竜王陛下の愛し子

ミヅハ

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同じ存在になる為に

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 返って来た言葉にルカは思わず固まった。
 絶対に無理だと思っていたのに、まさか方法があるかもしれないというのはどういう事だろうか。
 腕を緩め目を瞬きながらレイフォードの顔を見ると頬を撫でられる。

「⋯⋯えっと⋯」
「ルカが竜族になりたいなら、その方法はあるにはある」
「⋯ある⋯?」

 さっきから言葉が上手く飲み込めなくて呆けた返事しか出来ない。そんなルカにクスリと笑ったレイフォードは、手を離すと左手を首の後ろへと回し長めの襟足を左に流して少しだけ首を前に倒し項を指差す。

「これが見えるか?」
「? ⋯⋯銀色の⋯何?」

 示された場所を覗き込むと花びらのような形をした銀色の鱗があり、指先で触れるとツルンとした艶のある表面をしていた。
 不思議な物がついているものだと思いながら見ていると、頬に口付けられ膝の上に座らされる。

「これは竜族の王しか持っていない大事な部分で〝神鱗じんりん〟というのだが、基本的にはあってもなくても、生きていく上では特に気にも留めないものだ」
「じんりん⋯」
「だが、とある理由に限りこれを使う必要があるのだが⋯」

 髪を戻して神鱗を隠したレイフォードの手が頭と腰に回され強く抱き締められた。額や頬に唇が触れ、まるでここ数日の間触れ合えなかった分を埋めるような行動には申し訳なさを感じる。
 情緒不安定だったとはいえ、大切な人を放っておきすぎた。

「⋯⋯その前に、ルカに番の事を説明しなくてはいけないな」
「つがい?」
「番とは、竜族にとって唯一無二の存在を示す言葉だ。私にとってはルカだが、正確に言えばルカはまだ私の番ではない」
「⋯⋯?」

 番が特別好きな人という事は分かったが、番ではないという意味が理解出来なくて眉尻を下げると、少し考えるような素振りをしたレイフォードがふっと笑った。

「王が人間を選んだ場合、契るだけでは番にはなれない。本当の意味で番うにはまず神鱗を使ってルカを竜族にする必要があるんだ」
「え⋯」
「ルカが私の神鱗を飲む事で、ルカは竜族になれる」
「の、飲む?」
「ああ。それに私たちは既に精霊に認められているから、竜族になればルカはもう私だけの番だ」

 まさか本当に竜族になれる方法があるとは思わなかったし、しかもその方法があの鱗を飲む事だなんて驚きだ。

(でも⋯飲むだけで竜族になれるんなら⋯これからもレイと一緒にいられるなら俺は⋯)

 祖母を失った時のような悲しみをレイフォードには味わわせたくない。鱗を飲むという感覚は分からないけど、それだけでいいならルカは喜んで飲むつもりだ。
 だからそう答えようと顔を上げたら、先ほどとは違い難しい顔をしたレイフォードがいて目を瞬く。

「飲めば竜族にはなれる。だが、それには耐え難い苦痛を伴うんだ」
「耐え難い苦痛⋯?」
「身体を根本から作り替える事になるからな。それが一月ほど続き、気が狂って自害を選ぶ者もいる。⋯私はそれが怖い」

 耐え難い苦痛とは、祖母やクレイルを失った時よりも辛く苦しいものなのだろうか。
 落ち着いていた悲しい気持ちがぶり返しそうで堪えるように下唇を噛んだら、レイフォードの親指がそこを撫でおもむろに口付けてくる。すぐに離れたが、彼の方が泣いてしまいそうなほど切ない顔をしていてルカは目を見瞠った。

「もしそのせいでルカが命を落としたら、とてもじゃないが私は耐えられない。あとを追ってしまうだろうな」
「レイ⋯」
「だから、私は確実にルカが生きている未来を選びたい」

 つまりそれは、一緒にいられる時間があと九十年でも構わないという事か。だがそれだと、ルカが思った〝レイフォードに同じ悲しみを味わわせたくない〟という気持ちは成就しない。
 緩く頭を振ったルカは、腕を上げてレイフォードの首に回すとぎゅっと抱き着いた。

「前にも言ったじゃん。俺はそんなにヤワじゃないって」
「だが、自ら命を絶つ者がいるほどの苦痛だ。いくらルカでも⋯」
「俺を信じてよ、レイ」
「⋯⋯」

 顔を上げ、真っ直ぐに紫の瞳を見つめて言えば、言葉に詰まったレイフォードがぐっと眉根を寄せる。
 レイフォードだって本心ではルカに竜族になって貰いたいと思っているはずだ。ただルカの身を案じて口にしないだけで、少しでも長く共にいられるならそっちの方がいいに決まっている。

「レイと同じ竜族になれるなら、俺頑張れるから。絶対死なないし、自分で死んだりもしない」
「⋯⋯約束出来るか?」
「約束する」
「破ったら、私も一緒に逝くからな」
「⋯うん」

 本当は自分が命を落としたとしても生きていて欲しいけど、こんなにも想ってくれるレイフォードにそんな事は言えなかった。
 頷き、自分から口付けて数回啄むと腰が抱かれ舌が入ってくる。久し振りの深いキスに身体を震わせたルカは、舌先で擦ってくる肉厚な舌に軽く歯を立てた。
 ピクリと反応して唇を離したレイフォードが口端を上げて笑う。

「悪戯っ子だな」

 頬を擽られ首を竦めて笑うと再び唇が重なり今度はどちらともなく舌を絡ませ合う。
 最初は無知過ぎて口付けさえ知らなかった。レイフォードだったから、その心地良さも触れ合う気持ち良さも知る事が出来て今は自分から行動に移せるまでになってる。
 この幸せの為にも、絶対に耐え難い苦痛とやらに負けたくない。

「レイ。俺、約束守るから。絶対絶対、竜族になるから」
「ああ⋯信じてる」

 背中が強く抱き締められ胸元にレイフォードが顔を埋める。
 いつもは大人で凛としている彼の甘えるような仕草に笑みを零したルカは、心の中でも決意を新たにし柔らかな金の髪へと頬を寄せた。
 レイフォードの悲しい顔だけは、絶対に見たくない。
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