叔父さん。俺もう退院するから花返す」
ベッド横の棚に鉢植えを二つ置く。
「死ね、らりあ……って名前なんだってな」
「花の名前にケチつけるのはやめなよ」
陰湿な嫌がらせをしてきたのはそっちだろう、返ってきただけで文句を言うな。
「縫い終わったばっかりなんだから乱暴しないでよ? 傷開くと痛いんだから……あ、そうそうこれ見てよ」
叔父の顔は雪風と瓜二つだ。髪が銀色なのと、特徴的な青と赤のオッドアイで見分ける。まぁ俺ともなれば本能で分かるが。
雪風にそっくりな叔父が上体を起こして入院着をはだけさせれば、不本意ながら性器が反応する。その白い胸板に擦り付けさせろと熱く昂る。
「うわ……すごい」
叔父の身体は傷だらけだった。その傷の一つ一つは深く、痣を大量に作っていた雪風以上に目を背けたくなる。
「ふふ……えっとね、ここが初めて刺されたとこ、家建ててすぐに別れ話切り出したんだ。ここが二回目、目の前で女の子とキスしてやったんだよね。三回目はこれ、ちょっと浅い、再配達の電話かけてたら浮気と勘違いされて刺された。ここが四回目、こっちが五回目、四回目のはブラフ用に付き合ったメンヘラ女、五回目はその女との浮気がバレて、刺されてフラフラしてたとこ刺された……これ本当にやばかったんだよ、本当に死ぬとこだった、めちゃくちゃ興奮した」
雪風の傷は心が痛くなり、相手を憎むものだった。しかし叔父の傷は全て叔父自身が恋人をけしかけて刺させたものだ、むしろ恋人が可哀想だ。
「ここが十六回目、君も知ってる通り君の家の前で刺されたやつ。で、十七回目は……」
「心底どうでもいい。っていうか……前、港で会った時は刺されるの嫌がってなかったか?」
「マイブームってあるだろ?」
刺されるのが定期的なマイブームだなんて、こいつやっぱ頭おかしいな。
「まぁいいや、今回のは……これか」
刺されたばかりなのだから当然だが、まだ糸が入っている傷がある。思い切り殴ったら体内に拳が入るだろうか?
「うん、今回のは深かったねー……急所ギリギリだし。本気だったね! いやぁ本っ当に可愛いよ涼斗さんっ……! あんな大人しそうな顔して教師なんて真面目な職で騎乗位めちゃくちゃ上手いってのがまた……まぁ俺がしつけたんだけどさぁっ……! あぁやばい勃ってきた、ちょっと抜くからそこのティッシュ取って」
「セルフフェラして飲み干せ。行きましょう、こいつと居たら頭痛くなってきます」
使用人と共に病室を出ると、扉を開けようとしていた長い前髪で目元を隠した男とぶつかった。
「おはようございます、雪也様。朝食の準備が出来ておりますよ」
気を失うように眠っていた俺を揺り起こしたのは使用人だ、ほとんど同じ髪型とサングラスのせいで顔見知りなのかすら分からない。俺は他人の声を覚えられるような人間じゃない、声優と好きな人は別として。
「いただきまーす……の前に、顔洗って歯磨きたいんですけど」
起こされる前に拘束は全て解かれていた。汗をかいた身体をシャワーで冷やし、それでも滲む快楽を期待する透明の蜜はもう無視をして服を着込んだ。
歯ブラシで歯を磨く、ただそれだけのことなのに俺の性器は膨らんだ。口内には媚薬を塗られてなんていないはずなのに、顎に伝わる振動や舌や頬の内側を掠る刺激に悶えてしまった。
「……いただき、まーす」
フルーツと生クリームを可愛らしく盛り付けられたパンケーキ。俺には全く似合わないそれらは俺の口内や喉に快感と美味を与え、胃に落ちた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまです。迎えの車が来るまではもうしばらくありますので、ご自由にお過ごしください。自慰以外なら何をしても構いません。待合室には本もございますよ」
