甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー

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二章 かけがえのない時間

15 桃の黒歴史爆誕

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ある日の夜、屋敷は静まり返り、窓の外には月明かりが優しく差していた。
居間の小さなランプが、温かい光で部屋の隅々を照らしている。

ロウは小さなグラスを手に、ひとり果実酒を楽しんでいた。透明感のある琥珀色の液体が、グラスの中でゆらゆら揺れる。香りは甘く、ほんのりフルーツの匂いが漂う。

「やっぱりこれ、美味しいな…」
ロウは小さく息を吐き、グラスを傾けた。

そこに突然、「ロウいた!探してたんだー!あのね、なんか魔力を感じるところまではできたんだけど…」桃の可愛らしい声が響いた。とてとてとこちらに向かってくるのがとても可愛い。可愛いすぎる。最高…


近くまで来た桃は、目を輝かせて近づく。
「わぁ…それ、何飲んでるの?めっちゃ美味しそう!ちょっとちょうだい」
桃はテーブルからグラスを取り、くいっと煽った。

桃の可愛さに腑抜けていたロウはそれに気づいていなかった…

「なにこれ!美味しい!ロウこれもっとちょうだい!」
「ん?あぁ、それならそこに……!!??て!!ねぇ!桃!何飲んで、あ…やばい」
ロウの返事を聞くや否かすでに桃は瓶ごと果実酒を煽るという暴挙に出ていた。

精霊たちもざわめいた。
「桃…それ、お酒だよ…?」
「えっ、んん?ジューシュ…じゃらい?」
桃は目を丸くして可愛らしく首をかしげる。しかし、呂律が回っていない
「……まあ、ちょっとだけ…だめっ?♡」

「っっ~~!!??呂律回ってないじゃん!そんなに可愛く言ってもダメだからね!あっちょ、ダメだってー!」

警告も耳に入らず、桃はジュース感覚でゴクゴクと飲んでしまう。ロウはそれを必死に取り上げる。

桃はロウに瓶を取り上げられると、
ぷくーっと頬っぺたを膨らませた。
「ロウのいじわりゅ~」
「桃ちゃん…酔っ払ってるじゃん、、うわー、どうしようこれ、ベンに怒られちゃうよぉ…しかも酔っ払ったせいか、甘い匂いが強くなってる…うっ、やばいなこれ」
「んん…?よぱりゃうてうてう?んー、確かにあたまフワフワすりゅ…♡」
桃の頬が少し赤く染まり、とろーんとした目つきになる。ロウはそれをみてごくりと唾を飲んだ。
「も、ももちゃん?」
その瞬間、桃はロウに抱きつき、肩に頭をのせてすり寄った。
「なぁーに?ロウ…ふわふわしてたのちーね…♡」
ロウはびっくりして
「え、あ、ああ…」と顔を赤くする。
「ふふっ…いちゅもよゆーですかしてりゅロウが、なんかおろおろしてう!!かわいーね♡もも~、ろーのお耳も触ってみたかったんだぁ…」
「へ?は!!え、!!??」
「ろう…しゅき♡」
「っっ~~~~!!??ちょ、ベン!!!フィン…はまた厄介なことになりそうだから…サイ!!もう、誰でも良いから助けて~!僕じゃこの小悪魔手に負えないよ~!」
その間も桃はコロコロ笑ってロウに擦り寄る。


そこに足音がして誰かが入ってくる。
良かった!誰か来た!!安堵から凄い勢いで振り返るロウ…

部屋に入ってきたのは………




フィンだった。ロウはずーんと絶望顔になる。
「なんだ…フィンか……はぁ、」
「は?なんだ?人の顔見てため息つくとか失礼じゃね?……てか、なんだよこの甘ったるい匂いは、それと!その羨まけしからん状況はなんだ!」
「…僕が耐えるのにどれだけ必死か…もう、誰でも良いから助けて…ここまで、このかわい子ちゃんを襲わなかった俺を褒めてくれ…」
「で?何があったんだよ?」
「桃が俺の果実酒を爆飲みして、絶賛酔っ払い中です。」
「あー…それでか…どんまい」
「他人事だと思ってー!!」


状況報告をしている間も桃はロウにすりすりしたり、耳を撫で撫でしたり…そして、何故か、首筋に吸い付いたりしている。
それでも仲間はずれに耐えかねたのか(?)ほっぺを赤くして目をうるうるさせて
「ろーう?もものこと、仲間はずれにしにゃいで?ももいがいみちゃやーよ?…こっちみて?」
「ごめんね桃ちゃん…なに…って!!!んんんっちょっ、はぁ、ちょ、んんんっ!」
フィンと状況報告を中断して振り返ったロウに桃は思い切りキスをした。
「まっ、んんっ、はぁはぁ、それはっ、んんんっ、ダメだって…んんっれろ、ああっ、がまんんんんっ、できなく、んんなちゃうからぁっんんっ」
ロウはなけなしの理性を総動員し、サイレンを鳴らして、緊急支援要請を頭の中で出した。

