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奴隷編
2人の作戦会議 2
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『(ふむ、全員、ですか……それは、その部屋にいる者達を、全員という意味ですか?)』
「(違います。捕まった人を、全員です! ここにはいない人も……もちろんここにいる森精霊も、土精霊も獣人も、全員、救いたい!)」
そこに、種族は関係ない。身近な彼らだけ救って、見えないところで苦しんでいる者達を放っておけるはずがない。
否、放っておいていいはずがない……!
「(難しいことは百も承知です。ですが、なんとしても、彼らが奴隷にされるのだけは、避けたいんです!)」
部屋も別々。しかも人質まで取られていて、船内の構造も把握できていない。おまけに相手の人数も分かっていないこの状況は、どう考えても不利。
しかし、それでも天馬は、皆が奴隷になる前に助け出したいと、強い感情を抱いていた。
それに、盗賊達はお腹に子供がいるヨルまで、この船に乗せている。
これは、どう考えてもおかしい。天馬は、何かおぞましい理由がある気がしてならなかった。
このまま彼女が奴隷になってしまったら……どうなるか分からない。
『(……天馬さんの意志は分かりました。ではまず、そちらの状況を教えてください)』
「(分かりました)」
そうして、簡潔に今分かっている情報を整理し、ディーに伝えた。
するとディーは、顎に手を添えて考え始め、目を伏せてひとつ息を吐いた。
『(正直に申しまして、今の天馬さんが、単独でこの状況をどうにかするのは難しいと思われます……』
「(それは十分理解しています。そこを踏まえて、色々と考えてきましょう)」
『(そうですね……では最初は、船内の構造を把握しましょう)』
「(それは賛成ですが、どうやって? ディーさんが調べてくれるんですか?)」
『(いいえ、『これしきのこと』で私が全面的に協力していては、天馬さんに先はありません。あなたはこれから女神として、世界と関わっていくのです。であれば、これからもっと大きな事案に、天馬さんは巻き込まれていくでしょう。盗賊の集団と渡り合うくらい位のことは、簡単に出来てほしいところです)』
「(……結構、厳しいんですね……ディーさんって)」
『(天馬さんなら、出来ると信じていますからね)』
「(……その言い方は、ずるいと思います)」
しかし、確かに天馬はなんちゃってとはいえ、一応は女神なのだ。
この船の中で、天馬はもっとも多くの活動ができる存在である。
魔法も使える。無限収納のアイテムボックスもある。体は並の種族と比べても頑丈。更には死なない。
これだけ有利な条件が揃っているのなら、確かにディーに頼りっぱなしではいられないだろう。
天馬は少し突き放された気分になりつつも、彼女の言うことは最もだと納得した。
『(ふふ、私も分かってて言ってます。ですが、今回は初回ですし、どうすればいいかという助言はします。ですから、自分で頑張ってみてください)』
だが、厳しいことを言いつつも、やはり助けてくれるこのひとは、よき女神の先輩のなのだと、天馬は思う。
これで、巨乳に対する敵意がもう少しどうにかなればなぁ、と感じてしまうのは仕方ない。
「ありがとうございます、ディーさん」
このお礼の言葉だけは実際に口に出して伝えた。
天馬の声は皆が起きないように小さくしており、聞き取りづらいものだったが、ディーは微笑みを浮かべて返してくれる。
『お気になさらず。私は、天馬さんのサポートですから』
天馬はディーの言葉に、今一度気合を入れ直す。
画面越しにディーと対峙し、今回の対応を相談していく。
「(それでディーさん、さっそくですみません。先程の船内構造を調べる件……あれって、俺に出来ることは何があるでしょう?)」
魔法を使って調べるにしても、今現在天馬が使えるものでは、役に立ちそうなものがない。
『(では、このタブレット――正式名称は【女神デバイス】と言いますが、これと天馬さんが連携して、船の構造を図面化しましょう)』
