ガチ・女神転生――顔だけ強面な男が女神に転生。堕女神に異世界の管理を押し付けられました!

昼行灯

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廃村の亡霊編

慟哭と憎悪の囚われビト 1

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 苦しい……

 あの日、悲劇は訪れた。

 痛い……

 だが、悲劇が起きたから、絶望したわけじゃない。

 苦しい……

 こんな感情が芽生えたのは、悲劇のせいでは――断じてない。

 痛い……

 真の絶望というものは、もっと身近なものによってもたらされるのだと、この時、初めて知った。

 苦しい……

 そう、例えば……

 痛い……

 家族に……家族だと思っていた者達に、

 助けて!


 ――裏切られたりすること、とか…………




「――っ?!」

 天馬は、不意に訪れた感覚に足を止めた。

「?」

 それを、アリーチェは不思議そうに見上げてくる。

「(なんだ、今の……?)」

 何か、自分の知っている気配が、この村に紛れてきたような……

「(……いや、そんなはずはないな)」

 ここにいるのは、アリーチェと天馬だけ。
 他の皆は、村の外で待ってくれているはずだ。

「(気のせい、かな……?)」

 天馬は頭を振って、流れてきた一瞬の感覚を払う。

「……ぁ」

 すると、アリーチェは天馬を見上げたまま、心配そうな表情で、何事かを呟こうとしている。

 しかし、天馬との約束の為か、口をパクパクと動かすだけで、声は発さない。

 だが、それだけで天馬は彼女が何を言いたいのか分かった気した。

『お姉さま、大丈夫ですか?』と。

 眉を下げるアリーチェの頭を、天馬は優しく撫でた。彼女を安心させる為に、表情を笑みの形にしながら……

 それで、ひとまずはアリーチェも納得してくれたのか、多少不安そうな様子は残るが、それ以上の追求はしてこなかった。

「(ダメだな、こんなんじゃ。この子は、ここにいるだけで不安なのに、俺まで心配させたら、彼女は怖がる一方だ)」

 天馬は改めて気を引き締め、歩みを再開した。




 暗い、暗い、暗い……

 シャーロットは、無明むみょうの闇の中を、ゆっくりと漂っていた。

 寒い、寒い、寒い……

 まるで全身が凍り付いてしまったかのように冷たく、体が動かない。

 怖い、怖い、怖い……

 そして何よりも、シャーロットは恐ろしかった。
 
 自分は目を瞑っているのに、いや、瞑っているからこそなのか。
 全身に浴びせられる視線を、肌で感じることができてしまった。
 それがなお、恐怖を生んだ。

 助けて、助けて、助けて……

 シャーロットは恐怖に支配された心で、必死に助けを呼んだ。

 今はもうこの世にいない、父と母を。
 危機的状況を共に切り抜けた、友人たちを。

 そして……このとき最もシャーロットの頭に浮かんできた人物は――

 助けて! テルマさん――っ!!

 温かく、柔らかく、お日様のように身も心を包み込んでれる、『女神のような』女性の姿だった。




「(……ここが、村の中心……)」

 村に入ってから数時間。
 散々歩かされた末に、天馬達はようやく目的地である、村の中心地へと到着した。

「(それにしても、ここが……?)」

「「……」」

 天馬も、そしてアリーチェも、視界に入ってきた村の基点。
 そこの意外な光景に、驚愕の表情を浮かべた。

「(正直、予想外だ……)」

 何しろ、そこは一面、『白い花畑』になっており、中心エリアには、豪勢、とまでは言わないまでも、この村にあっては随分と立派な建物が建っているのだから。

 材質が木と石で作られている点に関しては、他の家と変わらない。 
 だが、二階が存在している家は、目の前にある一軒のみだ。
 しかも、全く壊された様子もない。
 まるで新築。新鮮な木の香りが、ここまで漂ってくる。

「(……でも、この場所に漂う魔力は……)」

 まるで強烈な悪臭でも放っているかのように、澱んでいる。
 美しい光景との矛盾に、天馬は思わず眉をひそめた。

「(気持ち悪い……)」

 後ろを振り返れば、亡者達が蠢く薄暗い廃村。

 しかし、正面の光景は、それらをまるで揶揄するかのような、完璧なまでの美しさを保っている。

 魔力を感じることができないものが見れば、さながら砂漠の中のオアシスだ。
 恐怖を振りまく亡者達から逃げ延びた先に、こんな光景が広がっていれば、誰でも吸い寄せられてしまうだろう。

「(歪だ……)」

 そう、歪。

 この光景は美しい。しかし、この場にあるべき美しさではない。

「……」

 天馬は、目の前の光景の奥……実態を見ようと目に魔力を浸透させてみる。

 女神スキル――【視力強化】

 このスキルは、以前天馬が盗賊達と渡り合う為に習得したスキルだ。
 暗視や物体透過のほかに、生物の擬態を見抜くような、直感力の強化もしれくれるのだ。

「(さて、その裏に何があるのか、見せてもらおうかな)」

 目の前の光景の奥に潜む真の姿が、天馬の瞳に映り込む。

 だが、その光景はあまりにも……

「ぐ……っ」

 思わず、天馬は口を押さえてしまった。

「っ?!」

 そんな天馬の姿に、アリーチェもビクリと体を震わせる。
 彼女には、天馬が見ている光景は見えていない。

 いや、見えなくて正解だ。

『こんなもの』、まともな精神をしている者が見ていいものじゃない。

「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ~」

 心の波を落ち着かせようと、呼吸を繰り返す。
 今はもう、あの光景は見えない。スキルを解いたからだ。

 また、辺り一面を覆い尽くす花畑が映る。

 だが、先程の光景を見た後では、より一層この景色が歪んで見えてくる。

「(行こう……)」

 こんな悲しい現実を生み出す存在。

 その『大元』となっているものの元へと、天馬は近付いていく。
 その際に、アリーチェの肩を抱くようにして、彼女の身を自身の傍に手繰り寄せる。

「?」

 その行為の意味に首を傾げるアリーチェだったが、薄っすらと頬が赤く染まった。
 天馬は、これから出会う何者かが、アリーチェにちょっかいを掛けないよう、しっかりと彼女の腕を自身の腕に絡ませた。

