暗殺メイドと宰相閣下

布施鉱平

文字の大きさ
7 / 8

狙われたモニカ

しおりを挟む
 それから、なんやかんやあった。

 それはもう、なんやかんやあった。

 なんやかんやあって…………気づけば半年が経過していた。

 いやー、人ってなかなか殺せないもんだね。

 ピッキングで夜部屋に忍び込んではみたものの、あまりにも気持ちよさそうに寝てるもんだから一緒に寝ちゃったし。
 人体の急所を指でぎゅ~っと押して見ても効いた気配がないし。
 
 皮下脂肪厚すぎるんだよな~、ブルちゃん。

 あっ、そうそう、何度も何度も間違ってブルちゃんって読んでたら、もうブルちゃんでいいって言われた。

 なかなか心の広いところがあるよね、ブルちゃん。

 っていうかそもそも、私が観察する限り、ブルちゃんはそれほど悪いことしてないように思えるんだよね。

 もしかして、ア……アラゴルン? 様の勘違いなんじゃないかと思う今日この頃。

 だから、暗殺とかももういいんじゃないかと思う今日この頃。

 だって、しばらく一緒にいる間になんだか情が移っちゃったし。

 このままのらりくらりとブルちゃんのところで暮らすのもいいかもしんない。

 なんて思ってた私ですが…………


 今、とてもピンチです。



 
 ◇




 マルウオの買い出しに行った帰り道、急に手を引かれて脇道に連れ込まれたかと思うと、ナイフを突きつけられた。

「おい、宰相の暗殺はどうなってる」

 …………! なぜそれを知っている! 黒コート! きさま誰だ!(怖くて言えないので心の声)

 なんだかどこかで見たことがあるような気がするんだけど、よく思い出せない。

 けど、思い出せないとか今はどうでもいい。
 
 ピンチなのだ。

 ピンチなのだが…………

 舐めるなよ、黒コート!

 私は頭を下げながら踏み込んでナイフを躱し、素早く黒コートの後ろに回り込んだ。

「なにっ!」

 そして、中腰のまま黒コートの胴体にしがみつく!

「はっ?」

 そのまま引っこ抜くように、後ろに叩きつける!

「おおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 ドコォ! という低い音が響き、黒コートの頭が地面に叩きつけられた。
  
 ふふん。
  
 立ち上がった私は得意げに笑う。 

 孤児院育ちをなめちゃいけない。
 おもちゃも何もない孤児は、体一つで遊ぶしかないのだ。
 私も男どもに混じって、ひたすら格闘技に勤しんだ時期がある。

 これはその時に身につけた、四十八の殺人技の一つ。

 モニカ・スープレックスだ!

 ドヤァ!

「…………舐めた真似をしてくれる。貴様……裏切ったな?」

 オヤァ?




 ◇




 私再びピンチ!

 私のモニカ・スープレックスを喰らいながらもすぐに起き上がった黒コートは、その目に怒りを宿して私にナイフを向けてきた。

 やばいなぁ。

 もともと身体能力の低い私は、最初の奇襲を凌がれたらなす術がないのだ。

「裏切りの代償は…………死だ!」

 殺意に満ちた黒コートが、ナイフを向けたまま私に駆け寄ってくる。

 もうだめだっ!
 
 と思ったその時。

「うぉおおおおおおおっ!」

 ズバン!

 どさり


 …………


 どこからともなく急に現れたブルちゃんが、黒コートを真っ二つにした。












 ……………………











 
 つ…………












 辻斬りだーーーー!

 とうとう本性を現したかブルちゃん!
 
 現れるなり見ず知らずの黒コートをバッサリ切り捨てるなんて、殺り慣れてなければ出来るわけない。

 黒コートを辻斬ったブルちゃんは、血のついた剣を投げ捨てると、私を抱きしめてとぶるぶる震えだした。




 こいつ…………




 さては、血に酔って女を抱きたくなったな?
 
 ヤバイ、犯られる。

 ブルちゃんの凶行のおかげで命は助かったけど、今度は貞操の危機だ。 
 
 凶行の現場も確認できたし、ブルちゃんは欲望丸出しで隙だらけ。

 私の懐にはナイフがある。

 今なら、今ならあっさりブルちゃんを暗殺することができるだろう。

 でも…………






 でももう、情が移っちゃったしなぁ…………





 …………



 

 …………ええい!

 こうなったら、最終手段に出るしかない!

 私は覚悟を決め、ブルちゃんの柔らかい体を抱きしめ返した。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。 どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。 鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます! ※他サイトにも掲載しています

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

処理中です...