二十五時、二十五番教室で—アニバーサリー計画は笑いから

第15話 体育館の秘密イベント

　土曜の放課後、校舎の外はひっそりしていたが、体育館の扉の内側には妙な熱気が満ちていた。推進班の面々は「25時のチャイム」と題した秘密イベントの準備に追われていた。
　 会場の中央には、座布団と毛布が島のように並べられている。小春が一つひとつ丁寧に整えており、その上にはポットから立ちのぼる湯気が漂っていた。
　「これで、どんな人でも安心して座れるね」
　 照明は落とされ、代わりに各自の持つ小さなランタンやスマホの灯りが控えめに光を投げている。音を立てられない演目を目指したため、環境は静けさを重視していた。
　 開始を告げるチャイムが鳴ると、大鳳が舞台に飛び出した。声を出す代わりに、全身を使った身振りと大げさな表情で物語を演じ始める。観客の子どもたちが息を呑み、次の瞬間、堪えきれずに笑い声を漏らした。
　 シズカは舞台袖から影絵用のスクリーンを操作し、「第25次影戦」と題した影絵劇を重ねる。必殺技名を叫びたい衝動を、黒い影のポーズに託して披露するのだ。
　 尚史は観客導線を矢印で描いた案内板を手に、静かに立っていた。笑い声にかき消されても、迷う人がいないように。
　 留理加は照明の明滅を秒単位で管理し、イベント全体が滞りなく進むように裏方を回していた。
　 やがて、観客席の真ん中から笑いが広がり始めた。声を出せない演目のはずが、身振りと光だけで観客が反応を返してくる。大鳳が一瞬こちらを見て、誇らしげに笑った。
　 終演後、小春が毛布を回収しながら言った。
　「静かなのに、こんなに楽しいなんて不思議だね」
　 観客は口々に「またやってほしい」と囁きながら帰っていった。体育館の秘密イベントは、まるで幻のように静かに幕を閉じた。