病院の待合室には絵本しかないイメージなのだが、それは俺が幼い頃に行った記憶しかないからだろうか。中学時代の記憶はないし、高校に上がってからは病気知らずだった気がする。
「……すいません、叔父さんのお見舞い行きたいんですけど」
「ご案内します」
俺が退院したら部屋に置かれた花は処分されるだけだろう。憎い叔父が持ってきたとはいえ花に罪はない、霧吹きで水をやられた花が煌めくのは入院生活の楽しみでもあった、叔父に返してやろう。
「……それ、持っていくんですか?」
「はい、結構可愛い花ですし、いいでしょ?」
「構いませんが……鉢植えのシクラメンとサイネリアとは、性格の悪い組み合わせですね」
花はよく知らない、嫌な花言葉を持っていたりするのだろうか。
「まず鉢植えは根付く、寝付くでタブー。シクラメンは、死、苦の語呂がタブー。サイネリアは別名……というか本名シネラリア、死ね……説明不要」
「……叔父さんにもらったやつなんですけど」
「嫌われてるんですか?」
語呂や贈り主が込めた意味なんてどうでもいい。俺はこの花を可愛らしく感じ、癒された、それが全てだ。
「失礼しまーす、元当主様ー、お見舞いですよー」
使用人は扉を開けてからノックをし、無遠慮にカーテンを開いた。
「……礼儀がなってないね」
「若神子でなくなったヒモに礼儀なんて不要です、礼儀が欲しいならチップでもどうぞ」
なかなかいい性格をしている、嫌いじゃない。
「おはよ、叔父さん。俺もう退院するから花返す」
ベッド横の棚に鉢植えを二つ置く。
「死ね、らりあ……って名前なんだってな」
「花の名前にケチつけるのはやめなよ」
陰湿な嫌がらせをしてきたのはそっちだろう、返ってきただけで文句を言うな。
「縫い終わったばっかりなんだから乱暴しないでよ? 傷開くと痛いんだから……あ、そうそうこれ見てよ」
叔父の顔は雪風と瓜二つだ。髪が銀色なのと、特徴的な青と赤のオッドアイで見分ける。まぁ俺ともなれば本能で分かるが。
雪風にそっくりな叔父が上体を起こして入院着をはだけさせれば、不本意ながら性器が反応する。その白い胸板に擦り付けさせろと熱く昂る。
「うわ……すごい」
叔父の身体は傷だらけだった。その傷の一つ一つは深く、痣を大量に作っていた雪風以上に目を背けたくなる。
「ふふ……えっとね、ここが初めて刺されたとこ、家建ててすぐに別れ話切り出したんだ。ここが二回目、目の前で女の子とキスしてやったんだよね。三回目はこれ、ちょっと浅い、再配達の電話かけてたら浮気と勘違いされて刺された。ここが四回目、こっちが五回目、四回目のはブラフ用に付き合ったメンヘラ女、五回目はその女との浮気がバレて、刺されてフラフラしてたとこ刺された……これ本当にやばかったんだよ、本当に死ぬとこだった、めちゃくちゃ興奮した」
雪風の傷は心が痛くなり、相手を憎むものだった。しかし叔父の傷は全て叔父自身が恋人をけしかけて刺させたものだ、むしろ恋人が可哀想だ。
「ここが十六回目、君も知ってる通り君の家の前で刺されたやつ。で、十七回目は……」
「心底どうでもいい。っていうか……前、港で会った時は刺されるの嫌がってなかったか?」
「マイブームってあるだろ?」
刺されるのが定期的なマイブームだなんて、こいつやっぱ頭おかしいな。
「まぁいいや、今回のは……これか」
刺されたばかりなのだから当然だが、まだ糸が入っている傷がある。思い切り殴ったら体内に拳が入るだろうか?
「うん、今回のは深かったねー……急所ギリギリだし。本気だったね! いやぁ本っ当に可愛いよ涼斗さんっ……! あんな大人しそうな顔して教師なんて真面目な職で騎乗位めちゃくちゃ上手いってのがまた……まぁ俺がしつけたんだけどさぁっ……! あぁやばい勃ってきた、ちょっと抜くからそこのティッシュ取って」
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