フィンもこの様子を見て流石にやばいと思ったのか(主に狂犬の理性が)…幸い桃にまだ気づかれていないようだったので音を立てないように忍び足で、部屋を後にして…いる時だった…

ぴこーーんともふもふセンサーを発揮した桃にあっさり見つかってしまった。
「あ~フィンきゅん♡みっけ!」

フィンは、桃に幾度となく、襲われてきた時のことを思い出し、身震いした。
桃は「フィンも一緒に…♡」とロウの膝から飛び降り、フィンに無邪気に飛びついた。

しかし、この世界だとかなり身長が小さい桃が思い切り抱きついたせいで、フィンの腰のあたりに顔が来ていた。

フィンは赤面しつつ、「ば、ばか!ちょ、ちょ!ほんとに、…!その位置は…ほんとにまずいって!」と頑張って桃を剥がす。
桃はくすぐったいように笑いながら、関係ないとばかりに無邪気擦り寄る。

ロウもフィンを不憫に思ったのか、桃を剥がした。
「桃ちゃん、あんまりフィンをいじめちゃダメだよ?」
「んー、かわいかったにょに…むぅっ」
「フィンに嫌われても良いの??」
「!!やら!絶対やらっ。フィンごめんなしゃい…嫌いにならにゃいで…にゃんでもしゅるかりゃあ…ゆるしてぇ?」

「「………」」

真っ赤な顔でとろんとした目をうるうるさせて、こんな事を言われたら…フィンの理性は羽のようにぶっ飛んでしまった…ロウも流れ弾をくらい、かなりまずい状態になってしまっていた。

「…俺もう我慢する必要なくないか?」
「そうだね…うん…いいよね?だって桃も望んでるんだもんね?なんでもするんでしょ?え?これ我慢する必要ある??」

2人が桃に手を出そうとしたその時だった!

「フィン!ロウ!正気に戻れ!相手はただの……いや、無自覚大悪魔の酔っ払いだぞ!!」

「「はっ!!!!記憶が飛んでいた!!」」

「あ~しゃいだ!しゃいもこっちきてぇ?♡ねぇ~、もも、しゃいのお耳触ってみたいの~♡」

「フィン、ロウ、ここは一旦私が預かる…ベンを呼んでこい!あいつは、今日という今日に限って、森の奥で修行中だ…俺は持って5分…いけ!!」
「サイロス!漢の中の漢!!お前の勇姿は忘れない…健闘を祈る…」
「お前が命がけで稼いでくれる時間…無駄にはしねぇぜ!だから頑張って耐えてくれ!good luck……」

ロウとフィンはベンを呼びに森へ急いだ。

「ん~?しゃい…?ロウとふぃんはどこいっちゃたの?もちかちて…!ふぇっ、ううっ…もものことしゅてた??ふぇえん…」
「違うよ、ロウとフィンは桃を守る為に、助けを呼びにいったんだ。」
「え~?ひっく、もも…ここでげんきにしてりゅのに??うっ…にゃんで?」
「それは、僕が狼になってしまうからだよ…」
「???しゃいは立派なお耳を持ってりゅ、のに、ほんとは、おおかみしゃんなにょ?」
「男はみーんな、狼だからね?桃、気をつけるんだよ?わかった?」
「??はーーい、ももわかったよー」
「うん…絶対わかってないね…桃?お水飲む?」
「のむ~」
「はい、どうぞ」
サイロスは桃に水の入ったコップを渡した。けれど…水は桃のくちからだばだばと溢れてしまう、

「う~ん、うまくのめにゃい~、ももダメな子…」
「しょうがないなぁ…桃はダメな子じゃないよ?可愛くて可愛くて、周りをおかしくしちゃう、とんでもない子だよ?お水は私が飲ませてあげるね?ほら、あーんして?」

