竜王陛下の愛し子

ミヅハ

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お互いの色

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 数日後の午後。ルカはレイフォードに連れられてクレイルが眠る場所へと花束を手に訪れていた。
 周りが木やたくさんの花に囲まれていて、レイフォード曰く精霊が毎日お祈りをしに来てくれるらしく、ここならクレイルも寂しくないだろうと取り計らってくれたようだ。
 クレイルの名前が掘られた立派な墓石の前に膝をつき、花束を置いて表面をなぞるとふわりと風が吹いて花の香りが舞った。

「兄さん、ここでなら自由に遊べるから…精霊たちと仲良くな。まぁ兄さんは優しいから大丈夫だと思うけど」

 にこにこと精霊(見た目が分からない為光の玉状態)と戯れる兄の姿が容易に想像出来て微笑むルカの隣にレイフォードも片膝をつくと、手にしていた焼き菓子の詰め合わせを花束の横に置く。
 幼い頃から流動食ばかりを食べていた兄に少しでも美味しい物を食べて欲しくて、レイフォードにお願いして用意して貰ったのだ。

「ありがとな、レイ」
「いや、むしろこんな事しか出来なくてすまない」
「え、何言ってるんだ。きっと兄さんも喜んでるよ」
「………」

 いつもと違うレイフォードの様子に眉を顰め墓石を見つめる端正な顔を覗き込んだのだが、目が合うと苦笑され頬に暖かな手が触れる。

「私は恨まれて当然だと思っている」
「な、何で?」
「父や私が処罰を下した同族がルカとクレイルを傷付けた。直接的ではないにしろ、竜族が関わっている時点で王である私には責があるからな」

 アイリスと男たちを捕らえた日、レイフォードは双方から全ての話を聞いていて、その内容は教えて貰えなかったが竜族だという事自体はルカも知っていた。だからと言ってレイフォードや前王が悪いとは思っていないのに、もしかして彼はずっとそう感じていたのだろうか。
 同族と聞いて傷付いたのはレイフォードのはずなのに、どこまでも優しい彼にルカは胸が苦しくなった。

「そんなの…レイのせいじゃない。だってレイは知らなかったじゃん。そもそも罰を受けたのにまた悪さした人が悪いんだから、レイを恨むなんて間違ってるっていうか…何て言えばいいのか分からないけど、兄さんも俺も、本当にレイの事恨んでないし怒ってもないよ」

 頬に添えられていた手を取って握り真っ直ぐに紫の瞳を見つめて若干早口でそう言えば、下がっていた眉尻が僅かに上がって微笑まれる。
 握った手が引かれて倒れそうになったが、抱き留められ膝の上に座らせられた。

「ルカは優しいな。だが、恨まれていてもいいんだ。あの時確かに、クレイルは私にルカを任せてくれた。ルカの傍にいる事を許してくれただけでも私には充分だ」
「レイ…」
「私は私の全てを賭けて君を幸せにする」

 大きな身体にすっぽりと包まれ頬にレイフォードの唇が触れる。背中にめいいっぱい腕を回して顔を上げたら今度は軽くキスされた。
 兄の墓前で何をしているのかという気持ちはあるが、レイフォードとの触れ合いが好きなルカには受け入れるという選択肢しかない。

「それならレイは、俺が幸せにするからな」
「ああ。共に幸せになろう。愛しているよ、ルカ」
「俺も、えっと、あいしてる」

 何となく気恥ずかしくて照れ笑いを浮かべながら同じ言葉を返したら、ふわりと笑ったレイフォードに強く抱き締められ情けない声が出てしまった。すぐに腕の力は緩んだが離れはしなくて、せめて墓の方を向きたいと伝えれば胡座を掻いて座り直したレイフォードの膝の上で反転させられる。

