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親睦の化粧編
そんなに不安にならないで
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「次はファンデーションです。擦らずに、あくまで乗せるイメージで。ただ、先ほどリサさんが説明した通り、ボクたちはあまり必要ありません。若いですからね。あまりキレイすぎても不自然です。ほら、触ってみてください」
ミミに手を掴まれ、その頬に押し付けられる。
「着ける量は触っても粉っぽく感じない程度に。この後もメイクをしていきますが、薄化粧が基本です」
「わ、わかったから、早くメイクしてくれよ」
「それは失礼しました。では……」
ぽんぽん、と柔らかいスポンジが顔に押し付けられる。優しい手つきで、少しずつ、顔の全体に粉が載せられていく。
「それじゃあ最後にフィニッシュパウダーを顔全体に軽く振って……はい、これでベースは完成です。次は……アイメイクにしましょうか」
ついにアイメイクが来た。今回のメイクで一番期待しているだけに自然と体に力が入った。
「眉毛はリサさんが整えたままでいいですね。あの格好には……細い黒眉がぴったりです」
「な、なにが言いたいんだよ」
「ネコにはセクシーが似合うってことです。それとも、えっちだって言われた方が嬉しいですか?」
「そんなの嬉しいやついねーだろ……」
「くす、そうですね。アイシャドウは、どうしましょうか。何か希望はありますか?」
「……」
「どうしました? 希望がないのであれば、そうですね。やっぱり暗い色を基調としてセクシーさを――」
「か、可愛い方がいい……」
「……すみません、ボクとしたことが失念していました。そうでしたね。ネコの方向性はエロ可愛いでした。だったら、目元は可愛くすべきです」
口調と声色は申し訳なさそうにしているが、ミミの目元はニヤニヤと笑っていた。
「くそっ、笑うなよ! チクショー、似合わなくたっていいだろ、そっちの方が好きなんだから……」
「勘違いしないでください。ボクはネコを嘲笑しているわけじゃありません。ネコに可愛いが似合わないとも思っていません。ただ、照れているネコが愛らしかったから頬が緩んでしまったんです」
「フォローになってねえよ、くそっ」
「機嫌を直してください。ほら、鏡を見てください。まずはアイホール全体に明るい色を乗せていきますよ。そうですね、この薄いピンクが入った白にしましょうか。さ、目を閉じてください」
目を閉じると、瞼にミミの指が当てられた。確かめるように、撫でるように、丁寧に指先が滑っていく。
「次は少しだけ濃いオレンジ色を、目の際に。こうすると、目が大きく見えて可愛さがアップするんですよ」
「な、なるほど……」
「さて、アイシャドウはこれでオーケーですね。それじゃあ、まつ毛を上げていきますね」
「あ、あのカシャカシャを使うんだよな?」
存在としては知っていたが、実際に使うのは初めてだ。
「ビューラーですね。これでネコのまつ毛を上向きにしていきます。さ、もう一度目を閉じて」
くいくいと、まつ毛が挟まれる。ぎゅっぎゅっとミミがビューラーに力を籠めると、その度にまつ毛が巻き込まれるように引っ張られる。
「いたっ」
「! ご、ごめん、大丈夫?」
「あ、ああ」
「ごめん……つい力を入れすぎた……」
「別にいいって。自分にするのと人にするのじゃ勝手も違うだろうし、そんな気にするなって」
「本当にごめん……」
余程ショックだったのか、ミミは肩を落としてシュンとしている。その姿は本当に少女が落ち込んでいるようで、不覚にも翔斗は魅入ってしまった。
「あ……ネコ?」
気付くと、翔斗はミミの頭に手を置いていた。ミミの格好と体の小ささが相まって、年上の頭を撫でていることに違和感はなかった。
「だから、大丈夫だって。そんな一回失敗したくらいで不安になるなよ。それはそれで、信用されてないみたいで嫌だからさ……」
「ネコ……」
「ミミは、オレにとっても初めて同じ趣味を持った仲間だし……それに友達だろ」
「……」
「……」
しばしの沈黙。ミミはの表情は、俯いていてよくわからない。
「……あの、そんなに触られるとウィッグがズレてしまうのですけど?」
「あ、悪い!」
「くす……冗談です。ピンで止めていますから、そう簡単にはズレませんよ。ビューラー、続けますね」
「ん、あ、ああ」
ビューラーに視界を阻まれる直前、視界に映ったミミの顔ははにかんでいるようだった。つられて翔斗は自分の言葉を思い出して、少しだけ恥ずかしくなった。
「……」
「……」
かしゃかしゃと、ビューラーの動く音だけが聞こえる。右まつ毛が終わったら左まつ毛。先ほどよりもゆっくりと慎重に、それでいてしっかりと翔斗のまつ毛にクセが付加されていく。
「うん……これくらいですね。次は、マスカラです」
「おう……」
「……」
「……」
「あの」「なあ」
「……」「……」
「……マスカラの色、黒にしますね」
「ん」
「……」
「……」
「ねえ」「あのさ」
「……」「……」
「……くす」「っはは」
