ガチ・女神転生――顔だけ強面な男が女神に転生。堕女神に異世界の管理を押し付けられました!

昼行灯

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廃村の亡霊編

匂いと、着替えと、お食事と 2

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「はぁ……何を口走ってるんだ俺は……バカなんですか?」

 最近、素の口調と変化し始めた丁寧口調が混ざってきて、違和感が半端ない。

 いや、今はそれどころではない。

 さっきの発言。あれはマズイ。
 あれは、今の天馬が男だろうと女だろうと、発言としてはナンセンスだ。

 言い訳にしても、下の下。最悪の答えだ。

「……はぁ~~っ」

 大きなため息が天馬の口から漏れ出る。
 だが、過ぎてしまったことを悔やんでいても仕方がない。
 あとで適当にフォローをするとして……現在天馬がやるべきことは。

「と、そろそろいい感じですかね」

 樽の水が適温になった頃を見計らい、魔法を解除する。
 熱湯にしてしまっては、体を拭くのには使えない。
 考え事をしながら魔法を使うのは控えようと、天馬は頭を振った。

「……さすがにこの樽を自力で持っていくのは無理ですね。となると……」

 天馬は風の魔法を使って、樽を浮かせる。

 ふよふよと漂う樽にそっと手で触れて、先程の部屋まで持っていく。

「ああぁ~、気まずい……」

 部屋へ近付くにつれて、天馬の表情が浮かないものになる。

「とは言っても、あの樽ひとつだけじゃ、多分足りないですよねぇ。人数が多いですし、お湯の替えは必要だろうからなぁ…………あ」

 独り言を呟きつつ、とぼとぼと樽を押して歩いていると、すぐに部屋へと着いてしまった。

 扉の前には、獣人の女性が二人、見張りに立っている。

「見張り、お疲れ様です。新しいお湯を持ってきました。多分、そろそろ樽の中身が汚れてきたんじゃないかと思いますが」
「あ、テルマさん」
「わざわざすみません。仰る通り、そろそろ中のお湯が濁ってきてて……」

 相手の反応を窺うように、天馬は二人に声を掛けた。
 しかし、反応も受け答えも普通。その事にほっとした天馬は、胸を撫で下ろした。

 しかし、部屋に入る気はおきず、天馬は彼女達に樽を託すことにした。

 女性とはいえ獣人である。二人もいれば、この樽を中に入れることなど造作もないだろう。

「そうですか。丁度良かったですね。それでは申し訳なんですけど、これを部屋に入れておいてください。次の樽を持ってくるときまでに、中身の汚れた樽を通路に出しておいてもらえれば、また改めて替えのお湯を持ってきます。……お二人は、もう体は拭いたんですか?」

 目の前の二人からは、先程までの刺激臭はしない。

 いや、むしろ…… 

「はい。私達はここで見張りに立つつもりだったので、真っ先にお湯を使わせてもらいました。今は子供たちを優先的に綺麗にしているはずですよ」
「そうですか。……それと、なんだかお二人から、ほのかにいい匂いが……」
「ああ、先程アリーチェさんが、【香油】をくれたんですよ。何でも、今回戻ってきた商品の中に入ってたとかで、使ってもらって構わない、とのことでした」
「【こうゆ】、ですか? いい匂いですね」

「化粧品の一種だろうか?」と、天馬は香油を前に首を傾げた。
 
 しかし、二人の体から漂ってくる香りが、その香油のお陰であることだけは、取り敢えず理解した。

「それでは、わたしは戻りますね。では……」
「あ、テルマさん。わざわざ往復する必要はありません。お湯の準備でしたら、別にここでも」
「はい。それに私達としては、テルマさんに真っ先に体を清めてほしいです」