「あー…んにゅっ!!?…ごくごく」

サイロスは桃に口移しで水を飲ませた。
「ふふっ…ちゃんと飲めて偉いね?いい子いい子。もっと飲む?」

顔を真っ赤にした桃はこくりと頷いた。

「も~可愛いなぁ桃…ほら、あーん」

「あー…ごく、ごく、ごく、」

「美味しい?」

「んっ……もっと…しゃい、おみじゅなくていいからもっとちゅーてして?♡」

「っ~~~!!??調子に乗ったら、倍返しを喰らった…ベン、早く来てくれ…」

「だめ~?♡おねがい~しゃいしゅきなのぉ…ねぇ、おねが~い、ちゅーして?ねーえ」

「だめだよ?桃…ちゅーしたら止まれなくなっちゃうから」

「止まれないの??」

「そう、止まれない…私達の君への愛は君が思ってるよりも深いんだ。だから溺れて戻って来れなくなっちゃうよ?それでもいいの?」

「??もも、みんなになら何されてもいいよ?」

「っっ~~~あーーー!ほんっとにもう!桃?それ絶対他の奴らの前で言っちゃだめだからね?本当に襲われちゃうよ?」

「ももはだいしゅきな人にしか言わないよ?」

「ほんっっとにもう!!!あーー、もう、我慢してる私が馬鹿みたいじゃないか!!…え?もう、よくない?こんだけ可愛い子前にして、手を出さない方が失礼だよね??え…」

「しゃい…だーいしゅき♡」

「桃…」
サイロスが大悪党に陥落しかけたその時だった。

「もも!!!無事か!!!???」

救世主、ベンが現れた。
桃をサイロスの上から颯爽と取り上げ、自分の膝に乗せる…その過保護っぷりをみて、3人は苦笑いした。思えばこの人は出会った時から今までチャンスはいくらでもあったというのに、一度も自分から桃に手を出すような事をしていないのだ。言葉で愛を伝え、桃が求めてきた時にはとことん甘やかす。その誠実さが桃にとって不動の一位である事を皆んなが感じていた…流石、白虎の剣士…氷のような心を持ち、独自の過酷な鍛錬の末、強靭な精神力を持つという伝説の…

「ベン…だーいしゅき♡ずーっと一緒にいて?ももだけみてなきゃやだよ?」
「…よし、寝室へ行こう。」

「「「おいっ、手出す気満々じゃねぇかよ!強靭な精神力どこ行った??????」」」

「こんな愛い奴を前にして手を出さないなんて男じゃないだろう……それに…発言には責任を持つべきだ…」
「それ、俺の時も言ってたよな…あの時は納得したけど…卑怯なだけじゃねぇか!」
「ベン……思えば君は、寡黙ゆえに堅物と思われてきたが、欲望に忠実な男だったね。女に関しては、運命の相手に出会っていなかっただけだったんだね…」
「これだから、初恋を拗らせたケモノは…」
「五月蝿い!」

「みんな喧嘩してゆの?…仲良くしなきゃめっ!だよ?♡」
「「「「は~い♡」」」」

酔っ払いの桃に諭され、鼻の下を伸ばしながら従う、情けない男たちであった。

「もも、この世界に来れて良かったぁ…おとうしゃんと、おかあしゃんが、しんじゃってから…おうちにもがっこうにも居場所がなくて…いつもひとりだったんだ…誰かに撫でてもらうことも、抱きしめてもらうことも…なかったの…だから…いま…こうやって…みんなに囲まれて…ほんとに幸せ…♡でもね…こっちにくるときが突然だったから、また、いつ戻されるかわからなくて不安なの…皆んなとずっといっしょにいたい…にょに……」すーーーーZ z Z
そう言い残して、桃は夢の世界へ旅立った。
そんな桃の寝顔を愛おしむように見つめながら、
「桃…そんなふうに思っていたのか」
「馬鹿だなぁ、桃は…俺達が異世界だろうがどこだろうが簡単に逃すわけないのにさ」
「桃ちゃんが元の世界の事を話してくれたのははじめてだね…」
「愛されてますね…私達」

4人はそのまま添い寝し、柔らかな夜の時間が屋敷を包む。





翌朝桃は薄い光に目を覚ます。
布団の中で目を開けると、隣にロウ、ベン、フィン、サイがぎゅうぎゅうに添い寝しているのを発見。

「ーーーーーーーー!!!????!?」
桃は思わず声にならない叫びをあげる。
「え?ちょ、ちょっと…なんで…?!」まだ夢のような状況に、頭が真っ白になる。

実は昨日桃にやられっぱなしでムカついていた男達はしてやったりと、狸寝入りしながらニヤッと口角を上げた。

精霊たちは天井からクスクス笑って見守る。
屋敷には朝の柔らかい光が差し込み、昨夜のハプニングの余韻と、甘くほっこりした空気が包み込んでいた。


桃はもう、お酒は飲まない。と強く誓ったのだった





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いちゃいちゃ回をお送りしました!次回で日常編は閉じます!よろしくお願いします!
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