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奴隷編
2人の作戦会議 1
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「………………ない」
「ちょ、ちょっと、ノームさん?! 何をしてるんですか?!」
夕暮れ時。
部屋の中がかなり薄暗くなってきた頃だ。
「さっき、テルマ、どこから食べ物だしたの……?」
ヨルが泣き止み、天馬の与えた果物を食べ終わってからのこと。
彼女は果物を食べてからしばらく、横になって、今は天馬のそばで安らかな寝息を立てている。その隣に寄り添うような格好で、サヨも穏やかな表情で眠っていた。
ちなみに、ヨルが天馬にしがみついて泣いているとき、サヨも釣られて泣き出してしまい、それをシャーロットが慰めていた。
その時にシャーロットから「いつまで袋を被ってるんですか? もういいですよ?」と言われ、天馬はずっと袋を被ったままだったことを思い出す。
その事で部屋の皆から笑われてしまい、天馬は盛大に赤面する羽目になった。
なんとも締まらない話である。
そして、おいしくない食事を終えて、天馬が一息ついているところに、ひょこ、と再び現れたのが、ノームだった。
しかし彼女は、天馬がどこから先程の果物を出したのかが気になるようで、体のあちこちをまさぐってきたのだ。
「ひゃ! ノ、ノームさん……くすぐったい……あははは! 脇はやめて、お腹もっ、ひゃはははは!」
「……むぅ、どこにもない……でも、さっきは確か……」
「あ、あの、ノームさん、やめ……って?! ちょっと待って、待って! どこに潜り込んで! ひゃん!」
ノームは服の外を探っても何も出てこないことが分かると、今度は天馬の服を盛大に捲り上げて、『中』に侵入してきた。
「ちょっ! 何をしてるんですかあなた方は?! ああもう! 男性の皆さんは回れ右! 女性の方達は集合です!」
と、シャーロットが顔を真っ赤にして、周囲に即座に指示を飛ばす。
男達はすぐさま慌てて天馬の方から視線を外し、背中を見せる。
そして先程、天馬をもみくちゃにした女性陣が周りを囲んで、即席の壁を作り上げた。
なんとも連携の取れた動き。感服である。
しかし、これに参っていたのが男性陣であった。何度も嬌声を上げる天馬に、彼らの理性が危うくなりかけて、自分を律するのに苦労していた次第。皆一様に、前かがみである。
彼等の声を代弁するなら、
「「(勘弁してくれ……)」」
であろう……
「むぉ~、すごい……」
「あぁ……ああ! そんな、直接……は、ほんとに、やめて……そんなに、胸、揉まれたって、何も、出ないから……ひゃふん!」
「でも、さっきテルマ、ここから果物だしてた……間に、挟んでた……?」
み、見られてた!
周りに注意して取り出したはずだが、どうやらノームのことを見逃してしまっていたらしい。
「え? テルマさん……まさかその胸の間に、先程の果物を……しかも、それをヨルさんに……?」
「ちょ、そこで赤くなってないで、んっ……ひゃん! この子をどうにか、してぇ~~!」
天馬の服は中ほどまで捲れて、お腹までずり上がってしまっている。
むろん下着など着けていないので、あそこが全て露出した格好だ。
おまけに服の中にノームが入ってしまっているので、彼女をどうにかしなければ裾を元に戻せない。
しかし無理やり引き剥がそうとすれば、ただでさえ脆くなっている天馬の服は、盛大に破れるだろう。
そして、さっきは見事に部屋の中にいる人物たちを動かして見せたシャーロットも、今は何故か少し赤かくなって、天馬をジト~とした目で見てくるだけで、何故か助けてくれる気配がない。
「はぁ~、あなたは……貴重な食料をどこに入れてるんですか……まったく、不謹慎な……」
「ちょ、今はそれどころじゃなくて、とにかく助けて~~! このままじゃ……また、また、あ、そこは……っ、ああ、ぁ、ん~……」
思いっきり呆れた様子のシャーロット。しかしそれどころでない天馬は、身を捩って必死に助けを求めた。
どうやら、今の天馬の体は、胸がかなり敏感な性感帯になっているようで……
ノームの容赦ない手の動きに、次第に天馬の呼吸が速くなっていく。
「知りません……ご自分でどうにかしてください」
しかも最後にはシャーロットに見捨てられた。
「そ、そんな~!」
「ぽよぽよ、やわやわ、むにむに……」
「ノームさん! 絶対目的忘れてるよね?!」
天馬の体のどこから食べ物が出てきたのか探っていたはずのノームは、いつのまにか恍惚とした表情で天馬の胸を触っていた。
先程といい今といい、大きい胸に何か執着でもあるのだろうか?
