ガチ・女神転生――顔だけ強面な男が女神に転生。堕女神に異世界の管理を押し付けられました!

昼行灯

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奴隷編

最後の準備と羞恥心

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「お、おかしら~~っ!」
「なんだい、騒々しいね」

 先程、天馬に驚かされて逃げてきた盗賊達。
 彼らは脇目も振らずに、頭であるマルティナの下へと逃げてきたようだ。

「あんたら、今日は女で遊んでたんじゃないのかい? それがどうしてそんな青い顔してんだい……?」
「で、でで、出たんすよ!」
「出た? なんだい、大きなネズミでも船に潜んでたかい?」
「違いますよ! 幽霊っすよ! 幽霊!!」
「はぁっ? 幽霊?」

 何をトチ狂った事を言ってんだい、とマルティナは男連中に向かって盛大にため息を吐き、額に手を当てた。

「あんたら、それ本気で言ってるのかい?」
「嘘じゃねぇんですよ! 部屋の扉がひとりでに吹っ飛んだり、女の腕だけが空中に浮いて、俺の首を触ってきたんですよ!」
「……」

 手下は嘘を言ってるような様子ではない。
 これがまだ一人程度が騒いでいるなら、マルティナも幻覚でも見たんだろうと一蹴する。

 しかし、ここに逃げてきた六人の手下全員が、口を揃えて「幽霊が出た」「化け物が出た」と喚いている。

 しかも一人は股間から不快な臭いまで漂わせて……

「……捕らえた連中が逃げて、あんたらを脅した可能性は?」
「そんなもんあるわけねぇじゃねぇっすか! 『ここに来るまでに』奴隷どもの部屋は通り過ぎましたが、静かなもんでしたぜ!」
「……静か? ちょいと待ちな。見張りはどうしたんだい?」

 いつも見張りの連中は、夜中だろうと馬鹿みたいに大きな声を上げてゲラゲラと笑い、会話で暇を潰しているはず。

 それが、静かだった?

「どうにも気味が悪いねぇ……」

 マルティナは腰に青銅の短刀を挿して立ち上がり、表情を鋭くして逃げてきた手下に視線を向けた。

「状況を見に行くよ。幽霊が出たって場所にも案内しな」
「ちょ、本気ですかお頭! 危ねぇですよ!」
売りもん奴隷もそこにおいてきちまったんだろ? なら回収に行かないといけないし、船内に異常がないかも確認しなきゃならない」
「で、でもよ……」

 なおも渋る手下に、マルティナは苛立ちを募らせ始め、剣呑な空気が滲み始める。

「ゴチャゴチャ言ってないでさっさと行くよ!! それとも、ここであたしを本気で怒らせて、海に突き落とされたいのかい?!」
「い、いえ! 決してそいうわけじゃ!」
「い、行きます! 行きますから、そんな殺気全開にしないでくださいよ!」
「分かったならさっさと付いてきな、この腰抜けどもが!!」
「「は、はい!!」」