少しだけ、ふたりで笑った。笑われるとマスカラがしにくいとミミが文句を言って、手が震えてるからだろと翔斗が返して。その後、また沈黙が戻った。でも、どこか爽やかな空気が流れていた気がする。
ミミに手を掴まれ、その頬に押し付けられる。
「着ける量は触っても粉っぽく感じない程度に。この後もメイクをしていきますが、薄化粧が基本です」
「わ、わかったから、早くメイクしてくれよ」
「それは失礼しました。では……」
ぽんぽん、と柔らかいスポンジが顔に押し付けられる。優しい手つきで、少しずつ、顔の全体に粉が載せられていく。
「それじゃあ最後にフィニッシュパウダーを顔全体に軽く振って……はい、これでベースは完成です。次は……アイメイクにしましょうか」
ついにアイメイクが来た。今回のメイクで一番期待しているだけに自然と体に力が入った。
「眉毛はリサさんが整えたままでいいですね。あの格好には……細い黒眉がぴったりです」
「な、なにが言いたいんだよ」
「ネコにはセクシーが似合うってことです。それとも、えっちだって言われた方が嬉しいですか?」
「そんなの嬉しいやついねーだろ……」
「くす、そうですね。アイシャドウは、どうしましょうか。何か希望はありますか?」
「……」
「どうしました? 希望がないのであれば、そうですね。やっぱり暗い色を基調としてセクシーさを――」
「か、可愛い方がいい……」
「……すみません、ボクとしたことが失念していました。そうでしたね。ネコの方向性はエロ可愛いでした。だったら、目元は可愛くすべきです」
口調と声色は申し訳なさそうにしているが、ミミの目元はニヤニヤと笑っていた。
「くそっ、笑うなよ! チクショー、似合わなくたっていいだろ、そっちの方が好きなんだから……」
「勘違いしないでください。ボクはネコを嘲笑しているわけじゃありません。ネコに可愛いが似合わないとも思っていません。ただ、照れているネコが愛らしかったから頬が緩んでしまったんです」
「フォローになってねえよ、くそっ」
「機嫌を直してください。ほら、鏡を見てください。まずはアイホール全体に明るい色を乗せていきますよ。そうですね、この薄いピンクが入った白にしましょうか。さ、目を閉じてください」
目を閉じると、瞼にミミの指が当てられた。確かめるように、撫でるように、丁寧に指先が滑っていく。
「次は少しだけ濃いオレンジ色を、目の際に。こうすると、目が大きく見えて可愛さがアップするんですよ」
「な、なるほど……」
「さて、アイシャドウはこれでオーケーですね。それじゃあ、まつ毛を上げていきますね」
「あ、あのカシャカシャを使うんだよな?」
存在としては知っていたが、実際に使うのは初めてだ。
「ビューラーですね。これでネコのまつ毛を上向きにしていきます。さ、もう一度目を閉じて」
くいくいと、まつ毛が挟まれる。ぎゅっぎゅっとミミがビューラーに力を籠めると、その度にまつ毛が巻き込まれるように引っ張られる。
「いたっ」
「! ご、ごめん、大丈夫?」
「あ、ああ」
「ごめん……つい力を入れすぎた……」
「別にいいって。自分にするのと人にするのじゃ勝手も違うだろうし、そんな気にするなって」
「本当にごめん……」
余程ショックだったのか、ミミは肩を落としてシュンとしている。その姿は本当に少女が落ち込んでいるようで、不覚にも翔斗は魅入ってしまった。
「あ……ネコ?」
気付くと、翔斗はミミの頭に手を置いていた。ミミの格好と体の小ささが相まって、年上の頭を撫でていることに違和感はなかった。
「だから、大丈夫だって。そんな一回失敗したくらいで不安になるなよ。それはそれで、信用されてないみたいで嫌だからさ……」
「ネコ……」
「ミミは、オレにとっても初めて同じ趣味を持った仲間だし……それに友達だろ」
「……」
「……」
しばしの沈黙。ミミはの表情は、俯いていてよくわからない。
「……あの、そんなに触られるとウィッグがズレてしまうのですけど?」
「あ、悪い!」
「くす……冗談です。ピンで止めていますから、そう簡単にはズレませんよ。ビューラー、続けますね」
「ん、あ、ああ」
ビューラーに視界を阻まれる直前、視界に映ったミミの顔ははにかんでいるようだった。つられて翔斗は自分の言葉を思い出して、少しだけ恥ずかしくなった。
「……」
「……」
かしゃかしゃと、ビューラーの動く音だけが聞こえる。右まつ毛が終わったら左まつ毛。先ほどよりもゆっくりと慎重に、それでいてしっかりと翔斗のまつ毛にクセが付加されていく。
「うん……これくらいですね。次は、マスカラです」
「おう……」
「……」
「……」
「あの」「なあ」
「……」「……」
「……マスカラの色、黒にしますね」
「ん」
「……」
「……」
「ねえ」「あのさ」
「……」「……」
「……くす」「っはは」
少しだけ、ふたりで笑った。笑われるとマスカラがしにくいとミミが文句を言って、手が震えてるからだろと翔斗が返して。その後、また沈黙が戻った。でも、どこか爽やかな空気が流れていた気がする。
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