「(え? そんなことが可能なんですか?)」
『(出来ます。まず簡単なところから、今いる部屋の構造を、図面化していきましょう。やり方は……)』
ディーの説明は、こういうことだった。
まず、タブレットにインストールされている製図アプリを起動。天馬はタブレットに触れたまま、製図したい物体に魔力を流し込む。
すると、画面上に天馬が魔力を通した物体の形がラインとして結ばれ、三次元の立体的な図面を作成できるようなのだ。
『(さっそく練習しましょう。部屋の床、壁、天井の隅に、魔力を流すイメージを持ってください。そうですね……液体が毛細管現象で浸透していくのを思い浮かべればいいでしょうか)』
「(な、なんだか難しそうですね……)」
『(まぁ、これは実際にやってみた方が早いですから、実践あるのみです)』
意外とこのディーという女神は、体育会系のノリで、論よりも実践を重視する傾向があるんじゃないかと天馬は思い始めていた。
さすがは元戦いの女神様……案外脳みそ筋肉なところもあるのかもしれない。
「(分かりました、やってみます……)」
天馬は目を閉じて、部屋の隅、その角になっている部分に指で触れる。
「…………」
ゆっくりと呼吸を落ち着けて、天馬は己の身体が内包している魔力を、指先からそっと水を流すように放出する。
魔力。
魔法を初めて使ったあの日から、天馬は体の中に、渦巻く熱い本流を感じることがあった。
特にそれを強く感じるのは頭。ディーが以前言っていたように、天馬の髪の毛に、膨大な魔力が貯蔵されているからだろう。
魔力は体にも少しずつ流れ、循環するようにぐるぐると回っている。
その流れの一部を操作し、魔力を意図的に体外に放出するのだ。
「すぅ~……放出……浸透」
天馬は角に触れた魔力を細く伸ばしていき、水が部屋の隅にくまなく浸透していく状態を、頭でイメージした。
水は徐々に部屋全体を走り、天井の一角で合流。魔力の流れを追いかけて、タブレットの画面には少しずつ、魔力で引かれたラインを元に、ひとつの図形を形作っていった。
『(流石です……魔力の制御もうまい……やはり、天馬さんには魔法の才がありますね)』
「……ふぅ~」
ディーの言葉を合図にしたようなタイミングで、天馬が息を吐く。
閉じていた瞳を開き、ぼやけた視界が少しずつ鮮明になっていく中、天馬はタブレットの画面に視線を落とした。
「……できた」
思わず声に出してしまった感嘆の呟き。
見れば、真っ白だったタブレットの画面に、この部屋の形に形成された図面が、しっかりと出来上がっていた。
『(最初から魔力を途切れさせることなく、一度で成功させるとは、正直、驚きました……)』
「(あ、いえ、それほどでも……)」
ディーの素直な賞賛の声に、天馬は思わず頬に熱を感じた。
『(謙遜することはありません。正直に申し上げれば、私は数回は失敗して、歪な図形が出来上がると思っていましたから。一度でここまで正確に図面が引けているのは、誇っていいことだと思いますよ)』
「(あ、ありがとうございます……)」
『(……ですが、作らなければいけない図面は、この船の全て……1日で完成するとは考えないほうがいいでしょう。天馬さんは自覚していないかもしれませんが、この部屋の図面を引くのに、2時間近くは掛かっています)』
「っ?!」
2時間……天馬は魔力を浸透させることに集中しているまあり、それだけの時間が過ぎていたとは思っていなかった。
『(とはいえ今回は初めての試み……慣れていけば、もう少し時間の短縮は可能でしょう。それと、引いた図面は自動的に保存され、次回以降の魔力の浸透も線が切れた部分から再開できます。……一言忠告するのであれば、完成を急ぎすぎないことです。変な場所に魔力を流して、図面が正確でなくなれば、元も子もありませんからね)』
「(……分かりました。肝に銘じます)」
『(ええ、頑張って下さい……それでは次に、部屋の外に捕らわれている者達と、脱出に際してどう連携を取るか。人質にされている子供を、どう救出するか……この辺りを話し合いましょうか)』
「(そうですね。よろしくお願いします)」
ディーと天馬は、真剣な表情を浮かべて、先の二点に対してどう対応するか、話を始めた。