結局、本日2本目の花が散るまで、ノームは天馬の胸を弄り倒したのであった。
というか、あれだけ騒いでいて起きてこなかったヨル姉妹は、相当お疲れだったのだろうか……? 全く目を覚まさなかったのだが。
「……あ、頭が、壊れるかと思った……」
時刻、夜。
ノームによる、おっぱいもみもみ事件から、天馬はしばらく起き上がれなくなり、痙攣していた。
「女性の快感って、怖い……」
男性は一度出してしまえば、割とすぐに快感が引いていく。
しかしながら、女性の快感とは、なかなか引かないらしいことを学んだ。
天馬はまた一歩、自分の体で知りたくもない知識を身に付けたのである。
「はぁ~……と、それはそれとして……(きょろきょろ)」
天馬は突然、周囲に目を配る。
「……よし、皆、寝てるな……」
日が沈むのとほぼ同時に、皆は硬い床で横になって、寝息を立て始めた。
どうやらこの世界の人々は、夜になるのと同時に寝てしまうみたいだ。
しかし、天馬の目はまだ冴えており、眠気はきていない。
「……隠す必要があるのか分からないけど……一応な」
夜空には青く輝く月がひとつ。
部屋の中は、窓から差し込む月明かり以外は一切なし。ほとんど真っ暗だ。
そんな中、天馬は胸の谷間に手を入れて、タブレットを取り出した。
「んっ……」
ピクッ、と自分で胸に触れただけで、少し痺れたような感覚に襲われる。
「ああ~……俺、どんどん女になっている気がする……」
この部屋に来て、女性陣にとにかく体のあちこちを触られ、変な声をかなり出していた天馬。
今さらながら、己の痴態に赤面してしまう。
「~~~っ、切り替え切り替えっ。さて、それじゃ……っとと」
天馬は取り出したタブレットに触れ、画面を表示。
しかし暗い部屋では思ったより画面の明かりが強く、部屋を一瞬明るくしてしまう。
「あぶないあぶない……画面の明かりを調整してっと……」
天馬はタブレットから漏れる光を小さくし、再び周囲を見渡した。
「ふ~、起きたひとはいないか……よかった。さて……」
寝ている彼らを起こしてしまわないよう、慎重にタブレットを操作していく。
「え~と、通話回線を繋ぐにはどうしたら……」
天馬は、ディーと今後についての相談をしようと思い、タブレットを取り出したのだ。
ヨル姉妹の話を聞いてから、天馬の中では彼女達をどうにかして助けてやりたい、という感情が燻っていた。
しかし正直に言ってしまえば、天馬ひとりで現状の打開は不可能だ。
その方法もまたしかり。妙案など、そう簡単に浮かぶはずもなく。
そこで天馬は、船に上がってからまだ一度も連絡を取っていないディーと共に、なんとか作戦を練っていこうと考えたわけである。
「いつもはあっちから一方的に連絡してきたから、使い方が……」
だが、天馬はこの世界に来てから、片手で数える程しかこのタブレットを触っていない。
それも全て、ディーから通信が入ったときに、勝手に起動しているのを弄っただけである。
「えと、通信アプリって、どれだ? 前に筏《いかだ》を作った時は、メールの受信画面を開いただけだったからなぁ……」
アイコンはいっぱいある。しかし天馬の知る通話やメールのアイコンではなく、何故か剣の形をしていたり、真っ白な翼の形をしていたりと、一見するとゲームアプリのアイコンしかない。
「う~、こんなことなら、通話のときにタブレットの使い方をちゃんと聞いておけばよかったなぁ……」
とか呟いた瞬間……
『呼ばれて、飛び出て……いえ、呼ばれてませんね。失礼しました』
「ディーさん! て、んむっ?!」
画面にディーの顔がドアップで映し出された。
天馬はそれに大きな声を出してしまい、慌てて自分で口を塞いだ。
やっちまった。驚いて大声を出してしまった。
そうすれば案の定。
「う~ん……あれ? ……テルマ、まだ起きてたの……?」
「っ――?! あ、ああ、実はちょっとトイレに起きただけで……」
天馬は咄嗟に服の中にタブレットを隠し、声のした方へと振り向く。
そこには、黒髪を腰まで伸ばした獣人のサヨが、ふらふらとした状態で起きていた。
「……ああ、そうだったんだ……」
天馬にぽわぽわとした表情で話しかけてくるサヨ。
だが、その瞳は半分ほど閉じており、いまだ夢現という感じだ。