 彼女達は、天馬に気遣わしげな視線を向けながら、そう提案してくれる。

 しかし、やはり天馬としては、この部屋に突入する勇気は湧いてこなかった。

 何せ生前は童貞のまま死んだ天馬である。自分の今の体にすらようやく慣れてきたばかりだというのに、他の女性の裸など……到底視界に納めることなどできようはずもない。

「……ありがたいですが、わたしは一番最後で……皆さんが終わったら、次は男のひと達も、体を綺麗にしてもらわないといけません。結局、最初に体を拭いてもあとで汚れますから、わたしは最後で構いません」
「それでは、テルマさんが体を清められる頃には、空も真っ暗になってしまいます……」
「構いせんよ。皆さんがサッパリしてから、わたしも体を拭きます。わたしはここに来て日も浅いですし、そこまで体の汚れは気になりません。ですから、皆さんが優先でいいんですよ」

 そう言って、天馬は微笑んだ。
 獣人の二人は、そんな天馬の表情に、小さくため息を吐く。
 いくらなんでも、献身的にすぎる、と……
 彼女は自分達を窮地から救ってくれた存在であり、多少のわがままくらいなら、喜んで叶えるつもりである。

 しかし、天馬はことあるごとに他人を優先する。

 先日の荷物運び。一番張り切って、一番多くの荷物を運んでいたのは、天馬だった。

 重そうな荷物があれば、自分が持っていく、と言ってあっさり運んでしまうのだから叶わない。

 彼女がいなければ、今も荷物運びに追われていただろう。

「分かりました……あまりご無理をなさらないで、適度に休んでくださいね」
「ありがとうございます。それじゃ、お願いします」

 そうして言って、天馬は部屋を後にした。

 扉の前で見張り番をしている獣人の二人は、その後ろ姿を、苦笑しながら見送った。




「はぁ……気持ちいいですねぇ……」

 肌を妹に晒し、体を拭いてもらっているヨルの表情は、どこか恍惚としていた。

 子供をお腹に宿してから、更に大きくなった胸。ヨルは膨らんだお腹を慈しむように撫でながら、サヨに身を任せていた。
 狼の耳はペタンと横に垂れて、大きな尻尾は心地よさからかフサフサと常に動いている。

「ふふ、お姉ちゃん、このまま寝ちゃいそうだね」
「ええ、サヨの力加減が絶妙で……すごくフワフワするわ……」

 子供たちの体を綺麗に拭き終えた女性陣は、テルマが持ってきた替えのお湯を利用して、体を拭いていた。

 中には、子供が母親の背中を拭いているという、微笑ましい光景も目に入る。

 サヨ達の近くには、シャーロット、ノームの姿もあった。
 二人は、お互いに体の汚れを落とし合っているようだ。

「今寝ちゃダメだよ? ちゃんと服を着て、ベッドで休んでね」
「大丈夫よ。あとで私もサヨの体を拭いてあげないといけないんだから、寝ないように頑張るわ……」

 と言いつつ、ヨルの瞼はひどく重そうだ。
 ずっと続いていた緊張状態も解けて、完全に気が緩んでいる。
 お腹の子供のためにも、リラックスできているこの現状は、非常に良好な状態であろう。

 しかし、油断は禁物だ。

 裸のまま寝てしまい、風邪など引いては一大事である。

「もう……お姉ちゃん、今にも寝ちゃいそうだよ? アタシはいいから、これが終わったらすぐにベッドに入ってね、分かった?」
「え~、せっかくの姉妹水入らずじゃないのぉ……」
「はは、それは今度ね。これから、いくらでも機会はあるんだから」

