騎士団隊長が生き返ったら、険悪だった部下に愛される?

イケのタコ

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五話

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そっと玄関を開ければ、確かにロードリックが玄関前に居座っていた。
ロードリックも今日は騎士ではなく、丈の長いブラウスに紺色のズボン、普段着を装っていた。

「ジェイド殿下も、こんな時に寄らなくても……」
「なんだ、ご不満そうだな」

空を眺め、ため息を深く吐いていたロードリックだったが、イナミによって体ごと飛び跳ねる事となった。

「そんなに驚く?」
「貴様は、そんなに切られたいのか」
「ごめんて」

腰に隠していた剣を取り出しては、突き刺してくるロードリックを無視してトレーを剣の上に重ねて差し出した。

「はいこれ、お茶と菓子」
「いらない」
「おい、これはジェイド殿下からだ。まさか、帝都の騎士であろう者が、殿下の贈り物を食べないとかないよな、だよな」
「っ……食べるからそこ置け」

そう脅せば大人しく剣を腰に戻し、再び石畳の地面に腰を下ろすロードリック。できるだけ一人分の席が空く距離を保ちつつ、ロードリックの横にトレーを置いて自身も座る。

「毒が入っているんじゃないだろうな」

疑いの目を向けられ、入っていないと説明するのも面倒なのでトレーから徐に二つのコップを取っては、どちらとも少しだけ飲んでから一つを差し出した。

「ほらよ、飲めよ」

「くそっ」ロードリックは悪態をつきながら、紅茶を一つ奪い去り少しずつ呑んでいく。
すると、紅茶が余程美味しかったのかロードリックの頬が緩む。

へー結構、紅茶が好きだったのか。レオンハルトが入れたものだけど、言ったら発狂するだろうか。

イナミも、落ち着いたロードリックを見届けてから帝都の景色を見ながら紅茶を楽しむ事にした。

「会議では決まったが、俺は認めてないからな」

どこに話すのでもない感じで、門の方を向いて話すロードリック。会話の内容を察するに騎士団の会議にかけられている時に、俺を外に出すか否かで騎士団内でも相当揉めたのだろう。
話に決着がつかないから騎士団長のアルバンは、杖の反応によって処遇を決めようとなったのだろう。

「杖が反応しないからとはいえ、団長ももう少し慎重に物事を運んでほしい。他の手が残っているかもしれないというのに、早計な判断だとしか思えない」
「事情が色々ありますからね。でも俺なら身辺をしっかり調べて数日が経ってから、牢屋に出す方かな」
「貴様が言うなと言いたいが、それは同意見だ」

紅茶を飲むと、ロードリックは自然と菓子の方に手が伸びてきては、細長いクッキーのような包みを開けて口に咥えた。
ここに来てからずっと悶々と不満が積もらせていくロードリック。

「で、今日は何のイベントですか。ここにジェイド殿下が来てからしんみりした空気が流れていますが」

懐かしむような、悲しむような、皆の顔はまるで葬式に来た顔をしている。
すると、ロードリックはクッキーを噛み砕く。二つに割れたクッキーは片方がポロッと地面に落ちた。紫色の瞳がこちらに向かってギロリと光り鋭く睨みつけられた。

「レオンハルトからは何も聞いてないのか」
「聞いてないですけど」
「……そうか、今日は心底胸が悪くなる」

紅茶を一気に飲み干していく。空になったカップをトレーに置きロードリックは再び門の方に目線が逸れていく。

「どうせ、言うも言わないが何かが変わる訳でもないし、ーーー今日は俺たちの隊長が亡くなった日だ」

息つく暇もなく、イナミの指先からコップが抜けていく。コップはお腹の上に倒れては中身をぶちまけた。
淡い赤色に染まっていく服。慌ててコップを起こして、これ以上紅茶が流れるのを阻止する。

