竜王陛下の愛し子

ミヅハ

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元気になーれ

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 少しずつ汗ばむような気温も落ち着き始め、昼間でも過ごしやすくなってきた今日この頃、ルカは城の調理場に立っていた。
 結婚式前だからか、持ち込まれた仕事を片っ端からこなしているレイフォードはいつもの時間に戻っては来てくれるのだが最近疲れが見え始めていて、何か出来ないかと考えたルカは一応は得意料理であるサンドイッチを作ろうと考えたのだ。
 と言っても、さすがに村にいた時のように適当なものを挟んで完成という訳にはいかないから、料理長などに教えて貰いながら作っていく。
 ただ、調理器具の使い方はある程度知ってるものの、火の点け方や調味料が分からなくてそれなりにグダってしまったが、どうにか照り焼き肉のサンドイッチとしゃきっと野菜と茹で卵のサンドイッチが完成した。

「……どう?」

 レイフォードの元へ持って行く前に一緒に調理場に立ってくれた料理長に一切れずつ食べて貰い、ドキドキしながら問い掛けたら優しい笑顔で大きく頷いてくれた。

「とても美味しゅう御座います、竜妃様」
「ほんとか? 良かったー」
「これだけ美味しければ、陛下もあっという間に完食してしまうかもしれませんね」
「だといいんだけど。じゃあ俺、これ持って行って来るな」
「はい。行ってらっしゃいませ」
「ありがとー!」

 乾かないよう清潔な布で包み、小ぶりなバスケットに入れ、調理場にいる人たちへと大きく手を振り執務室へと向かった。
 それをほっこりとした気持ちで見送った料理長と調理師たちはみんながみんな同じように温かい表情をする。

「竜妃様、お可愛らしいなぁ…」
「小さな後ろ姿が右に左に一生懸命動いてらっしゃって、キュンキュンしてしまいました」
「しかも陛下の為にお料理だなんて、いじらしいですね」
「本当に癒されます」

 小さな身体で動き回るルカは城内ではちょっとしたマスコットのような存在になっており、城で働く者たちの日々の癒しとなっていた。
 また、アザ持ちの竜妃として世間に認知されてからは様々な経済効果を生んでいるルカだが、その中で最も盛り上がりを見せたものが何とルカとリックスをモデルとした演劇だ。
 近衛隊に次いで精鋭と呼ばれる〝白の騎士団〟団長であるリックスが膝をつき尽くす姿に一部では盛り上がりを見せていて、あろう事かルカとリックスの叶わぬ恋とやらを題材にしているらしい。
 リックスはルカにそんな気持ちなどは欠片も抱いておらず、ただただ守るべき人だとして護衛についているだけなのに、一体全体どこからそんな発想が出るのやら。
 それらすべてルカの与り知らぬ事ではあるが、偶然にも知ってしまった者の間でルカには知られてはならないという暗黙の了解のようなものが出来た事は、レイフォードでさえ知る由もない。

 リックスと共に軽快な足取りで執務室まで来たルカは、扉の両側に立つバルドーとアルマに向かって手を上げようとし、ハッと気付いてバスケットの持ち手に腕を通すとカーテシーを取ってみせる。
 結婚式では絶対必要だからと必死に練習して、つい最近やっと形になったのだ。

「お上手ですよ、ルカ様」
「とてもお綺麗なカーテシーです」
「へへ、良かった。今って入っても大丈夫か?」
「もちろんです。どうぞお入り下さい」
「陛下、ルカ様がいらっしゃいました」
「ああ」

 二人に褒められ照れ笑いを浮かべたルカは、外で待機してくれるリックスへと一言告げてからアルマが開けてくれた扉を潜り、奥の机で仕事をしているレイフォードへと駆け寄った。
 椅子を回してルカの方を向いたレイフォードが腰を緩く抱く。

「どうした?」
「レイ最近お疲れだろ? ちょっとでも元気になって欲しくて、栄養満点のお昼ご飯作ってきた」
「え?」
「いつも作って貰ってるような豪華な物じゃないけど、元気になれーって思いながら作ったからきっと効くはず」

 バスケットの蓋を開け中のものを取り出し、レイフォードが書類を退けて開けてくれた場所に置く。それから布を取りサンドイッチを見せたら数秒驚いた顔をしたあとふっと表情を緩めた。
 背中が抱き寄せられ頬に口付けられる。

「私の為に作ってくれたのか。ありがとう」
「こんな事しか出来ないけど…」
ではないな。むしろ充分過ぎるくらいだ」
「嬉しい?」
「凄く嬉しいよ」

 顔中に唇が触れて首を竦めていると、ふわりと足が浮いて膝の上に座らせられる。それでもキスが止まらなくてレイフォードの口元を手で押さえたら今度はその手の平に唇が押し当てられた。

「違う、口くっつけるのはもういいんだってば。これ食べて」
「私なりの感謝の気持ちだよ。……ルカ、食べさせてくれないか?」
「え? しょうがないな」

 ルカと出会ってすぐの頃は「自分で食え」と突っぱねられたが、恋人になってからはあっさりと受け入れてくれるルカにはつい甘えてしまい、些細で他愛のない事でもついねだってしまう。
 基本的には何でも許してくれるから、こういう時はどちらが年上か分からなくなる。
 サンドイッチを一つ手にしたルカは、「はい、あーん」と言って口元へと運んでくれた。

「……美味いな」
「やった」
「ほら、ルカも」
「あー」

 昼食という事だからルカも食べていないだろうとレイフォードもサンドイッチを持ち差し出せば半分齧り付く。
 そうしてしばらく食べさせ合いっこをしていたが、三分の一ほどなくなったところでルカの腹が満たされたらしく首を振られた。

「もう食べられない。あとはレイが食べて」
「ああ。ゆっくり頂くよ」
「ってか、飲み物忘れてたな。何か持ってきて…わっ」

 口の中が水分を欲しているとレイフォードの膝から降りようとしたら、脇の下に手が入ってきて抱き上げられ目を瞬いてる間に机に座らせられてしまった。幸いお皿は避けてあるが、座るところではない場所に尻が乗っているのは落ち着かない。

「レイ、ここ椅子じゃ…」
「しー…」
「え? ん…」

 言外に下ろしてと言いたかったのだが、人差し指を口に当てたレイフォードにそう返され唇が塞がれる。舌が差し込まれゆっくりと味わうように口内を舐められるとゾワゾワしてきた。

「ん、ぅ…っ」

 いつもよりも緩慢な舌遣いにじくじくと腹の下が疼いて身体が熱くなる。反応してしまいそうでもじもじしていたら、唇が離れ頬が挟まれてコツンと額が合わさった。

「また作ってくれるか?」
「…うん…」

 こんな事くらいならお安い御用だ。
 頬を挟む手に自分の手を重ねて頷いたルカは、大好きな恋人の首に腕を回すと自分から口付けた。
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