ガチ・女神転生――顔だけ強面な男が女神に転生。堕女神に異世界の管理を押し付けられました!

昼行灯

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復興編

かしまし娘共

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 空間が静寂に包まれる中、天馬の視界が、元の部屋に戻ってくる。
 
 そこで彼女の目に映った光景は、風化してボロボロになり、先程の部屋とはまるっきり様相が変貌した一室だった。

 視界の端に、倒れたシャーロットとアリーチェが映り込む。
 
 二人の無事を確認した天馬は、思わず床に膝を突き、先程のアリアとの会話を思い出す。

「(全てを救うことは、神様でも無理、か……その通りだな……でも……)」

 この村に囚われていた亡者達を、天に還すことはできた。
 結果から言えば、本来の目的は達成できたことになる。

 しかし……亡者達アリア達の悲しみまで、天馬は解決することができなかった。
 それは元々、天馬には、どうすることもできないことだったのかもしれない。

 だが、天馬は己の無力を痛感ながらも、そのことを言い訳に、彼女達に何もしてやることができなかった自分を、許せはしなかった。

 求めすぎだろうか? いや、求めすぎて失敗したなら、まだいい。
 妥協した末に、納得のいかない結果を迎えるよりは、何倍もいいと天馬は考える。

 効率という観点で見れば、天馬の考え方は非効率極まりないのだろう。
 全てを得ようとして、あげく何も手にできなかったのなら、その行為に意味はない。

 しかし、得ようとする気持ちがなければ、何も手にできないことも、確かなのだ。

 だから、もし全てを求めるのならば……

「(もっと、俺も強くならなきゃいけない……これから先も、全てを救いたいと望むなら……もっと、強く……!)」

 外にいるサヨ達の顔を思い出し、己を鼓舞する天馬。

 しかし……

「ぁ……そろそろ、限界、かも……」

 あまりのも多くの血を流しすぎた天馬は、その命が消えかけていた。
 今まで動けていたのが不思議なほどである。

「アリーチェさん、たちを、運ばないと、いけないのに、な……」

 体勢が崩れていく。
 ばたりと倒れてしまった天馬は、いよいよ思考することも難しくなり……

「…………」

 そのまま、意識を失った。




「………………ん…………?」

 眩しい……そして、柔らかくて、温かい?

 ぼんやりとしたまま、天馬は自分の状況を確認しようと試みる。

 しかし、頭が思うように働かず、霞む視界の先を見つめる。
 
 ただ、この感覚には覚えがあり、天馬は、ほぅ、とひとつ、息を吐き出した。

「……ああ……『また、死に掛けた』のか……」

 あれだけ血を流せば、当然か……と、天馬は思わず苦笑した。
 おそらく、天馬の体に宿る、【不死身】の力が働いたのだろう。
 失ったはずの左肩から先の感触が、しっかりとある。

「それにしても、ここ……どこだ……?」

 少しだけ首を動かして、辺りを確認してみる。
 木の天井に、板張りの壁……そして体は、ごわごわとした布団に包まれているようだ。

「ちょっと、かび臭い……」

 なんてことを呟いた天馬。

 すると、

「テルマ!」
「え? あ……」

 急に、天馬の耳へ誰かの声が聞こえて、次いで駆け寄ってくる気配がした。

「気が付いた?! アタシのこと、分かる?!」
「え、と…………サヨ、さん?」
「そう、そうだよ! サヨだよ!」

 声のした方へ首を動かすと、すぐ近くに狼の耳と尻尾を持った獣人の少女……サヨが瞳に涙を浮かべて、天馬にすぐ近くで膝を突いていた。

「ぐす……テルマ~……よがっだ~」

 すると、サヨは顔をくしゃりと歪めて、本格的に泣き出してしまった。

「サヨ、どうしたの……っ?! テルマさん!」

 と、今度はヨルの声が聞こえて、慌てた様子で天馬のもとへと走ってくる。

「気が付いたのですね……はぁ~……よかった~」

 妹と同じようなリアクションをしたかと思うと、サヨの隣に。ぺたんと腰を下ろしてしまうヨル。
 妊婦なのだから走ったりしないように、と言いたかったのだが、天馬は苦笑いを浮かべるだけに留まった。

「丸2日以上も気を失っていたので、ほんとに心配しましたよ」
「……すみません」

 丸2日……あの幽霊騒動から、それなりに時間が過ぎていたようだ。

「あの、ここは……?」
「あ、ここは村にあった集会場、だと思います。この建物、あまりひとの生活感がありませんから。多分、集会場か何かだと」
「そう、ですか……ふぅ」

 そう。ここは、天馬がアリアの記憶で見た、あの集会場であった。
 村の外れにあるため、おそらく魔物の襲撃から難を逃れたのだろう。
 ほとんど破壊された痕跡もなく、老朽化していることを除けば、村で一番、現状まともに使える建物だったのだ。