「(絶対に、守ってみせる)」

 心に決意を宿し、天馬は花畑の中心に建つ家の前で足を止めた。

「…………」

 無言で家を見上げる。
 全てが木と石でできた家は、窓にガラスをはめ込んでいたりはしない。
 窓は木の板で閉められるようになっているだけの簡単なものだ。

 そこから中を覗くと、暖炉と思われる物の中で、火が焚かれていた。

 天馬は家の入り口の正面に移動し、そっと扉のノブに手を掛けようとしたが、

 ギィ~……

「「っ?!」」

 突如、天馬が手を掛ける前に、扉はひとりでに開いた。

 ……まるで、招かれているかのようだ。

 扉は外開きだった為、天馬達は驚いて後ろに下がった。

 警戒するように中を確認するが、誰もいない。

「(入ってこい……ってことか)」

 これが亡者の罠なのか。それもとも別の意図がある行動なのかは分からない。

 だが、これだけ澱んだ魔力を放つ存在が、まともであるはずがない。

「(いざというときは、問答無用で【浄化】を発動しよう)」

 今そうしないのは、この村の亡者達に、気になることがあったからだ。
 ここにいる存在なら、それを知っているかもしれない。
 故に、ここではまだ、【浄化】は使わない。
 ただの力技で霊たちを昇天させるのは、何か違う気もするから……

「…………行きましょう」

 そこで、天馬はあえて声を出した。
 そうすることで、自分を奮い立たせる意味もあった。
 それと、ここでもまだ、アリーチェが何かの声に反応しないかを確認する意図も含まれていた。
 この先にいる存在に魅入られ、その魂を引き摺られれば、どうなるか分からない。

「…………」

 だが、アリーチェは頷きもせず、天馬の腕にしがみ付くだけで、なんの反応も返さなかった。

 そのことに天馬は安堵し、開かれた扉に近付いていく。

 中に入ると、そこはとても温かい空間だった。
 そこまで広くない部屋に、暖炉とテーブル。3脚の椅子が並び、石を組んで作られた、台所と見られる設備もある。

 部屋の奥には、二階へ上がる為の階段はしごが。

 黒い魔力はそれを昇った先から漏れており、先に目的の存在がいることを教えてくれていた。

 だが、それよりも天馬は、ある『見知った気配』も同時にはしごの上から感じてしまい、動揺が生まれてしまう。

「(この気配……いや、まさか……でも)」

 天馬は首を傾げつつも、アリーチェを後ろにして、はしごを上っていく。

 二階に上がる直前に、顔だけを出して辺りを確認する。

 すると……

「らん、ららら~、ら~ら~ら~……♪」

 歌を口ずさむ一人の少女が、安楽椅子あんらくいすに揺られながら、座っていた。

「(まさか、あの子が……?)」

 天馬は訝しげな表情を浮かべ、彼女以外の存在が近くにいないか視線を巡らせるも、他には誰もいないよう見える。

「ふふ、そんなところで盗み見てないで、上がってきたら? 後ろの可愛らしいお嬢さんもご一緒に……」

 歌が止み、椅子に座ったまま少女はそう口にした。
 天馬はそれに従うように、はしごを上がり、アリーチェに手を貸して、二階に上げる。

 そしてすぐさま、彼女を自分の背中に匿った。

「ふふふ、この家まで正気を保って訪ねてきたのは、あなた達が初めてよ」

 少女は、ゆっくりと椅子から立ち上がり、こちらに振り向いた。
 その表情はとても穏やかで、一見すればとても邪気などないように見えてしまう。

 濃いダークブラウンの髪を肩甲骨まで伸ばし、整った顔には飴色の瞳が輝いていた。
 肌はかなり色白で、着ている服装も白いワンピースのようなものだ。

 とても清楚。外の景色と同様の矛盾。

 だが、彼女が放出する魔力こそ、今この場で最も穢れていることは、言うまでもなかった。

「ふふ、自己紹介でもしましょうか。私は、アリア、と申します」
「「…………」」

 アリアと名乗った少女は、優雅な仕草で一礼した。
 しかし、天馬もアリーチェも無言を貫き、身構える。
 アリーチェは、彼女に言い知れぬ何かを感じ取るのか、天馬の背に隠れて、アリアと顔を会わせようともしない。

「あらあら、つれないのね? もう少し穏やかにいきましょう……でないと、『この子』を先に……落としちゃうわよ?」
「っ?!」

 天馬は、目を見開き、思わず声を上げそうになった。

 なぜなら、

「珍しいわよね? こんな場所で見かけるなんて……私の村の近くをウロウロしてから、思わず連れて来てもらっちゃったわ。だって――『森精霊エルフ』なんて初めて見たんですもの……」

 アリアの足元。
 今まで誰もなかったその場所に、いつの間にか、一人の少女が横たわっていた。

 それは、天馬がよく知る人物で……

「(そんな! なんでここに、彼女が?!)」

「ふふ、ふふふ、ふふふふふふ……」

 不気味に笑う彼女の足元には、気を失ったシャーロットが転がっていた。
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