現役高校生にリアルな戦場はマジ無理、勘弁してください……

アイイロモンペ

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第3章 広く人材を集めよう

第18話 活動拠点を構える

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 翌朝、未だ夜も明ききらない時刻に、由紀は尿意を覚えて目を覚ました。
厠で用を足して、部屋に戻ってもう一眠りしようかと廊下を歩いていると、道場の方からなにやら掛け声のようなものが聞こえてきた。


 興味を誘われ道場へ来てみると、笙子しょうこが素振りをしていた。
素人の由紀には技術的なことは分からないが、体幹がぶれていないと言うのであろうか、その姿は力強くかつとても美しかった。
 笙子は、白い道着に、濃紺の袴を身に着け、その長い黒髪は稽古の邪魔にならなうように後で一本に纏めている。
 身長百六十センチを超えると思われる笙子が道着を身にまとい木刀を振る姿はとても凛々しく感じられた。
 形の良い唇からもれる白い息が印象的であった。


 由紀は、しばらく、笙子の素振りを見ていた。
半時程経った頃、ひと段落着いて素振りを終えた笙子が由紀に気が付いた。


「おはようございます。朝から鍛錬ですか?お疲れ様です。」

と由紀は笙子に歩み寄り声をかけた。

「幼少の時からの、朝の日課なのです。未熟の身ゆえお見せする程のものではないのですが。」

「いえ、剣を振る笙子さんは、とても素敵でしたわ。太刀筋がとても綺麗でした。」

 由紀の賛辞に、笙子は少し照れ、顔を赤くしていた。

 道場は、笙子が毎日掃除をしているとのことでとても綺麗であったが、父親が亡くなってから道場は廃業しており、現在は使われていないと笙子は寂しそうに説明した。
 その後も、笙子のことや道場のことなどを少し話して、部屋に戻ったときには二度寝する時間ではなくなっていた。


 由紀は、部屋の戻り着替えると米と卵を持って炊事場に向かった。
 ちなみに、今日の由紀の服装は青のワンピースに、アイボリーのロングカーディガンと、もちろん女装である。
 今日は、この服装で地元の資産家にセールスに行くつもりである。


 由紀は、炊事場に行くとちょうど着替えてきたところであろうかすりの和服に割烹着を着けた笙子が、釜を洗っていた。
 笙子に、白米を十キロと卵を二十個渡し、朝食に使ってもらうように言うと、笙子は「米が足りなくて困っていた。」と言って喜んでくれた。



     **********


 朝食の用意が整うと、広間に全員が揃った。
 今日は、八重も起きてきたが、体の調子は優れないようで、今日医者に診てもらうことにした。
困窮して医者に診てもらうことも出来なかったようだ。
この世界には、国民健康保険はないのだろう。

 琴子は、たっぷりのご飯と卵焼きにはしゃいでいて、「久しぶりにお腹いっぱいご飯食べた。」と満面の笑顔で言った。


 食後、改めて今後の予定について話し合った。
 小原家は元々武士だったとのことで、この屋敷には現在いる広間を除いて十以上の部屋があり、
現在は三間しか使っていないとのことであった。
 由紀たちは、渡りに船とばかりに、しばらくの間この家を借り上げ、人材集めの拠点としたいと八重に申し出た。
 八重も、幾ばくかの収入になれば有難いとのことで、十月まで月額百圓で借上げる事となった。
 その間、八重には療養に専念してもらい、瑠奈には集めてきた娘の教育をして貰うことになった。



 今日は、由紀たちは、八重の伝を頼り地元の名士にセールスに行くこととして、八重に紹介状をしたためてもらった。

 商品は、グラスのセット、ティーセット、ディナーセットで、それぞれ桐の化粧箱に収めてある。
見た目の豪華さを増すため、桐の化粧箱をしつらえたが、一つ五圓も掛かってしまった。
 もっとも、どの商品も原価ゼロの物を各二百圓で売ろうというのだから、この位は必要経費だろう。


 この日、八重の紹介状を携えて三件の屋敷を訪れたが、姿勢よくお嬢様然として振舞う由紀に対する訪問先の好感度は上々で、三件とも携えた商品を買い取ってくれた。
 掘り出し物の人材についての情報は得られなかったが、活動資金六百圓(日本円で約百五十万円)を入手できたのは、順調な滑り出しといえた。

 
 軍資金を携えて八重の屋敷に戻ると、往診に来た医者が帰るところであった。
屋敷の広間で、八重に聞くと、医者の見立てはやはり栄養失調と過労だそうだ。
栄養の付くものを食べて、安静にしていればすぐ治ると言われたらしい。
医者は簡単に言うが、この国では、それが簡単じゃないんだよなと由紀は思った。
みんなが、栄養のある食事ができて、安静に出来る環境があれば娘を身売りに出しはしない。
そう思う由紀であった。


 由紀は、炊事場に行くと白米を追加で五十キログラム提供し、夕飯用に鮭の切り身・ほっけの干物・豆腐・納豆を人数分と各種調味料を笙子に差し出した。

 笙子は、由紀がどこに持っていたのだろうかと疑問に思った。
だが、由紀が「聞かないで」と言うように自分の唇に指を当てたのを見て口をつぐんだ。

 








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