しかし、それにはまず、どうしても船の図面がないとダメという結論に行き着く。
先程の図面を引くのと同様に、天馬が船に魔力を……今度は全体を膜で包むように広げていき、ひとが体内に内包している魔力を感じ取りながら、船の図面に落とし込んでいくという方法で、人質や人が捕らわれている位置を探ることになった。
そして位置が判明しだい、天馬は魔法を駆使して、どうにか部屋まで行くという流れになりそうだ。
『(光の屈折現象を利用した不可視の魔法もあります。実際に活動を始めるときは、それを使うのいいでしょう。体の一部でも練習できますから、動き出すまでにものにしておいて下さい。……ですが、部屋の者達に魔法を見られて騒ぎになるといけませんので、密かに練習して下さいね)』
「(はい、分かりました。あ、そうだディーさん、少し聞きたいことがあります)」
『(ええ、なんでしょう?)』
「(その、アイテムボックスに、ついて、です……)」
『(……ほう)』
天馬は質問の語尾が少しずつ小さくなり、それを受けたディーの顔から表情が消える。
『(私の前で胸の話を持ち出すとか、度胸がありますね……胸だけに)』
「(ちょ、勘違いしないでください! 胸の話ではなく、アイテムボックスの話ですよ!)」
『(私としては、そのアイテムボックス=胸の話なのですが……はぁ~、まぁいいでしょう。それで、どうかしましたか?)』
「(その、このアイテムボックスって――『中にひとを入れても大丈夫』なんですか?)」
『(中にひとを……? それは胸の谷間に誰かを挟んでぱふぱふするという意味ですか? 嫌味ですか? 私への挑戦ですね? いいでしょう受けて立ちますよ! 胸の大きさが、女子力の決定的な差ではないということを、教えてさしあげますよ!)』
「(ちっが~う! そういうことじゃねぇよ! まったく違うよ! なんだよ、ぱふぱふって?! やらねょよそんなもん!)」
ディーの暴走に、天馬は必死に声を出さないように突っ込んだ。
もう、息を止める勢いで、顔が真っ赤である。
『(……では、今の質問の意味はなんですか?)』
何故か呆れたような表情で問い掛けて来るディーだったが、その表情は天馬こそがしたいものであった。
「(……あのですね、落ち着いて聞いてください。俺は胸にひとを挟みたいんじゃなくなくて……)」
『(ナニを挟むのですか?)』
「(自重って言葉を辞典で調べてこい! そうではなくて! アイテムボックスに生きた生物を入れても、危険がないかを聞きたいんですよ!)」
『(そうでしたか、失礼しました。結論から言えば、問題はありません。ただ、中に入った生き物は仮死状態になり、天馬さんが外に出さない限りはそのままです。仮に天馬さんが瀕死になっても、中には一切の影響はないのでご安心を。それとアイテムボックスは異空間ですが、天馬さんが望めば取り出すことは簡単ですので、中で迷子になる心配もありません。ですが、中に何を入れたかは忘れないでくださいね)』
ようやくまともな回答を聞けた天馬は、すっごい疲れた顔をしながら床に突っ伏したくなった。
だが、これで天馬が考えている『ある作戦は成功』する裏づけが取れた。
「(ありがとうございます。とりあえず質問はこれだけですので……)」
『(そうですか。それでは次です。今度はこの【女神デバイス】の使い方、そして天馬さんの【女神レベル】と【女神ポイント】について、ご説明させていただきます。よろしいですね?)』
「は?」
咄嗟にディーから新しい単語がもたらされ、疑問符を浮かべてしまう天馬だったが、ディーは構わずに話し始めてしまう。
『(これは今後、あなたが女神として活動をする上で、非常に重要な要素です……しっかりと聞いてください)』
こうして、日が昇るまでの残り数時間で、天馬はディーからの説明を受けることとなった。
「(違います。捕まった人を、全員です! ここにはいない人も……もちろんここにいる森精霊も、土精霊も獣人も、全員、救いたい!)」
そこに、種族は関係ない。身近な彼らだけ救って、見えないところで苦しんでいる者達を放っておけるはずがない。
否、放っておいていいはずがない……!