「テルマ、大丈夫? 痛いところない? 具合悪くない?」
 
 瞳を赤くしながら、天馬の顔を覗き込んでくるサヨ。
 彼女の表情に、心配させてしまった申し訳なさを覚えながら、天馬は弱々しく笑みを浮かべた。

「大丈夫、ですよ。あの、わたしはどうしてここに……?」
「あのね、おとといなんだけど……村の方から、でっかい光の柱が上がってね。それでしばらくしたら、村から慌てた感じでシャーロットが走ってきて、テルマとアリーチェが倒れてるって聞かされて……皆で駆けつけたんだよ」
「っ?! そうです! シャーロットさんとアリーチェさんは?! 無事ですか?!」
「あ、テルマっ、まだ起きちゃダメだよ!」

 二人のことを思い出し、天馬は慌てて体を起こそうとするが、サヨにそっと止められてしまい、再び横にさせられた。

「あの二人でしたら、怪我も何もしていませんから、大丈夫ですよ。アリーチェさんは、今は水を沸かして、お湯を作りに行っています。テルマさんの体を拭いてあげるそうです。それと、シャーロットさんは、そちらに……」
「え? あ……」

 ヨルが示した方に首を巡らせると、何で今まで気付かなかったのかと思うほど近くに、シャーロットの姿があった。
 彼女は、天馬の寝ている布団に頭を乗せて、小さな寝息を立てていた。 

「ずっと、夜通しテルマさんのことを看病していましたからね。疲れたのでしょう」

 ヨルは、そっとシャーロットの頭を撫でて、目を細めた。

「ずっと付きっ切りで、テルマさんの傍にいたんですよ? それと、アリーチェさんも……」
「そうですか。それじゃ二人には、きちんとお礼を言わないといけませんね」
「ええ」

 と、シャーロットに優しい微笑を向けていたヨルに、サヨがおもむろに声を掛ける。

「お姉ちゃん、ここはアタシが見てるから。お姉ちゃんも、あまり眠れてないんだし、休んできていいよ」
「でも……」
「お腹の赤ちゃんに何かあったら、今度はそっちで心配しちゃうから! だからお願い。休んで」
「……そうね。テルマさんも気が付いたいことですし、私は少しだけ、休ませてもらうわ」
「ヨルさん、ご迷惑をお掛けして、本当にごめんなさい」
「いいえ。それでは、少し席を外しますね」
「はい」

 そうして、ヨルが部屋から出て行く。
 妊婦である彼女にも無理をさせてしまったことが申し訳なく、あとで何かお詫びをしなくては、と考える天馬。

 すると、彼女と入れ替わるようにして、部屋にアリーチェが入ってきた。

「――っ?! お姉さま!」

 彼女は扉の前で一度立ち尽くし、天馬の意識が回復していることに気が付くと、手からお湯の入った木桶きおけを落とし、勢いよく駆け寄ってくる。

「アリーチェさん、よかった無事……」
「お姉さま! お姉さま! お姉さま!!」

 と、アリーチェは天馬の言葉を遮り、首に抱き付いてきたのだ。

「ちょ、アリーチェさん?!」
「よかった……お姉さま……よかった~~……」
「ア、アリーヂェざん、ぐ、苦しいでず」

 思いのほか、アリーチェの力が強く、天馬の気道が塞がれてしまう。

「ふええええええん!」

 しかも、天馬の首に抱き付いたまま、幼子のように大号泣するアリーチェ。

 すると、天馬の横で眠っていたシャーロットが、静かに身じろぎして……

「……う~ん。うるさいですわねぇ……」
「あ、シャーロット。起きたんだ」
「サヨさん……なんの騒ぎですの。これ……?」
「テルマが目を覚ましたんだよ。それでアリーチェが……」
「テルマさんが?!」

 サヨの言葉に、がばっと跳ね起きたシャーロット。
 すぐさま視線を天馬の方へと移す。

 そこには、アリーチェによって首をぐいぐいと絞められている天馬の姿が……

「きゃあ! アリーチェさん! 絞まってます! テルマさんの首が絞まっておりますわよ?!」

 天馬は若干白目を剥いて、ピクピクと痙攣している。

「ふえええええええん!!」

 しかし、アリーチェは号泣したまま天馬の首を離そうとせず、万力のように首を絞め続けている。

「アリーチェさん! お気持ちは分かりますが! このままでは今度こそテルマさんが昇天してしまいますわ! 離れなさい!」
「ふえええっ! おねえざま! じんじゃったかどおぼっだ~~~っ!!」
「このままではほんとに死にますわ! いいから一度離れなさい!! ていうかサヨさんも! 見てないでこの方を剥がすの手伝ってくださいませ!」
「え、あ、ああ、うん。ごめん……」

 二人のドタバタ劇に目を点にしていたサヨも、シャーロットの言葉で覚醒。
 アリーチェを天馬から引き剥がして落ち着かせるために、シャーロットと一緒に奮闘することに。

「って! え?! アリーチェ、チカラつよっ?!」

 ただ、獣人であり【ルプス族】であるサヨの力にも対抗したアリーチェのバカヂカラに、二人はぐったりする羽目になったのであった。
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