しかし 彼女は何を思ったのか、盗賊の男が持ってきた芋の入った木箱を、天馬の傍まで運んできた。
すると、
「……これがしばらく『トイレ』になるから……使い終わったら窓の外にちゃんと『中身』を捨てておいてね……それじゃ……」
「え?」
「おやすみ~……」
それだけ言うと、サヨはヨルの傍に戻って体を丸めてしまった。
「え? え? これが、トイレ……? 中身を捨てるって……え?」
天馬は、サヨが何を言っていたのかよく分からず、思わず木箱を凝視してしまう。
だが、ふと服の中にある硬い感触を思い出す。
先程のサヨとの会話を頭を振って忘れ、そそくさとタブレットを取り出すと、天馬は小さな声で画面に話しかけた。
「す、すみません、ディーさん。ちょっと、ひとが起きてしまって……」
『……いいえ、構いませんよ。服の中に入れられたとき、天馬さんの巨乳がババーンと視界いっぱいに広がりましたが、ええ、別に構いません。全然気になんかしていませんので……見せつけてんのかコラァ、とかも思ってませんので……ええ。全く、天馬さんが謝る必要はありません……軽く殺意なんて湧いてません、本当です。できれば二度と見せるなそんな駄肉、などとは、露ほども思っていませんので安心して下さい』
「ごめんなさい。突然だったんで咄嗟に隠しようがなかったんです」
あ、何か押しちゃダメなスイッチが入っている、と思った天馬は、即座に謝罪。
画面越しに目が死んでいるディーに、平身低頭で謝り倒した。
『はぁ~……まぁ、いいです。それよりも、あの後に無事、船に乗れたようで安心しました。天馬さんの反応が移動していたので、あの場でウォルシーパイソンの餌にされてはいないと思ってはいましたが、実際に無事な姿が見れて、よかったです』
「ああ、あの時は本当に死ぬかと思いました……」
天馬はあの大きな肉食で胴長な凶悪顔の魚を思い出し、ぶるっと身震いした。
実際に天馬が死ぬことはないのだが、やはり死ぬような目に遭ったと思うのは当然だろう。
『それと、咄嗟にこの【女神デバイス】を隠したのは正解です。これは待ち受け画面であっても、女神以外が覗き込めば凄惨な死を与えてしまいますから……具体的には、頭が破裂します。脳漿炸裂ですね』
「(ぞぞぞ)……あ、あっぶな……」
そう言えば、天馬の新しい身体をあの堕女神がクリエイトしたとき、どんな容姿になっているのか見たいと天馬が口にしたら、
『頭がパーンってなるからダメ』と言われたのだ。
それを思い出し、天馬はさっと部屋の角に移動して、画面を誰からも見られないようにタブレットを隠す。
あのままサヨがタブレットに気付き、画面を覗き込んでいたらと思いとぞっとする。
「(次からは、めちゃくちゃ気をつけてこれを使わないとな……)」
『その通りですね、天馬さん』
「え? あれ?」
今、天馬は声を出していない。普通に頭の中で反省しただけだ。
なのに、普通にディーが会話をするように返答してきた。
『ああ、そういえばまだ天馬さんにはお伝えしてませんでしたね。私たち女神同士は、【念話】が可能です。今は音が出ていますが、天馬さんが望めば、思考だけで会話できます。まぁ、聞くより実際にやってみましょうか。とりあえず、声に出さずに私に話しかけてみてください』
「わ、分かりました」
咄嗟に出てきた新しい情報に、天馬は驚きを隠せなかったが、ディーの言うことが本当なら、寝ている皆を起こさないように彼女と会話できる。
天馬は、【念話】をさっそく試してみることにした。
「(ディーさん、聞こえてますか?)」
『(ええ、大丈夫です。天馬さんは順応が早いですね。感心します)』
「(そ、そんな褒められると、照れます……と、それはいいです。ディーさん、少し、ご相談がありまして……)」
『(ええ、分かっています。その奴隷船から皆を助け出す算段、ですね)』
「(は、はい。できれば、お知恵をお借りできればと思いまして)」
天馬が言おうとしていたことを先に言われ、少し驚いたが、気取り直して、改めて画面に真剣な表情を向ける。
「(俺は、ここにいる全員を――助けたいんです!)」
「ちょ、ちょっと、ノームさん?! 何をしてるんですか?!」
夕暮れ時。
部屋の中がかなり薄暗くなってきた頃だ。