「(難しいことは百も承知です。ですが、なんとしても、彼らが奴隷にされるのだけは、避けたいんです!)」
部屋も別々。しかも人質まで取られていて、船内の構造も把握できていない。おまけに相手の人数も分かっていないこの状況は、どう考えても不利。
しかし、それでも天馬は、皆が奴隷になる前に助け出したいと、強い感情を抱いていた。
それに、盗賊達はお腹に子供がいるヨルまで、この船に乗せている。
これは、どう考えてもおかしい。天馬は、何かおぞましい理由がある気がしてならなかった。
このまま彼女が奴隷になってしまったら……どうなるか分からない。
『(……天馬さんの意志は分かりました。ではまず、そちらの状況を教えてください)』
「(分かりました)」
そうして、簡潔に今分かっている情報を整理し、ディーに伝えた。
するとディーは、顎に手を添えて考え始め、目を伏せてひとつ息を吐いた。
『(正直に申しまして、今の天馬さんが、単独でこの状況をどうにかするのは難しいと思われます……』
「(それは十分理解しています。そこを踏まえて、色々と考えてきましょう)」
『(そうですね……では最初は、船内の構造を把握しましょう)』
「(それは賛成ですが、どうやって? ディーさんが調べてくれるんですか?)」
『(いいえ、『これしきのこと』で私が全面的に協力していては、天馬さんに先はありません。あなたはこれから女神として、世界と関わっていくのです。であれば、これからもっと大きな事案に、天馬さんは巻き込まれていくでしょう。盗賊の集団と渡り合うくらい位のことは、簡単に出来てほしいところです)』
「(……結構、厳しいんですね……ディーさんって)」
『(天馬さんなら、出来ると信じていますからね)』
「(……その言い方は、ずるいと思います)」
しかし、確かに天馬はなんちゃってとはいえ、一応は女神なのだ。
この船の中で、天馬はもっとも多くの活動ができる存在である。
魔法も使える。無限収納のアイテムボックスもある。体は並の種族と比べても頑丈。更には死なない。
これだけ有利な条件が揃っているのなら、確かにディーに頼りっぱなしではいられないだろう。
天馬は少し突き放された気分になりつつも、彼女の言うことは最もだと納得した。
『(ふふ、私も分かってて言ってます。ですが、今回は初回ですし、どうすればいいかという助言はします。ですから、自分で頑張ってみてください)』
だが、厳しいことを言いつつも、やはり助けてくれるこのひとは、よき女神の先輩のなのだと、天馬は思う。
これで、巨乳に対する敵意がもう少しどうにかなればなぁ、と感じてしまうのは仕方ない。
「ありがとうございます、ディーさん」
このお礼の言葉だけは実際に口に出して伝えた。
天馬の声は皆が起きないように小さくしており、聞き取りづらいものだったが、ディーは微笑みを浮かべて返してくれる。
『お気になさらず。私は、天馬さんのサポートですから』
天馬はディーの言葉に、今一度気合を入れ直す。
画面越しにディーと対峙し、今回の対応を相談していく。
「(それでディーさん、さっそくですみません。先程の船内構造を調べる件……あれって、俺に出来ることは何があるでしょう?)」
魔法を使って調べるにしても、今現在天馬が使えるものでは、役に立ちそうなものがない。
『(では、このタブレット――正式名称は【女神デバイス】と言いますが、これと天馬さんが連携して、船の構造を図面化しましょう)』
「(え? そんなことが可能なんですか?)」
『(出来ます。まず簡単なところから、今いる部屋の構造を、図面化していきましょう。やり方は……)』
ディーの説明は、こういうことだった。
まず、タブレットにインストールされている製図アプリを起動。天馬はタブレットに触れたまま、製図したい物体に魔力を流し込む。