 そう。これから、いくらでも。こういった機会は作れるのだ。

「……ええ、そうね。その通り、よね。分かったわ。今回は諦めて、このあとはすぐに寝ちゃうわね……」
「うん……」

 穏やかに時間が過ぎていく感覚。
 まさか、あの状況からこんなことになろうとは、誰も思っていなかったはず。

 それを思えば、テルマには感謝してもしきれない。

 と、ふいにサヨは、先程のテルマの発言を思い出す。

『皆さんの裸を見ちゃったら、ムラムラする』

「(あれって……)」

 力をほとんど抜いて、妹に身を任せているヨルに、サヨはそっと口を開いた。

「ね、ねぇ、お姉ちゃん……さっきのテルマの言葉ってさ、どういう意味なんだろ?」

 サヨは、姉であるヨルの背中を拭きながら、疑問を口にした。

「う~ん……? 何が?」
「ほ、ほら、テルマがさ、ア、アタシ達のは、裸を見たら、その……ム、ムラムラするって言ってた、あれ……」
「あぁ……」

 ヨルはぽ~っとした表情で頷いた。
 実際、あの発言が出たときは、ヨルも少なからず驚いた。

「テルマさんって、感性が私達と違うところがあるから、あれはあれで、本気で言った可能性もあるわねぇ……」
「それってやっぱり……テルマは、女のひとが好き、ってことなのかな? ねぇ、シャーロットはどう思う?」

 サヨは、すぐ近くで一緒に体を清めているシャーロットにも、疑問を投げ掛けた。

「……難しいですわね。あの方の行動はキテレツな部分が多いですし……実際にあの方が、女性を恋愛対象に見るのかどうかは、まだ判断が付きませんわ」

 シャーロットとノームも、ヨルと同様に、衣服を全て脱いで体の汚れを拭っている。

 シャーロットは、慎ましやかな胸……しかし、均衡の取れたスレンダーな肢体で、全体的にバランスがいい。

 ノームは、完全にお子様体型である。体に殆んど起伏がない。

「でも、テルマがもし女性が好きなひとだったら、シャーロットはどう思う?」
「問題はあるかと思いますが、嗜好は個人の自由ですし、別に嫌悪したりはしませんわ」
「じゃあ、もしテルマから告白されても、受け入れる?」
「…………………………断りますわ」
「今、すっごい悩んだよね?」
「き、気のせいですわ!」

 サヨに質問され、頬を朱に染めながら、虚空を見上げていたシャーロット。一瞬見せたあの表情は、どことなく恋する乙女のようにも……

「そ、そう言うサヨさんはどうなんですの?!」
「え、アタシ?!」
「そうですわよ! だって貴女、テルマさんにべったりではありませんか!」
「あ、あれは、信頼の証みたいなもので……テルマに告白されても、ぶ、無難に断れるよ!」
「今、少しどもりましたわね?」
「き、気のせいだよ!」

 お互いに似たような返しをするサヨとシャーロット。
 そんな二人の姿を眺めながら、ヨルは頬に手を当てて、

「あらあら~、ふふふ」

 と微笑んでいた。

 すると、

「……ワタシは、テルマに告白されても、全然問題なし。むしろ、大歓迎……」
「「え?」」

 突然会話に入ってきたノームの爆弾投下に、他の三人はポカンとした表情を浮かべる羽目に……

 しかしそんな中、彼女達の会話に耳を傾け、ただならぬ雰囲気で視線を送る存在が一人……金の髪を整える、アリーチェだった。




 夜。

 子供達と女性陣が体を綺麗し、続けざまに男性陣にも体を拭いてもらった。
 彼らには相当遠慮されたが、天馬がごり押して体を綺麗にさせた。

『病気になったら、誰がこの船を守るんですか? わたし、船の操作なんてできませんよ?』

 と、おちゃらけて脅してみたり。

 すると、渋々といった感じで、男性陣も体を拭き始めた。
 ちなみに、天馬が樽を軽々と持ち上げたのを目にし、彼らは驚愕の表情を浮かべたのだが、天馬はそれに気付いてはいなかった。