「さっき、テルマ、どこから食べ物だしたの……?」
ヨルが泣き止み、天馬の与えた果物を食べ終わってからのこと。
彼女は果物を食べてからしばらく、横になって、今は天馬のそばで安らかな寝息を立てている。その隣に寄り添うような格好で、サヨも穏やかな表情で眠っていた。
ちなみに、ヨルが天馬にしがみついて泣いているとき、サヨも釣られて泣き出してしまい、それをシャーロットが慰めていた。
その時にシャーロットから「いつまで袋を被ってるんですか? もういいですよ?」と言われ、天馬はずっと袋を被ったままだったことを思い出す。
その事で部屋の皆から笑われてしまい、天馬は盛大に赤面する羽目になった。
なんとも締まらない話である。
そして、おいしくない食事を終えて、天馬が一息ついているところに、ひょこ、と再び現れたのが、ノームだった。
しかし彼女は、天馬がどこから先程の果物を出したのかが気になるようで、体のあちこちをまさぐってきたのだ。
「ひゃ! ノ、ノームさん……くすぐったい……あははは! 脇はやめて、お腹もっ、ひゃはははは!」
「……むぅ、どこにもない……でも、さっきは確か……」
「あ、あの、ノームさん、やめ……って?! ちょっと待って、待って! どこに潜り込んで! ひゃん!」
ノームは服の外を探っても何も出てこないことが分かると、今度は天馬の服を盛大に捲り上げて、『中』に侵入してきた。
「ちょっ! 何をしてるんですかあなた方は?! ああもう! 男性の皆さんは回れ右! 女性の方達は集合です!」
と、シャーロットが顔を真っ赤にして、周囲に即座に指示を飛ばす。
男達はすぐさま慌てて天馬の方から視線を外し、背中を見せる。
そして先程、天馬をもみくちゃにした女性陣が周りを囲んで、即席の壁を作り上げた。
なんとも連携の取れた動き。感服である。
しかし、これに参っていたのが男性陣であった。何度も嬌声を上げる天馬に、彼らの理性が危うくなりかけて、自分を律するのに苦労していた次第。皆一様に、前かがみである。
彼等の声を代弁するなら、
「「(勘弁してくれ……)」」
であろう……
「むぉ~、すごい……」
「あぁ……ああ! そんな、直接……は、ほんとに、やめて……そんなに、胸、揉まれたって、何も、出ないから……ひゃふん!」
「でも、さっきテルマ、ここから果物だしてた……間に、挟んでた……?」
み、見られてた!
周りに注意して取り出したはずだが、どうやらノームのことを見逃してしまっていたらしい。
「え? テルマさん……まさかその胸の間に、先程の果物を……しかも、それをヨルさんに……?」
「ちょ、そこで赤くなってないで、んっ……ひゃん! この子をどうにか、してぇ~~!」
天馬の服は中ほどまで捲れて、お腹までずり上がってしまっている。
むろん下着など着けていないので、あそこが全て露出した格好だ。
おまけに服の中にノームが入ってしまっているので、彼女をどうにかしなければ裾を元に戻せない。
しかし無理やり引き剥がそうとすれば、ただでさえ脆くなっている天馬の服は、盛大に破れるだろう。
そして、さっきは見事に部屋の中にいる人物たちを動かして見せたシャーロットも、今は何故か少し赤かくなって、天馬をジト~とした目で見てくるだけで、何故か助けてくれる気配がない。
「はぁ~、あなたは……貴重な食料をどこに入れてるんですか……まったく、不謹慎な……」
「ちょ、今はそれどころじゃなくて、とにかく助けて~~! このままじゃ……また、また、あ、そこは……っ、ああ、ぁ、ん~……」
思いっきり呆れた様子のシャーロット。しかしそれどころでない天馬は、身を捩って必死に助けを求めた。
どうやら、今の天馬の体は、胸がかなり敏感な性感帯になっているようで……
ノームの容赦ない手の動きに、次第に天馬の呼吸が速くなっていく。
「知りません……ご自分でどうにかしてください」
しかも最後にはシャーロットに見捨てられた。
「そ、そんな~!」
「ぽよぽよ、やわやわ、むにむに……」
「ノームさん! 絶対目的忘れてるよね?!」
天馬の体のどこから食べ物が出てきたのか探っていたはずのノームは、いつのまにか恍惚とした表情で天馬の胸を触っていた。
先程といい今といい、大きい胸に何か執着でもあるのだろうか?