「そういえば、レイ、仕事は?」
「午前中に済ませてある。傍にいるから、ゆっくり話すといい」
「ありがと」

 今日の予定は数日前から決まっていたのだが、もしかして前日の夜が遅かったのも朝が早かったのも一緒にいてくれる為だったのだろうかとルカの心が暖かくなる。
 レイフォードに寄り掛かりはにかんだルカは、墓石の下に眠るクレイルへこの十年何をしていたかを話し始めたのだった。



 それから数日後、部屋が整えられたとソフィアから伝えられたルカはレイフォードと共にワクワクしながら自室の扉を開けて目を輝かせた。
 基本色をホワイトで纏められ、カーテンに縫い付けられているレースが金色だったり、ベッドの天蓋に薄紫色が使われていたりと控えめだが至る所にレイフォードの色が存在していて嬉しくなる。おまけに祖母の御守りまでヘッドボードに飾られていたから驚いた。
 しかも壁には仕掛け絵本の専用棚のような場所が出来ていて開かれた状態で飾られており、本棚にはこれまでルカが勉強で使った本や絵本が収まっており見た事のないものまであって目を瞬く。

「何か、いろいろ増えてる」
「必要な物があるなら、また言ってくれれば追加するから」
「なーい。あ、宝石箱大きくなってる!」

 窓枠の高さも棚の高さもルカに合わせてあり前よりも使いやすく、以前と同じ場所にあった宝石箱は開くとそれぞれで纏められていて見やすくなっていた。
 ちなみにお披露目で使われた紫色のジュエリーは値段が桁違いの為別の箱に厳重に保管されている。
 綺麗に並んだジュエリーを見ていると肩越しにレイフォードの手が伸びて一つ取り、留め具を外してルカの首へと着けてきた。

「…やはり似合うな」
「そう、かな」
「ああ。ルカは肌が白くて綺麗だから、鮮やかな色が良く映える」
「……」

 そう言って首筋に口付けられ、ルカは首元で揺れるペンダントトップに触れたあとくるりと反転しレイフォードに抱き着く。

「…やっぱりレイは、着けて欲しいからプレゼントしてくれるんだよな?」
「それもあるが…基本的には私の自己満足だ。ただルカに似合いそうだと思って贈っているだけだから、ルカは気にしなくていい」

 気が付いたら増えている貴金属類にルカは最初こそ困惑していた。
 生活上あってもなくても困らない物はルカにとって必要のない物で、特にこういった物とは縁もゆかりもなかったから正直持て余していたのだ。
 だが、贈り主であるレイフォードがそれに対して何も言わない事は気になっていて、いつか聞いてみようと思っていたから尋ねたのに返って来た言葉はルカを気遣うものだった。

(こういうとこホントずるいし、大人だよなぁ)

 後頭部がサラリと撫でられ小さな音がしてペンダントが外される。
 身体を離してそれを見ると、トップは薄い青色をしていた。
 ルカはそこを指差すと視線だけでレイフォードを見上げて口を開く。

「…今度からここの色、紫のにしてくれるなら着ける」
「ルカ…」
「だからレイも、ここに着けてるの俺の色にして」

 それから手を伸ばしレイフォードの両耳に一つずつ着いている赤いリングピアスに触れながらそうお願いすると、少しだけ驚いた顔をしたあとふわりと微笑み抱き上げられた。
 頬にキスされ今は何も着いていない耳朶を食まれる。

「…っ…」
「分かった。すぐにルカの色に変えよう」
「うん」

 優しい声がどこか嬉しそうに答えてくれて、ホッとしたルカは目の前の首にぎゅっと抱き着いた。

「それにしても、ずいぶんと可愛らしいおねだりをしてくれるな」
「だって、レイは自分の色を俺に着けさせるのに、俺の色は全然着けてくれないから」
「気付かなくてすまなかった。他にも気になる事があったら遠慮なく言ってくれ」
「ありがとう」

 こんな事ならもっと早く言っておけばよかったと思いつつ、どんな色がレイフォードの耳に着くのだろうと楽しみを抱きつつ近付いてくる唇に自分から口付けるのだった。
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