 しかも、素っ裸になっている彼らの部屋に、天馬がいきなり突入などするものだから、かなりカオスなことになってしまった事態も。

 元が男であるだけに、全く抵抗がなかったのが原因である。

 その後、シャーロットに滅茶苦茶怒られたのは、言うまでもない。

 そうして全てが終わったのは、日が完全に水平線の彼方に落ちてからだった。

「はふぅ~……さすがに疲れたなぁ……」

 肺から息を吐き出し、床に腰を下ろす天馬。

 手にお湯が入った小さな木桶を持ち、その縁には、体を拭く為の布が引っ掛かっている。

 完全に銭湯のスタイルである。

「さて、俺も身を清めるかな……」

 そう言って、服に手を掛けて一気に脱いでしまう。

 と、ふいに扉の向こう側でひとの気配がした。

 数は四人。魔力の波長から、全員が女性であることがわかる。

「(誰だろう……?)」

 すると、

「テルマ……」

 そっと扉が開き、顔だけ入ってきたのはサヨだった。

「あ、サヨさん。どうかしましたか?」
「えと、実は、体を拭いてあげようかな、って……ほら、背中とかさ、一人じゃ拭きにくいでしょ? だから……」
「それでわざわざ? というか、後ろにもう何人かいますよね?」
「え? 何で分かったの?」
「う~ん……なんとなく、ですかね」
「そ、そうなんだ……入ってもいい?」
「どうぞ」

 天馬がそう言うと、部屋にサヨが入ってきた。
 後ろから続いて、シャーロット、ノーム、そして意外なことに、アリーチェも一緒だった。

 アリーチェは、背中に少し大きめの麻袋を下げている。

 てっきりこのメンバーだと、ヨルが一緒だと思っていたが、どうやら違ったらしい。

「失礼します……っ」

 そっと入ってきたアリーチェは、月明かりに輝く天馬の白い肌に、言葉を失った。

「綺麗……」

 ぽぉ、っと頬を染め、天馬に熱っぽい視線を送るアリーチェ。

 彼女に見つめられて、天馬も思わず顔が赤くなった。

「そ、その、あまり見られると、恥ずかしいです……」

 天馬は脱いだ衣服を拾い上げ、思わず体を隠してしまった。

「あ、ご、ごめんなさい! ジロジロ見ちゃって……」
「い、いえ、あまり気にしないでください。その、こちらこそお見苦しいものを見せてしまって……すみません。はは……」

 どことなく気恥ずかしくて、天馬は羞恥を誤魔化すように笑った。
 男の精神を持っている天馬としては、綺麗と言われる感覚がよく分からない。

 そもそも、女性としての自分は、完全に紛い物だと思っているだけに、天馬本人はアリーチェの評価に疑問を持ってしまう。

「み、見苦しくなど! テルマ様は、すごくお綺麗です! 王国のお姫様だって目ではありません!」
「そ、それは言い過ぎでは……」
「そんなことありません! 事実です!」
「そ、それは……ありがとうございます……」

 アリーチェの勢いに、天馬は気圧されてしまう。
 ぐんと顔を近付けてきたアリーチェの表情は真剣だった。
 少し前まではくすんで輝きを失っていた金髪も、汚れて暗く見えていた顔も綺麗になり、今ではすっかり美人さんになっている。

「アリーチェさんも、お綺麗ですよ」
「そ、そんなこと……えへへ」
「こう言っては不謹慎ですが、アリーチェさんは大丈夫だったんですか? その、盗賊に……」
「え? ああ……私は大丈夫でした……あのときは、陰鬱な女を演じてましたから、彼らも興味を抱かなかったのかと……」
「そうでしたか。よかった……あ、いえ! 別にアリーチェさんが不細工だと言ってるわけじゃないですよ?!」
「ふふ、分かってます……テルマ様はお優しいですね……それでいてお強く、美しい……ですから、私は……」

 途端、アリーチェの瞳に、何やら妖しい光が宿る。
 暗がりでよく見えないが、その表情は非常に悩ましいものになっているのが確認できた。

「ア、アリーチェさん?」

 しかし、天馬にはその表情の意味が分からず、小首を傾げてしまう。
 だが、アリーチェから熱い視線を感じていとき、ふいに彼女の背後から、

「コホン――テルマさん、早く体を吹いてしまいしょう。いつまでもそのままでは、風邪を引いてしまいますわ」
「あ、ああ、それもそうですね」

 サヨと一緒に部屋に入ってきたシャーロットが、アリーチェの後ろから一つ咳払いを飛ばした。

 それを合図に、サヨとノームが嬉々として天馬の傍に膝をつき、すり寄ってくる。

「へへへ、テルマ。ちゃんと綺麗にしてあげるからね」
「……ワタシも、手伝う」
「ちょ、二人とも! 変なところ触らないで……あ、ちょっと! 胸は自分でやりますから!」
「……ちっ」