 マルティナが発する威圧に、手下の盗賊達は直立して声を揃えた。

 このマルティナという女性……伊達に、盗賊団の頭を勤めているわけではないようだ。

「(にしても、何だか嫌な予感がするねぇ……)」

 マルティナは盗賊達を後ろに引き連れながら、【遊技場】と名づけた部屋に向かう。

 その表情は、いつにも増して険しいものになっていた。




 一方その頃、天馬は早足に子供達が捕らえられている部屋の前まで到着。

 途中で何度か通路を徘徊する盗賊達とすれ違ったが、なんとか無事にここまで来ることができた。

 詰まれた木箱の陰に隠れて息を殺したり、咄嗟に倉庫になっている部屋に逃げ込んだり。
 姿が見えないからと過信せず、天馬は慎重に部屋まで進んだ。

 そして、見張りの盗賊達を魔法で気絶させ、部屋に入る。

 ただし、今回は完全に姿を現した状態で、だ。

「……皆、寝てるのか……?」

 そこにいたのは、種族問わず押し込められた子供たち、総勢14人の姿だった。
 人《ヒューム》が半数以上で、三分の一が他種族のようだ。

「……皆、すごいやつれてる……それに……」

 とても栄養が足りていないのだろう。
 頬は痩せこけ、衣服から覗く手足は異様に細い。

 しかも、所々が痣になっている子がいる。

「まさか、子供にまで手を上げているなんて……」

 特に、体の大きな一人の少年。年の頃は、十に届くかギリギリの子の体が、最も傷が多い。

「今、助けるから……」

 天馬は、子供達を起こさないように、そっと近付き、床に膝を付く。

「――っ、誰だ?!」

 すると、最年長と思われる傷だらけの男の子が、天馬の存在に気づき、声を上げて部屋の子供達を起こしてしまった。

「あ、ちょっと待って。わたしは怪しいものじゃないから!」

 慌てて声を掛けるも、天馬の姿を見た子供達は警戒してしまい、部屋へと奥に逃げてしまう。

 そして、先程の傷だらけの少年が、天馬を威嚇するように立ち塞がり、睨み付けてくる。

 その姿は、さながら子供達を守ろうとしているかのようだった。

「(……違う……この子は本当に守ってるんだ、後ろにいる、小さい子達を……)」

 膝を震わせながらも、少年は拳をぎゅっと握って、気丈に天馬と対峙する。

 見たところ人《ヒューム》のようだが、種族の違いなど関係ないかのように、全員をその小さな背中に庇っている。

「また、俺達を殴りにきたのか……?」
「え?」

 突然の少年の言葉に、天馬は唖然としてしまう。

「な、何を言ってるのかな? わたしは別に……」
「とぼけるな! どうせまた、俺達を殴って遊ぶために来たんだろ?!」

 と、少年は突然、天馬の前に出てきて、両手を広げて通せんぼしてくる。
 それと同時に、自分の体を差し出しているようにも見えた。

「な、殴るなら俺を殴れ! ……で、でもそのかわり、後ろのみんなには手を出すな!」
「っ?!」

 何て子供だと、天馬は思わず我が目を疑った。
 こんな小さな子供が、自分を犠牲にして、他の子供を守ろうとしている。

 しかも、種族への偏見もなく、自分より小さな子供を全員守ろうといるのだ。
 子供ゆえの純粋さだろうか。他種族への偏見を一切持ってはいないようだが、それにしたって見上げた根性である。

「さ、さぁ! どっからでもこい!」

 しかし、勢いをつけてそんなことを口にはしているが、体はガタガタと震え、目尻には涙が溜まっている。

 そんな少年の姿に、天馬の胸が熱くなる。

「君、名前は?」

 天馬は、時間もそんなにないなか、少年の名前を訊ねた。

「テ、テオ、だ……そ、それが、どうした……?」

 テオ……それがこの子の名前らしい。

 天馬は、そっと立ち上がると、テオの方へと歩いていく。
 その途端、テオはぎゅっと目を瞑って、体を硬くする。

 後ろにいる子供たちも、お互いに身を寄せながら、涙を溢れさせて震えていた。

 しかし、一向に相手から殴られる気配がしない。

 いや、それどころか、次の瞬間――

「えっ?!」

 急に、テオの体を、柔らかい何かが包み込んだ。

「大丈夫……わたしは、君たちの味方だよ……」

 天馬は、テオの背中に腕を回し、頭を抱えるよにして胸元に抱き寄せたのだ。
 ふいに訪れた優しい抱擁に、テオは目を白黒させ、何が起きたのか事態を把握できずにいる。

「な、何を……」
「頑張ったね……君が、皆を守ってくれてたんだよね……こんな傷だらけになって……」
「……え、えと、俺……」

 また殴られるのだと思っていただけに、急に触れた天馬の温もりに戸惑うテオ。しかし暴れることはせず、ただされるがままに天馬に抱擁されていた。

「ずっと、怖かったよね? 痛かったよね? でも、もう大丈夫……わたしが、皆を助けてあげるから」
「っ!」

 天馬はテオの頭を何度も撫でて、もう安心していいと訴える。
 頑張ったね、偉いね、と天馬はテオを褒めながら、母親がするように、テオのことを抱きしめ続ける。

 すると、次第にテオの体から緊張が解れていき、天馬に体重を預け、ぎゅっとしがみ付いてきた。

「ひく、~~~~~~っ!」

 そして最後には、天馬の胸に顔を埋めて、泣き出してしまったのだ。

「うん。よく頑張った。頑張ったね……」

 泣き続けるテオをあやし、慰める。

 そして、よほど疲労が蓄積していたのだろう。数分の間泣き続けていたテオは、天馬の腕の中で眠ってしまった。

「それじゃ、この子を……」
 
 天馬は、テオをアイテムボックスに避難させようと、一度彼を放し、服に手を掛ける。

 と、そこでふと、天馬の動きが止まった。

 部屋には、テオ以外の子供が、天馬のそばに近付いてきていた。

 すると、その中の一人……獣人の女の子が、ふと天馬に尋ねてきたのだ。

「お姉ちゃん、何で服脱ぐの?」と。

 その質問に、天馬は答えることができず、動揺してしまう。
 よく考えれば、相手が子供とはいえ、裸を晒すというのは如何なものであろうか。

 先ほど、女性二人を助けた時は、事態の深刻さに、羞恥心を感じている暇もなく服を脱ぎ捨てたが、端から見れば、完全に痴女である。

 だが、今は非常時。
 服を着たままでは、子供達をアイテムボックスに入れることができない。

「ど、どうしよう……」

 しかし、悩んでも答えが出るわけもなく、天馬は顔を耳の裏から首筋まで真っ赤にしながら服を脱いで、子供達を全員救出。

「(相手は子供、相手は子供……)」と何度も心で唱えながら、できもしないのに無心になろうと躍起になった。

 しかし、いくら相手が子供とはいえ、大なり小なり、性に目覚め始めている子供はいるわけで……
 天馬は、そんな子供たちからの好奇の視線に晒されながらも、なんとかことを進めていった。

 そして、最後の子供をアイテムボックスに導き、服を着て一言……

「……死にたい……」

 ひととしての尊厳がゴリゴリと削られる気分を味わいながら、天馬は部屋を後にしたのだった。
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