結局、本日2本目の花が散るまで、ノームは天馬の胸を弄り倒したのであった。
というか、あれだけ騒いでいて起きてこなかったヨル姉妹は、相当お疲れだったのだろうか……? 全く目を覚まさなかったのだが。
「……あ、頭が、壊れるかと思った……」
時刻、夜。
ノームによる、おっぱいもみもみ事件から、天馬はしばらく起き上がれなくなり、痙攣していた。
「女性の快感って、怖い……」
男性は一度出してしまえば、割とすぐに快感が引いていく。
しかしながら、女性の快感とは、なかなか引かないらしいことを学んだ。
天馬はまた一歩、自分の体で知りたくもない知識を身に付けたのである。
「はぁ~……と、それはそれとして……(きょろきょろ)」
天馬は突然、周囲に目を配る。
「……よし、皆、寝てるな……」
日が沈むのとほぼ同時に、皆は硬い床で横になって、寝息を立て始めた。
どうやらこの世界の人々は、夜になるのと同時に寝てしまうみたいだ。
しかし、天馬の目はまだ冴えており、眠気はきていない。
「……隠す必要があるのか分からないけど……一応な」
夜空には青く輝く月がひとつ。
部屋の中は、窓から差し込む月明かり以外は一切なし。ほとんど真っ暗だ。
そんな中、天馬は胸の谷間に手を入れて、タブレットを取り出した。
「んっ……」
ピクッ、と自分で胸に触れただけで、少し痺れたような感覚に襲われる。
「ああ~……俺、どんどん女になっている気がする……」
この部屋に来て、女性陣にとにかく体のあちこちを触られ、変な声をかなり出していた天馬。
今さらながら、己の痴態に赤面してしまう。
「~~~っ、切り替え切り替えっ。さて、それじゃ……っとと」
天馬は取り出したタブレットに触れ、画面を表示。
しかし暗い部屋では思ったより画面の明かりが強く、部屋を一瞬明るくしてしまう。
「あぶないあぶない……画面の明かりを調整してっと……」
天馬はタブレットから漏れる光を小さくし、再び周囲を見渡した。
「ふ~、起きたひとはいないか……よかった。さて……」
寝ている彼らを起こしてしまわないよう、慎重にタブレットを操作していく。
「え~と、通話回線を繋ぐにはどうしたら……」
天馬は、ディーと今後についての相談をしようと思い、タブレットを取り出したのだ。
ヨル姉妹の話を聞いてから、天馬の中では彼女達をどうにかして助けてやりたい、という感情が燻っていた。
しかし正直に言ってしまえば、天馬ひとりで現状の打開は不可能だ。
その方法もまたしかり。妙案など、そう簡単に浮かぶはずもなく。
そこで天馬は、船に上がってからまだ一度も連絡を取っていないディーと共に、なんとか作戦を練っていこうと考えたわけである。
「いつもはあっちから一方的に連絡してきたから、使い方が……」
だが、天馬はこの世界に来てから、片手で数える程しかこのタブレットを触っていない。
それも全て、ディーから通信が入ったときに、勝手に起動しているのを弄っただけである。
「えと、通信アプリって、どれだ? 前に筏《いかだ》を作った時は、メールの受信画面を開いただけだったからなぁ……」
アイコンはいっぱいある。しかし天馬の知る通話やメールのアイコンではなく、何故か剣の形をしていたり、真っ白な翼の形をしていたりと、一見するとゲームアプリのアイコンしかない。
「う~、こんなことなら、通話のときにタブレットの使い方をちゃんと聞いておけばよかったなぁ……」
とか呟いた瞬間……
『呼ばれて、飛び出て……いえ、呼ばれてませんね。失礼しました』
「ディーさん! て、んむっ?!」
画面にディーの顔がドアップで映し出された。
天馬はそれに大きな声を出してしまい、慌てて自分で口を塞いだ。
やっちまった。驚いて大声を出してしまった。
そうすれば案の定。
「う~ん……あれ? ……テルマ、まだ起きてたの……?」
「っ――?! あ、ああ、実はちょっとトイレに起きただけで……」
天馬は咄嗟に服の中にタブレットを隠し、声のした方へと振り向く。
そこには、黒髪を腰まで伸ばした獣人のサヨが、ふらふらとした状態で起きていた。
「……ああ、そうだったんだ……」
天馬にぽわぽわとした表情で話しかけてくるサヨ。
だが、その瞳は半分ほど閉じており、いまだ夢現という感じだ。
