現役高校生にリアルな戦場はマジ無理、勘弁してください……

アイイロモンペ

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第3章 広く人材を集めよう

第26話 桜子からの課題

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 恰幅の良いひげ面の老人が、由紀たちの前に座っている。
ここは帝都ホテルの特別室の応接である。
 老人は、朝から官庁や党本部等に電話をして自身の無事を伝えると共に情報収集を行っていた。
 現在帝都は戒厳令が布かれ非常に緊迫した空気になっているとのことだった。

「君達の言う通りになった。命を救ってくれたことを感謝する。
それで、君達はわしみたいな老体をわざわざ救いに来てくれたのだから、なにか見返りが欲しいのだろう。」

 老人の問いに桜子が答えて言う。

「いいえ、私達は自身への見返りは何一つ要求するつもりはございません。
私達が閣下に期待するのは、長生きをしてしていただくことです。
そして、今と変わらず軍部の歯止めとなってください。
もちろん長生きすることが最優先です、命をかけてまで軍部と対立する必要はありません。
どのみち閣下が幾ら頑張っても軍部の馬鹿共は止められないでしょう。
最終的に閣下に期待するのは戦争の幕引きです。
是非それまで長生きしてください。」

「君達はこの国が戦争に負けるからわしに後始末をしろと言っているのか。」

「ありていに言えば。」

「君はこの国がどこに負けると思っているのだ、まさか大夏帝国ではあるまい。」

「ステイツです。」

「君は、ステイツが大夏との戦争に直接介入してくると言うのか?」

「いいえ、身の程をわきまえない、この国の馬鹿な軍人がステイツに喧嘩を売るのです。」

「そんな馬鹿なことがありえると本気でいっているのか。」

「少なくとも私は本気です。小娘の予想ですので、信じるも信じないも閣下のご自由です。」

「信じる信じないの判断は措いておいて、せっかく救ってもらった命だ、大切にする事にしよう。
長生きすれば、君の予想が正しいかどうかもこの眼で見ることができるだろうよ。」

「ご高齢の閣下に、長生きして働けと言うのは酷なお願いとは思いますがよろしくお願いします。」


 桜子と老人が会話する間、由紀は終始蚊帳の外であった。

 戒厳令が布かれている中で外を出歩くのは危険だとして、由紀たちは老人と共に事件収束まで帝都ホテルに留まることとした。
 結局事件が収束し、安全確認を取ってからホテルを出るときには、二月が終っていた。


      **********


 老人を無事保護した日の夜、帝都ホテル特別室の由紀たちの寝室で、由紀と桜子は向かい合っていた。
 部屋はツインで、由紀はベッドにふちに腰掛け、桜子は向かいのベッドの上で胡坐をかいていた。
 桜子は、風呂に入ったあとで、ブラとパンツ、首にタオルを引っ掛けるという非常にラフな格好だった。どうやら、暖房が効きすぎていて暑いらしい。
 由紀は、せめてなにか羽織って欲しいと思ったが、桜子のいつになく厳しい表情に何も言えなかった。


「さて、由紀よ、今まで何も説明せずにつき合わせて悪かったと思う。
 この事件が起きるかどうか確信が持てなかったのでな。
それに事前に説明するとヘタレのお前のことだから臆するかもしれないし、この世界の出来事に介入することに反対するかもしれないとも思ったので、無理やり付き合ってもらった。

 私たちが、保護した人物だが、おそらく本来であれば命を落としていた人物だ。
あの爺さんは、あの歳でまだ現職の大蔵大臣だ。
あの爺さんはな、奴隷上がりで子爵にまで登り詰めた立志伝中の人物なんだ。
あ、奴隷と言ってもこの国でではないぞ、海外に留学したときに騙されて奴隷に落とされたんだ。

 あの爺さんは、バランス感覚が凄いんだ、この国の国富、財政状況などに照らしてどの位の軍隊が妥当なのかをちゃんと捉えている。
 別に闇雲に軍隊が嫌いなわけではないんだ、あの爺さんが貴族になったきっかけは戦争の際に誰もが不可能だと思っていた莫大な戦費調達を成功させた功績によるもんだからな。
 あの爺さんは、財政の立場から闇雲な軍備拡張を憂いて、軍に抵抗している。そして、今日命を狙われたんだ。
 今の軍部に睨みの聞く大物政治家はあの爺さんしかいないんだ。だから、八十過ぎても駆り出されている。

 由紀、少しこれからのことを考えて欲しい。
 お前は、自分が無難に生きる足固めのために、今学校を作ろうとしている。
 お前のライフプランは、戦争中いまのうちに人材を育成して、平和になったら海運業に乗り出して悠々自適な生活を目指すことといったな。
 もう少し積極的に生きようと思わないか?
 お前は自分が何の力もない高校生だということを自覚していて、なるべく目立たないようにと考えているのは、謙虚でいいとは思う。
 でもな、人からの貰い物とはいえ、カレンさんから貰った腕輪の持つ力も立派にお前の力なんだ。
その腕輪を使ってなにができるかを良く考えろ、お前が習った日本の歴史に照らした場合にこの世界でこれからどんな事が起こる可能性があるかを良く考えろ、その上で自分がどうしたいかを考えるんだ。
 八十過ぎの爺さんが身を挺してこの国を守ろうと頑張っているんだ。
 すぐに答えを出せとはいわないが、改めてよく考えて欲しい。」

 唐突に、そんなことを言われ答えに窮する由紀であった。



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