暗殺メイドと宰相閣下

布施鉱平

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暗殺者モニカ

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 ブルちゃん……いや、宰相閣下のお屋敷に来てから、一ヶ月が経った。
 
 どうやらアンドレー様の言う通り、宰相閣下にはなにか後ろ暗いところがあるようだった。
 ……あれ、アンボリュー様だっけ?
 まあいいや。

 とにかく、宰相閣下は怪しい。

 だって、常に挙動不審なのだ。

 私に話しかけてくるときに必ず「ク……モニカ」って言うし。
 
 なんだ「ク……」って。

 クソか?
 クソモニカって言おうとしてるのか?

 そんなこと、孤児院の弟妹ていまいたちにしか言われたことがない。


 あと、私と話している時には、なんだかいつももじもじしているのも怪しい。

 あれだろうか。

 性病?

 ロリコンでショタコンで熟女好きでネトリスキーだって話だし、どんな病気を持っていてもおかしくない。

 しかも私と話しながらそれが疼くって、どんだけ守備範囲が広いんだ、あんたは!

 私はロリでもショタでも人妻でもないぞ! 


 …………


 ……まったく、執事のウォルターさんは、すごくまともだし優しいのになぁ。

 なんであんなのに仕えてるんだろう。

 まあ、ともかく、私はこの国のためにも早く宰相閣下を暗殺しなければならないと決意を新たにした。

 この一ヶ月で宰相閣下のことは十分に観察できたし、そろそろ行動に移るとしよう。




~~~~暗殺計画その一『毒殺』~~~~
 

 暗殺といえば、これが定番。

 私はメイド長に申し出て、宰相閣下の夕食を作る許しを得ると、こっそり魚屋で仕入れていたブツを取り出した。

 て~れれってれ~『マルウオ』~!

 そこらへんの川でいくらでも取れるマルウオは、安くて美味しい庶民の味方だ。
 
 水が綺麗だろうと濁っていようと、水深が深かろうと浅かろうと、全く頓着せずに生息する節操のない魚である。
  
 身は白く、味は蛋白。
 わざわざ食べたい、と思って食べるような魚じゃない。

 だけど、産卵を間近に控えた初春の頃だけは別だ。

 卵を産むために栄養を蓄えたマルウオは、身に脂がのっていてとても美味しい。

 そう、まさに今が食べごろの魚なのだ。 

 でも、注意しなければならないことがひとつある。

 肝が猛毒なのだ。

 食べるとゆっくり全身が痺れていき、寝ている間に呼吸が止まって死んでしまうのだという。

 孤児院の院長がそう言ってたから間違いない。

 私はマルウオの身をソテーにすると、バターと肝を裏ごししたものを合わせてソースを作り、上にかけてやった。

 ふ、ふ、ふ。

 これで、宰相閣下はイチコロだ。

 さあ、食うがいい!




 …………




 …………




 それから十日。

 宰相閣下はとても元気だ。

 最初に食べさせたときは、『なんという……なんというものを食べさせてくれたのや!』とかなんとか言ってたから、バレたのかと思ってヒヤヒヤしてたんだけど、泣きながら全部食べきった。

 そして、どういうわけか私の作る『マルウオのソテー~肝ソースを掛け~』がとても気に入ったらしく、三日に一度はあれを作ってくれと言われるようになった。

 なぜ死なない!? 
 
 おかしいな、孤児院の院長は「これは猛毒なのじゃ! 食ったら死ぬぞ!」って言って、肝は全部回収してたのに……


 ※マルウオの肝は、とてもお酒に合うおつまみです。






~~~~暗殺計画その二『突き落とし』~~~~

 
 毒殺は何故か失敗した。

 たぶん、宰相閣下の体内には、マルウオの毒を中和する特殊な寄生虫とかが潜んでいるに違いない。

 ……うぅ、想像したら気持ち悪くなってきた。

 だけど、ここで諦める訳にはいかない。
 
 私を街角に立つ運命から救ってくれたアングロサクソン様への恩を返すためにも、あのハゲちゃびんをなんとしても始末しなければいけないのだ。

 だから今度はもっと直接的な手段に出ることにした。

 そう、それは…………『事故死に見せかけた突き落とし』!

 やっぱこれだよね。

 私は宰相閣下に『今夜、バルコニーで…………』と意味深なセリフを伝え、夜を待った。

 時間になったのでバルコニーを覗いてみると、予想通り宰相閣下が待っている。

 なんかまたそわそわしてるなぁ…………

 へっ、エロ親父め! エロいこと考えてるんだろ!?

 残念! 罠でした!

 というわけで…………突撃~~~~!!!

 私はバルコニーの手すりに体を預けた宰相閣下に向かって、全力で体当たりをした。

 しかし…………


 ふにょん

 
 ふぁっ!?

 なに、この柔らか触感!?

 水枕…………いや、そんな生易しいものじゃない。
 
 暖かくて…………柔らかくて…………なんだか、幸せな感触…………


 私は当初の目的なんてすっかり忘れて、その素敵な感触を揉みしだくことに夢中になってしまった。


 そう…………宰相閣下の、お腹のお肉を………… 
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