しかし 彼女は何を思ったのか、盗賊の男が持ってきた芋の入った木箱を、天馬の傍まで運んできた。
すると、
「……これがしばらく『トイレ』になるから……使い終わったら窓の外にちゃんと『中身』を捨てておいてね……それじゃ……」
「え?」
「おやすみ~……」
それだけ言うと、サヨはヨルの傍に戻って体を丸めてしまった。
「え? え? これが、トイレ……? 中身を捨てるって……え?」
天馬は、サヨが何を言っていたのかよく分からず、思わず木箱を凝視してしまう。
だが、ふと服の中にある硬い感触を思い出す。
先程のサヨとの会話を頭を振って忘れ、そそくさとタブレットを取り出すと、天馬は小さな声で画面に話しかけた。
「す、すみません、ディーさん。ちょっと、ひとが起きてしまって……」
『……いいえ、構いませんよ。服の中に入れられたとき、天馬さんの巨乳がババーンと視界いっぱいに広がりましたが、ええ、別に構いません。全然気になんかしていませんので……見せつけてんのかコラァ、とかも思ってませんので……ええ。全く、天馬さんが謝る必要はありません……軽く殺意なんて湧いてません、本当です。できれば二度と見せるなそんな駄肉、などとは、露ほども思っていませんので安心して下さい』
「ごめんなさい。突然だったんで咄嗟に隠しようがなかったんです」
あ、何か押しちゃダメなスイッチが入っている、と思った天馬は、即座に謝罪。
画面越しに目が死んでいるディーに、平身低頭で謝り倒した。
『はぁ~……まぁ、いいです。それよりも、あの後に無事、船に乗れたようで安心しました。天馬さんの反応が移動していたので、あの場でウォルシーパイソンの餌にされてはいないと思ってはいましたが、実際に無事な姿が見れて、よかったです』
「ああ、あの時は本当に死ぬかと思いました……」
天馬はあの大きな肉食で胴長な凶悪顔の魚を思い出し、ぶるっと身震いした。
実際に天馬が死ぬことはないのだが、やはり死ぬような目に遭ったと思うのは当然だろう。
『それと、咄嗟にこの【女神デバイス】を隠したのは正解です。これは待ち受け画面であっても、女神以外が覗き込めば凄惨な死を与えてしまいますから……具体的には、頭が破裂します。脳漿炸裂ですね』
「(ぞぞぞ)……あ、あっぶな……」
そう言えば、天馬の新しい身体をあの堕女神がクリエイトしたとき、どんな容姿になっているのか見たいと天馬が口にしたら、
『頭がパーンってなるからダメ』と言われたのだ。
それを思い出し、天馬はさっと部屋の角に移動して、画面を誰からも見られないようにタブレットを隠す。
あのままサヨがタブレットに気付き、画面を覗き込んでいたらと思いとぞっとする。
「(次からは、めちゃくちゃ気をつけてこれを使わないとな……)」
『その通りですね、天馬さん』
「え? あれ?」
今、天馬は声を出していない。普通に頭の中で反省しただけだ。
なのに、普通にディーが会話をするように返答してきた。
『ああ、そういえばまだ天馬さんにはお伝えしてませんでしたね。私たち女神同士は、【念話】が可能です。今は音が出ていますが、天馬さんが望めば、思考だけで会話できます。まぁ、聞くより実際にやってみましょうか。とりあえず、声に出さずに私に話しかけてみてください』
「わ、分かりました」
咄嗟に出てきた新しい情報に、天馬は驚きを隠せなかったが、ディーの言うことが本当なら、寝ている皆を起こさないように彼女と会話できる。
天馬は、【念話】をさっそく試してみることにした。
「(ディーさん、聞こえてますか?)」
『(ええ、大丈夫です。天馬さんは順応が早いですね。感心します)』
「(そ、そんな褒められると、照れます……と、それはいいです。ディーさん、少し、ご相談がありまして……)」
『(ええ、分かっています。その奴隷船から皆を助け出す算段、ですね)』
「(は、はい。できれば、お知恵をお借りできればと思いまして)」
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「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
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