すると、画面上に天馬が魔力を通した物体の形がラインとして結ばれ、三次元の立体的な図面を作成できるようなのだ。
『(さっそく練習しましょう。部屋の床、壁、天井の隅に、魔力を流すイメージを持ってください。そうですね……液体が毛細管現象で浸透していくのを思い浮かべればいいでしょうか)』
「(な、なんだか難しそうですね……)」
『(まぁ、これは実際にやってみた方が早いですから、実践あるのみです)』
意外とこのディーという女神は、体育会系のノリで、論よりも実践を重視する傾向があるんじゃないかと天馬は思い始めていた。
さすがは元戦いの女神様……案外脳みそ筋肉なところもあるのかもしれない。
「(分かりました、やってみます……)」
天馬は目を閉じて、部屋の隅、その角になっている部分に指で触れる。
「…………」
ゆっくりと呼吸を落ち着けて、天馬は己の身体が内包している魔力を、指先からそっと水を流すように放出する。
魔力。
魔法を初めて使ったあの日から、天馬は体の中に、渦巻く熱い本流を感じることがあった。
特にそれを強く感じるのは頭。ディーが以前言っていたように、天馬の髪の毛に、膨大な魔力が貯蔵されているからだろう。
魔力は体にも少しずつ流れ、循環するようにぐるぐると回っている。
その流れの一部を操作し、魔力を意図的に体外に放出するのだ。
「すぅ~……放出……浸透」
天馬は角に触れた魔力を細く伸ばしていき、水が部屋の隅にくまなく浸透していく状態を、頭でイメージした。
水は徐々に部屋全体を走り、天井の一角で合流。魔力の流れを追いかけて、タブレットの画面には少しずつ、魔力で引かれたラインを元に、ひとつの図形を形作っていった。
『(流石です……魔力の制御もうまい……やはり、天馬さんには魔法の才がありますね)』
「……ふぅ~」
ディーの言葉を合図にしたようなタイミングで、天馬が息を吐く。
閉じていた瞳を開き、ぼやけた視界が少しずつ鮮明になっていく中、天馬はタブレットの画面に視線を落とした。
「……できた」
思わず声に出してしまった感嘆の呟き。
見れば、真っ白だったタブレットの画面に、この部屋の形に形成された図面が、しっかりと出来上がっていた。
『(最初から魔力を途切れさせることなく、一度で成功させるとは、正直、驚きました……)』
「(あ、いえ、それほどでも……)」
ディーの素直な賞賛の声に、天馬は思わず頬に熱を感じた。
『(謙遜することはありません。正直に申し上げれば、私は数回は失敗して、歪な図形が出来上がると思っていましたから。一度でここまで正確に図面が引けているのは、誇っていいことだと思いますよ)』
「(あ、ありがとうございます……)」
『(……ですが、作らなければいけない図面は、この船の全て……1日で完成するとは考えないほうがいいでしょう。天馬さんは自覚していないかもしれませんが、この部屋の図面を引くのに、2時間近くは掛かっています)』
「っ?!」
2時間……天馬は魔力を浸透させることに集中しているまあり、それだけの時間が過ぎていたとは思っていなかった。
『(とはいえ今回は初めての試み……慣れていけば、もう少し時間の短縮は可能でしょう。それと、引いた図面は自動的に保存され、次回以降の魔力の浸透も線が切れた部分から再開できます。……一言忠告するのであれば、完成を急ぎすぎないことです。変な場所に魔力を流して、図面が正確でなくなれば、元も子もありませんからね)』
「(……分かりました。肝に銘じます)」
『(ええ、頑張って下さい……それでは次に、部屋の外に捕らわれている者達と、脱出に際してどう連携を取るか。人質にされている子供を、どう救出するか……この辺りを話し合いましょうか)』
「(そうですね。よろしくお願いします)」
