暗殺メイドと宰相閣下

布施鉱平

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モニカ・ベラム・ダグラス

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 ブルちゃんの本性を垣間見てしまった私は覚悟を決めた。

 ブルちゃんの凶行が事実だった以上、放っておく訳にはいかない。

 放っておけば、更なる犠牲者が出てしまう。

 だから…………










 だから私は…………










「抱いてください!」

 覚悟を決めて、そう言った。




 ◇




 五年後────



「奥様、紅茶でございます」

「ありがとう、ウォルター」

「本日の紅茶はディマイト産でございます」

「まあ、美味しそう」

 麗らかな午後の日差しをレース越しに浴びながら、私はなんたら産の紅茶に口をつける。

 うん。

 美味い。

 ウォルターの入れる紅茶は最高だね!
 貧乏舌の私には、どこ産だろうと違いなんて何もわからないけど!
 
 なんて内心はもちろん声に出さず、にっこりとウォルターに笑いかけた。

 ウォルターも笑顔を返し、一礼して下がっていく。

 その後ろ姿を見送りながら、私は小さくため息を吐いた。

 ガラじゃないんだよな~、貴族の奥さんなんて。
 でも、なってしまったものはしょうがない。

 五年前のブルちゃん凶行事件のあと、私は強引に肉体関係を迫り、ブルちゃんと結婚したのだ。

 ブルちゃんに惚れたから────では、もちろんない。

 あの日、ブルちゃんの本性を垣間見てしまった私は、「これは放って置けない」と思った。
  
 だけど、すでに情は移ってしまっていたので殺すことはできない。

 なら、体を張って更正させるしかないではないか。

 半年の間ブルちゃんとともに過ごした私は、ブルちゃんが根っからの悪人ではないと見抜いていたのだ。

 だからこそ私は、生涯かけてブルちゃんの性根を叩き直すことを決意した。

 そしてそれは、間違いではなかったと思っている。
 
 
 私は大きくなったお腹を撫でながら、窓の外を眺めた。

 外からは、今年で三歳になる息子の元気な笑い声が聞こえてくる。

 ブルちゃんに似てまるっとした顔の息子の将来は心配だが、まあ、なんとかなるだろう。

 だって、もともとは孤児だった私ですら、こんなにも幸せな時間を手に入れられることができたのだから。

 

 …………



 あっ、そうそう。
 最近バルバルだかボルボルだかっていう候爵がブルちゃんの手によって改易させられたそうだ。

 なんでも、賄賂を受け取ったり、汚職をしたり、権力を振りかざして他人の奥さんに手を出したり、自領の孤児を暗殺者として使い捨てようとしたり、とにかく色々やってたらしい。

 悪い奴もいたもんだよね。

 ん? 

 どっかで聞いたことがあるような…………



 …………



 まあ、いいか。 


 さっ、今日はマルウオの日だから、そろそろ準備をしなくちゃ。


 肝が美味いんだよね、肝が。

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