「動揺しすぎだな。タオル取ってくるか」
「大丈夫だから……そのまま話をしてください」
「どうでもいい世間話程度だと思って聴けよ」

服が張り付いて気持ち悪いが、生き返ってから一番気になっていた事。なかなか話題に出しづらいとは分かっていたから、この流れを乗らなくては二度と聞けないと確信した。

「もう、死んだのは10年前くらいになるか、新米だった時の隊長だった。上官だろうと部下だろうと忖度ない厳しい人だったけど、良くも悪くもよく目をかけてもらったよ」

その当時、新人の名前を出すならレオンハルトとロードリックと言われぐらいには目立たれては、目がいくのは仕方ないと思う。

「まぁ、うん、それなりに、結構、厳しく指導されたけど」

言葉は錆び、ロードリックはどこか遠い目をしていた。

「それでも、悪い人ではなかった。だから、10年経っても思うのは、あんな死に方をするような人じゃない。まさかーーー」

その後は知っている、自分が持っていた隊員に刺されて命を落とした。

「刺した動機は、その隊長のせいで隊員が死んだと言っていた。理由がどうあれ、今でもソイツの事を俺は恨んでいるよ。あの人の指示は間違えてはいなかったし、その友人とやらは現場から逃げたから死んだ。それを全て隊長の責任にするのは、軽率な勘違いもいいところだ。ああその事を、思い出すだけで腹立たしい」
「……」
「とはいえあの時はこうだったから、こうすれば良かったとか、全てが終わった事を今更追求しても意味はないんだが……そうだな、あの時の彼奴の顔だけはもう二度と見たくない、それだけだ」

ロードリック、俺は間違っていたのかもしれない。
 
ミオンの事もそうだったが、些細な変化、事細かな心情に気づけなかった事が、あの日に全て裏目に出たのでないかと今さらながら思う。もし、もう少し、周りの心情に触れられていたなら、誰かが誰かを恨む事にはならなかったし、誰かを悲しませる結果にならずに済んでいたのかもしれない。
もっと、俺に出来る事があったのではないか。

どれだけ頭を悩ましても、ロードリックの言うように、終わってしまった今さら全てが遅いが。
 
何かを言うのをはばかれるような重たい空気。ふと、地面に目線をやれば、落ちたクッキーのかけらに蟻が集っていた。
 
「だがなっ!」
「うおっ」

しんみりとした空気を吹き飛ばすかのように、勢い良く立ち上がったロードリック。

「そんな話はどうでも良い。世話になった恩師であるにも関わらず、まともに葬式にも行かず、墓参りもしない、なのに自分が得するパーティとかには出席しやがる。クソ野郎が誰よりも一番ムカつく」
「お、おう」
「確かに、三番隊はあの時実質解体だったが、早々に二番隊に入隊決める奴がいるか。薄情すぎて、引く前に先に怒りが込み上げるは! アイツに情ってものがないのか。彼奴が上っ面をどれだけ良くしようと、階級が上になろうが俺はアイツを騎士として絶対認めない」

貯めていた不満を吐き出し終え、ロードリックはすっきりしたように大きく空気を吸い込んだ。改めて地面に座り直し、再び菓子へと手が伸びる。

「茶いるか? 残りだけど」

無言でロードリックは紅茶を受け取り、飲み干した。
ロードリックの力は怒りだな。レオンハルトの事もそうだが、こうであるべきものが上手くいかない歯痒さが、今を動かす原動力となっているのだろう。
この怒りがあるから騎士隊長にまで、なれたのかもしれない。

そして、近しい者が死ぬと結束力が固くなる筈なのに、この10年でレオンハルトとの距離が広くなった理由を理解する。

原因は俺だったか。

「お茶、追加で注いできますね」
「ああ、ありがとう。ついでに服装も変えてもらえ」
「そうします。遅くなりますから、家の中でお茶を飲んでいかれては」
「それは嫌だ」

即答とは……そこはまだ新米の時と変わらないようだ。
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