 瞬間、アリーチェの口から、小さく舌打ちが漏れた。

 だが、その事に天馬は気付かなかった。
 サヨも、ノームも、天馬の体を拭くことに夢中で、アリーチェの様子は目に入っていなかったようだ。

「…………」

 唯一、彼女の舌打ちに気付いたのは、シャーロットただ一人だけだった。

「(この方、まさか……いえ、まだ憶測ですわね……)」

 シャーロットは、アリーチェに一定の警戒心を抱きつつも、深く探ることはしなかった。

 もしかしたら、自分の考えすぎかも、とも考えたからだ。

「(まぁ、多少警戒する程度でいいでしょうか……テルマさんに何かおかしなことをしようとしても、返り討ちにあうのは目に見えていますし……と、今はそれよりも)」

「テルマさん、足を前に出してください。わたくしが拭いてさしあげますわ」

 シャーロットは思考を打ち切り、アリーチェを追い越して天馬の近くに腰を下ろした。

 そして、天馬の脚に手を添えて、優しく拭く始めた。

「あ、あの! そんなに皆で拭いてもらわなくても、自分でやりますから!」
「テルマ様、私は髪を担当させてもらいます。香りのよい香油を持ってきました。汚れを落としてから、髪に馴染ませてあげます」
「って、アリーチェさんまで?! そ、そんないっぺんに! ぁ、ふぁん! ちょっとノームさん! 胸で遊ばないでください!」
「……心外。ワタシはテルマの胸を綺麗にしてるだけ。こことか」

 そう言うと、ノームはテルマの胸をぐいっと持ち上げて、付け根に溜まった汗を拭ってくる。

「いえ、何でそんな、あん……胸、ばっかり……」
「……ワタシが気持ちいいから」
「ぶっちゃけた?!」
「あ、テルマ、あまり動かないで。ちゃんと拭けない」
「テルマさん、脚を暴れさせないでくださいな。わたくしを蹴り飛ばすおつもりですか?」
「テルマ様、気持ちいいですか? 私はよく姉の髪を、こうして清めていましたから、得意なんですよ、これ」

 天馬は、四人の女性に奉仕してもらうという、傍目から見ればハーレムにすら見える状況になっていた。

 だが、

「く、くすぐったいです! ひゃん! そこは敏感で……ちょ、待って! さすがにそんなところは――!」

 という感じで、本人としては、彼女達の行き過ぎた奉仕に、悶絶する羽目になったのだった。


「ふぅ、綺麗になったね、テルマ」
「ええ、見違えるようですわ」
「……ピカピカ」
「ああ、テルマ様……ますます美しく……」
「…………(びくっ、びくっ)」

 天馬は、体に力が入らず、サヨに体を支えられて、少しだけ痙攣していた。

「(はぁ、ひどい目に遭った)」

 彼女たちは好意から今回の奉仕を申し出てくれたのだということは理解しているが、さすがにやり過ぎだ。

 体を綺麗にしてサッパリするどころか、疲労が溜まってしまう有り様だ。

「(でも、わざわざこんな夜に来てくれたわけだし、文句を言うのもな……それに、やっぱり嬉しかったし)」

 誰からも顔を怖がられ、近づいて来ることもなかった生前の天馬。
 それを思うと、今の状況もそう悪いものとは思えなかった。

「(でも、もう二度とこれは勘弁だな……)」

 天馬はぐったりとした体を、ゆっくりと起こした。

「ありがとうございます、皆さん……それじゃ、もう休みましょうか。昨日から動き続けで、お疲れでしょうから。ゆっくりと睡眠をとらないと」
「そうだね。そうしようか……あ、でもその前に、アリーチェさん」
「ええ、分かってるわ。テルマ様、これを……」

 と、サヨに促されて、アリーチェは大きめな麻袋から、服を取り出した。

「――テルマ様の、新しい服です」
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