ディーと天馬は、真剣な表情を浮かべて、先の二点に対してどう対応するか、話を始めた。
しかし、それにはまず、どうしても船の図面がないとダメという結論に行き着く。
先程の図面を引くのと同様に、天馬が船に魔力を……今度は全体を膜で包むように広げていき、ひとが体内に内包している魔力を感じ取りながら、船の図面に落とし込んでいくという方法で、人質や人が捕らわれている位置を探ることになった。
そして位置が判明しだい、天馬は魔法を駆使して、どうにか部屋まで行くという流れになりそうだ。
『(光の屈折現象を利用した不可視の魔法もあります。実際に活動を始めるときは、それを使うのいいでしょう。体の一部でも練習できますから、動き出すまでにものにしておいて下さい。……ですが、部屋の者達に魔法を見られて騒ぎになるといけませんので、密かに練習して下さいね)』
「(はい、分かりました。あ、そうだディーさん、少し聞きたいことがあります)」
『(ええ、なんでしょう?)』
「(その、アイテムボックスに、ついて、です……)」
『(……ほう)』
天馬は質問の語尾が少しずつ小さくなり、それを受けたディーの顔から表情が消える。
『(私の前で胸の話を持ち出すとか、度胸がありますね……胸だけに)』
「(ちょ、勘違いしないでください! 胸の話ではなく、アイテムボックスの話ですよ!)」
『(私としては、そのアイテムボックス=胸の話なのですが……はぁ~、まぁいいでしょう。それで、どうかしましたか?)』
「(その、このアイテムボックスって――『中にひとを入れても大丈夫』なんですか?)」
『(中にひとを……? それは胸の谷間に誰かを挟んでぱふぱふするという意味ですか? 嫌味ですか? 私への挑戦ですね? いいでしょう受けて立ちますよ! 胸の大きさが、女子力の決定的な差ではないということを、教えてさしあげますよ!)』
「(ちっが~う! そういうことじゃねぇよ! まったく違うよ! なんだよ、ぱふぱふって?! やらねょよそんなもん!)」
ディーの暴走に、天馬は必死に声を出さないように突っ込んだ。
もう、息を止める勢いで、顔が真っ赤である。
『(……では、今の質問の意味はなんですか?)』
何故か呆れたような表情で問い掛けて来るディーだったが、その表情は天馬こそがしたいものであった。
「(……あのですね、落ち着いて聞いてください。俺は胸にひとを挟みたいんじゃなくなくて……)」
『(ナニを挟むのですか?)』
「(自重って言葉を辞典で調べてこい! そうではなくて! アイテムボックスに生きた生物を入れても、危険がないかを聞きたいんですよ!)」
『(そうでしたか、失礼しました。結論から言えば、問題はありません。ただ、中に入った生き物は仮死状態になり、天馬さんが外に出さない限りはそのままです。仮に天馬さんが瀕死になっても、中には一切の影響はないのでご安心を。それとアイテムボックスは異空間ですが、天馬さんが望めば取り出すことは簡単ですので、中で迷子になる心配もありません。ですが、中に何を入れたかは忘れないでくださいね)』
ようやくまともな回答を聞けた天馬は、すっごい疲れた顔をしながら床に突っ伏したくなった。
だが、これで天馬が考えている『ある作戦は成功』する裏づけが取れた。
「(ありがとうございます。とりあえず質問はこれだけですので……)」
『(そうですか。それでは次です。今度はこの【女神デバイス】の使い方、そして天馬さんの【女神レベル】と【女神ポイント】について、ご説明させていただきます。よろしいですね?)』
「は?」
咄嗟にディーから新しい単語がもたらされ、疑問符を浮かべてしまう天馬だったが、ディーは構わずに話し始めてしまう。
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